劫火と火種
流血表現等あります。それらが苦手な方は気をつけてください。
虚ろな眼差しでドサリと倒れ伏すダンキンに、毛穴が一気に開くような怖気を感じて、エドウィンは硬直した。
こんな、あっさり……。
かろうじてなんでもない風を装い、血濡れの彼女に対峙する。カルジャンたちはまだ来そうにない。
いや、もし来たとしても、勝てるかどうか。
エドウィンは唾を飲み込み、それでも時間を稼ぐため、言葉を舌に乗せる。
「それで、どうするんですか?すでにこの場所は警吏に包囲されています。あなたの逃げ場など、どこにもありませんよ」
倉庫の入り口から風が吹き、彼女、レイラの栗色の髪を揺らす。それを決して読みとれない表情で払い、剣を持ち上げて、
「それは、どうかしら」
艶やかに笑う。
殺される。彼女は躊躇うこともないだろう。
そう判断したエドウィンはほぼ無意識に、手を服にこすりつけ、腰から銃を抜いて発砲した。
凄まじい轟音とともに弾が発射され、反動で後ろへ吹き飛ばされながら見た彼女に、届く直前、透明な壁がレイラを覆い、その身を包み込んだ。
ギィィィイイイイン
その波動はレイラを守り、その後静かに霧散する。あの腕輪は……!!
吹っ飛ばされたエドウィンは、ふらつく頭を振り、まだ呆然としている彼女より早く立ち直るとそちらに再び銃を向けた。
「終わりです。今のは腕輪の効果だ。その腕輪は私が発見したもの。溜めた魔力と引き換えに一回しか発動しない。この銃には適わない。……諦めろ」
手負いの虎ほど怖ろしいものはない。
銃を構えながら用心しつつ慎重に距離を取っていると、追い詰められたはずのレイラは不敵に笑い、何かをこちらに投げつけた。
「……なッ」
もうもうと辺りに煙が立ち込め、視界を奪っていく。
「覚えておいて、エドウィン。次会ったときは必ず………す」
そう吐き捨て、うすぼんやりとした人影が、煙の向こうへと消えていった。同時にエドウィンは煙の届かない場所へ後ずさり、銃を下ろして深く息を吐いた。
「いや、もう会いたくないので……忘れます。本当に、ギリギリだった」
この銃は単発式。接近戦だと一度発射してしまえば、後がない。
「おい、無事か!?答えてくれ!」
走ってきたカルジャンに無事だと返事をして、足元の死体を見やる。男爵との約束は、犯人を捕まえること、だが――――――。
「お、おい、そ、そいつはなんだ?」
「ええ、この男が、この一連の事件の、真犯人です」
エドウィンはダンキンの死体を蹴飛ばし、にっこりと笑ってみせた。
結局、盗まれたものは半分以上戻ってこなかったが、その場にいた連中はすべて警吏によって牢屋にぶちこまれた。彼らは、人生のほとんどを獄中で過ごすことになるだろう。
形ばかりの取り調べの中、彼女の過去について、ちらりと耳にする機会があった。
十六の歳で政略結婚の末、借金のカタに娼館行き。
貴族社会では、特に珍しくもなんともない話だった。
※おまけ
男爵に(偽りの)報告を澄ませたエドウィンが、友人にお礼を言いにいくと、前とはうってかわってすっきり身支度を整え髭も剃ったガーディスが出迎え、
「いいところに来た。おまえに言いたいことがあったんだ。……俺のとこから持ってった銃返せ」
爽やかに笑いながら恫喝した。
「…………いっとくが、おまえから渡したんだぞ」
「ああ、どうも研究中は余所へ意識がまわらなくていかん。これには全財産をほぼ注ぎこんだからな。っておい、発射してあるじゃないか!」
銃口の匂いを嗅ぎ、騒ぎ出す。
じゃあ、いったいなんのために渡してきた。鈍器か。
「ピュピュリアの研究がうまくいったら、仕組みを調べるつもりでいたんだ」
ガーディスは銃を引ったくり、テーブルの上に置いたかと思うと、継ぎ目に細いナイフを差しこんだ。
その様子をエドウィンは苦く見つめながら、
「で、研究はうまくいったのか?」
「そうなんだ、聞いてくれ。ピュピュリアは、心臓の病からくる、むくみに効く。これはすでに実験済みだ。間違いない」
生き生きとピュピュリアの中に含まれる有効な成分について語りながら、どんどん銃を分解していく。
「おや。どう戻すんだったか」
「おい……」
「冗談だ。戻せないわけないだろうが」
こいつの冗談は、本気と見分けがつかない。
エドウィンが脱力していると、ガーディスがそうだ、と言いながら振り返る。
「ピュピュリアの精製薬だが、こんな歌い文句はどうかな?天にも上る妙薬、ここに極まれり」
「徹夜明けの変なテンションを持ち込むんじゃない」
一応、突っ込んでおいた。