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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
130/369

借りと後悔と

 後書きはお遊びです。

レイノルドはこちらを見て顔をしかめ、戻ってきた子どもたちに今日はもう終わりだと告げる。

「えー、ひどっ」

「じゃあ、また明日、ぜっったい来てね」

 口々に騒ぎながらも子どもたちは言葉を交わし、別のところへ集まる約束などをしながら去っていく。


 その姿が見えなくなるのを確認してヒューイックに、

「で、そっちの人は?」

「ああ。シャロンに、アルフレッドだ」

 ヒューイックの紹介に合わせて軽く会釈をする。

「あと……ジークは知ってるな?」

「知ってるも何も。ここら一帯で知らない奴はいないだろ。主に悪い意味で。初めまして、俺はレイノルド・ウィーヴァー。……ヒューイック、何の用だか知らないが、あれだ。ここじゃなんだから、場所を変えよう」

と言いつつさっさと背の高い壁と壁の合間の狭い脇道に入り、しばらく歩いたかと思うと、同じような扉が並ぶ内の一つに鍵を差してこちらを招き入れた。


 案内されたサロンはベージュの色合いで統一されており、格子柄の薄い絨毯やタペストリが飾られ、小物棚の上には一抱えほどの木製の帆船が鎮座している。船は細部まで丁寧に作り込んであり、今すぐにでも海上を走り出しそうに見えた。


「これ、すげえよ。特にこのマストと船内への入り口なんか、めっちゃ凝ってる」

「……そいつには、2年かかった」

 ジーク、アルと一緒になってもの珍しげに見ていると、いつのまにか戻ってきたレイノルドがワインと人数分の陶製のカップ、オリーブの塩漬けをテーブルに並べながら言う。

「これ、ウィーヴァさんが全部?」

「呼びにくいだろ?レイでいい。これは木から一つ一つ部品を削ったんだ。中にはいざ組み立てる段になって、造り直した部分もいくつかある」

「レイは、器用だからな。他にも自作の模型コレクションがあるんだ」

 ヒューイックが途中で口を挟む。

「ああ。少し前まで忙しくて手を付けられなかったんだが……急に暇ができたことだし、この機会に新しいのに着手してもいいかも知れないな」

 木製の船を持ち上げ、状態を確かめている彼に、

「あー、その、レイ。言いにくいが……実は、今日訪ねてきたのは、だ。おまえを航海士として雇いに来たんだ」

「は?誰が」

「俺が」

「おまえ、船なんて、ああ、アイリッツの自慢してたアレか。船は悪くないが……断る」

 やはり、というか、当然のごとくレイは断った。


「一応、理由を聞いてもいいか?」

「こんな状況で沖にでる馬鹿がどこにいる」

「それなんだが……どうやら原因がもう少しで掴めそうなんだ。魔物と遭遇した漁師たちの話によれば、海の神とも呼ぶべき神々しい何かを見た、と」

「目撃したのは何人?」

「三件で、五六人はいる。そのうちの一件が、あのローラント号だ。おまえも噂はきいてるだろ?」

「ああ、あの頭がおかしくなったって噂されてる乗組員か」

 ふぅん、と気乗りしなさそうに呟き、レイは棚の隣に立てかけてあった大きめの地図をテーブルの上に広げ、ピンで留める。

 海図にはあちこちに航路や危険地帯の書き込みがビッシリとされ、素人目にも彼の凄さが窺えた。


「場所は?」

「ここの……岩礁地帯の奥じゃないかと……」

 ヒューイックの指が地図上の航路を外れ、×印が多い箇所をなぞる。

「あー無理。諦めろ」

「おい、まだ話も途中だろうが……」

 咎めるような声に対し、

「考えるまでもない。ここら一帯はただでさえ危険な上に、天候不順、魔物付き。引き受ける奴はいないよ」

 ギシ、と椅子を軋ませたかと思うと、よっ、と足をテーブルの上に投げ出した。

「そこを頼んでるんだ。魔物の被害は徐々に増えてきてる。今のうちに、なんとかしなければ」

「なんとかしなければって言われてもな。だいたい原因がそこにあると決まったわけじゃないんだろ?連れていくのは、そこらの漁師か、冒険者か知らないが、もし間違いで犠牲を出したら非難が一気に集中する。割りに合わない、やめとけ」

「……責任は俺が取るつもりだ。ギルドに人集めも頼んだ」

 ヒューイックが強く拳を握りしめる。


 しばらく沈黙がその場を支配した。とても口を挟めるような雰囲気ではない。ジークも何か言いたそうにしていたが、珍しく空気を読んでいた。


「おまえが、か」

 レイはテーブルから足を下ろして顔をしかめ、しばらく嫌そうに頭を振ったり、地図を睨んだりしていたが、やがて、頷いた。

「わかった、引き受ける。報酬は既定の倍払え」

「……すまない」

「言ってる意味が分からないな。よく考えたら、誰もなしとげたことのない功績を残すチャンスかもしれないから引き受けただけだ」

 そう言ってレイは地図を束ねて元の位置へ置く。

「そっちの、シャロンとアルフレッドは行くのか?」

「そのつもりだ」

 真剣な眼差しに答えるように頷くと、馬鹿ばっかりか、と彼はワインをカップに注ぐと一気に飲み干した。


「ふぅ。そういや、ケインにはこの話は?」

「他の奴に頼んでる。どの道、おまえが来るならとあっさり引き受けそうだが」

「あいつ……本当に考えなしだからな。断ればいいものを」

と肩を落とし、また深いため息を吐いた。



ヒューイックは レイノルド を なかまにした!

「同情」と「大きな借り」を てにいれた!


 なさけなさ が 1 あがった!


 こうかい が 5 あがった!

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