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異郷より。  作者: TKミハル
 番外 リリアナとエドウィン
110/369

 捜索

本文はエドウィン視点です。2014年2月19日一部加筆修正。

 それから三日。男爵家にいた金髪の女性がセリーナという名前で、キッシンジャー男爵長男が落とそうと必死になっていた女性、というところまではメイドたちや長男のレイノルド本人からかろうじて聞き出したものの、どうやら酒場で一人でいるところに声をかけたらしく、身元の確認も曖昧で要領を得なかった。

 高級住宅街なので庭の広い豪邸ばかりで、付近に聞き込みをしてもあまり成果はなかった。


 このままでは、男爵親子の八つ当たりの標的とされかねない。


 筋骨隆々とした監視役を引き連れ、また今日も酒場兼ギルドへ向かう。


 監視役には盗人を捕まえるための人集めだとあらかじめ言ってあるので咎められることはなく、果実酒を飲みながらおおっぴらに酒場の主に首尾を尋ねると、手頃なパーティと二、三組連絡が取れたというので、彼らと昼下がりと夕方日没前にそれぞれ会うことにして、そこを出た。


「ちょいとごめんよ!」

 入口から出た瞬間、薄汚れた少年がぶつかってきて、裸足でパタパタと走り去ってゆく。


 咄嗟に懐を確認したが、隠し持っている銃も財布も盗まれた様子はなく、続いてポケットを探ると入れておいた小銭の代わりに布切れが指に触れる。

「サイフをやられたのか?」

 監視の男が珍しく話しかけてきたので、いや小銭を盗られただけで済んだ、と答え、そいつが目を離した隙に布切れを取り出すと、毛虫の這ったような汚い字が飛び込んできた。


 ‘マルサル通り、キャズビン酒場’


 先ほどの浮浪少年はどうやら片目男の仲間らしい。どんな相手であれ、味方がいるのはわずかなりとも心強い。

 馬車を拾い、手がかりが見つかることを願いながらその酒場へ向かう。


「……いらっしゃい」

 マルサル通りを隅から隅まで歩き回り、やっと見つけたキャズビン酒場は、木のテーブルには酒と思しき液体がこぼれ、床下には食べ残しの骨の散らばる、いかにも場末という感じで、白髪にしわだらけ、枯れ木のような体つきの老人一人がカウンターに座っているのみだった。

「ご主人、他の客は?」

「椅子なら、どうぞご自由に」

「椅子……?いや、男爵家の盗難騒ぎの調査をしてるのですが、何か知っているなら」

と銀貨を数枚置いてみたが、

「はいはい、イ-ル酒はないがマヌエラ酒ならありますよ」

老人は真面目な顔で噛み合わないことを言い、なんともいえない匂いの漂うマヌエラ酒を運んできた。

 隣には監視の男がいて、イライラと用事が済むのを待っている。


 エドウィンはふと思いついて、その液体には口をつけず、金貨を目立たないよう一枚コップの下に入れ、手で押しやってみる。

 おや、気に入りませんかといいながらひょいと老人がコップごとその金貨を受け取り、さりげなく袖の下に仕舞う。

「そういえばお客さんを探してる人がいましたよ。ほぼ毎日日没に来て、ここで一刻ほど飲むんで、一度話をしてみては?」

 そう呟いてどっこらしょと腰を上げ、奥の食器たらいに水を入れると、そこに止まっていた小蠅がぶわっと飛び交い始めた。

「それは、どうも。……失礼」

 断ってその酒場を出、高くなった陽の下を、慌てて待ち合わせ場所へ向かう。


 昼下がりに会ったパーティは、気さくな青年たちの集まりで、未知なる冒険への期待に目を輝かせながらこちらの事情を熱心に聞いていた。またギルドを通して話をすると彼らに告げて別れ、軽職を取ってから夕方、再び別のパーティと会う。


 さんざん待たせてやってきたこのパーティは、中年の傭兵らしき集まりで、すでに飲んでいるのか赤ら顔で、テーブルにつくなり、まず料理と酒を注文した。

 このメンバーにも話をしたが、こちらはどうもあれこれ仕事をやっていて、そこそこ裏事情にも詳しいらしく、エドウィンが男爵家の盗難を話すと、頷いて、最近出張ってきている盗賊グループの話なんぞを披露してくれる。

 若干引き受けるのを渋っていたものの、リーダーが金額次第ではと言ったので、ここはと奮発して彼らに依頼することに決めた。……ああ、また金が減っていく。


 気持ちを切り替え、ギルドにもそれを伝えると、さっそくジョッキで酒を飲んでいるリーダーのカルジャンに、キャズビン酒場へついて来てくれるよう頼むと、げっ、と嫌な顔をされたが、しぶしぶ、

「いきなりそこか……旦那も人がわりぃぜ。おい、野郎ども!ケツの穴縮めんじゃねえぞ!」

 残り二人の髭面とつるりとしたはげ頭の二人は口々に、

「おうよ」

「見くびんじゃねえ!」

と叫び、荷物をまとめてそれぞれ立ち上がったので、馬車にぎゅうぎゅう詰めになりつつ、夜のキャズビンへ向かうことになった。

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