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異郷より。  作者: TKミハル
 番外 リリアナとエドウィン
107/369

 外と内

 リリアナ視点(短め)→エドウィン視点


 リリアナのこれまでの経緯……娼婦から血のにじむような思いと努力をして闇オークションのオーナーになりました。

 闇オークションを任されているとはいっても、その地位がまだ確立したわけじゃないから、部下は信頼できない。こうして自ら品物集めに奔走するのが一番てっとりばやい。


 女のオーナーなんて所詮客寄せで、その代わりはいくらでもいる。それでもかまわない。まず自分の力量を示し、地盤を固めていくのが先決だから。


 ベルベットの敷布がかけられたソファに身を沈め、器に盛られた葡萄を一つ、二つ摘んで口へと運び入れる。

 

 でも、なぜだろう。やっと手に入れた居場所のはずなのに、これからのはずなのに。……まるで檻の中で鎖に繋がれているように感じて、すべてをぶち壊したくなるのは。


 ぼんやりと思考を巡らせていると、バタンと音を立てて部屋のドアが開き、席を外していたレイノルドが帰ってきた。


 瞬時に作った憂い顔でじっと見つめると、彼は緊張の面持ちで、

「どうやら、屋敷に泥棒が入ったらしい。今、父さんが対処している」

そう低く告げる。

「……怖いわ」

 そう呟いて身を寄せると、レイノルドはこちらの肩と腰を抱き寄せ、

「大丈夫だよ。たとえ使用人誰かの仕業だとしても、そんな恩知らずはすぐに罰してやる。君のものは耳飾り一つだって盗ませやしないさ」

と耳元で囁いてくる。


 その手を弱弱しく握り締め、瞼を伏せた。今さっき盗んだ品物と、それを無事運び出すルートをもう一度頭で反芻しながら。




 エドウィンが無事銃を床下に隠し終えると、間を置かずしてキッシンジャー男爵が、守衛らしき厳つい男と再び戻ってきて、険しい顔でこちらを睨んでくる。


「商談は中止だ。わしのギャラリーに置いておいた貴重な品が一部、なくなっておるのがわかった。おまえが来てすぐのこの事件……おかしいとは思わないか」

「……私が盗んだ、と?」

 男爵は苦い薬でも口に含んだような表情で頷き、

「その可能性は高い。おまえは商人だ。いろいろな品を集めているらしいな。ふとわしのコレクションを見た拍子に欲しくなったんだろう。……おい、こいつの荷物を調べろ」


 主人の命令で守衛らしき男がうむをいわさず荷物を奪い取り、中身をさらけだす。その中に例の遺跡で発見した腕輪があるのを見たエドウィンは顔色を変えそうになり、慌てて取り繕った。


 くそ、銃を隠すのが手一杯で……


 男爵は中に入っていた壺やら、変わった石やら、薬やらと同じようにその腕輪もじろじろ眺めていたかと思うと、特に興味を惹かれなかったのかすぐに視線を違う方へ移したかと思うと、

「む……ひとまずわしのコレクションらしきものはないようだが……これらは預かっておく。どこに隠されているやらわからんからな」

それらをすべてそのまま没収した。


「私は神に誓って貴方様の品を盗んだりしてません。ここに通されてから部屋を出てもいないのです」

「ふん、口だけならなんとでも言えるわ」

 男爵は鼻でせせら笑い、ふと、いいことを思いついた、というように、

「なるほど。そこまでいうならチャンスをやろう。これから、わしの使用人たちをここへ呼ぶ。そいつらを取り調べて、犯人と、そして盗まれた品を探し出せ。もしそれができたなら、おまえの疑いを晴らしてやろう。さもなくば地下の牢獄行きだ。……拷問具も最近使っておらんから寂しがっているだろうて」

ふひひ、と下卑た笑いを洩らす。


 ……余興のつもりか。


 エドウィンは唾を吐きたい気持ちをぐっと堪え、

「……わかりました。犯人捜しを、引き受けましょう」

そう、頷いた。


 さて、それからしばらくして、品物が盗まれたと思しき時間帯に屋敷にいた疑いのある使用人たちが続々と部屋に集められた。彼らはすでに事情を知らされているのか、一様に顔色が悪い。


「さて、まずはそこの婦人――――――メアリという名前でしたか」

 三人のメイドのうち一人の名を呼ぶと、彼女は叫んだ。

「あたしじゃありません!……そこのカトリーヌです!彼女、ギャラリーの掃除を任されていたんです!」

「な、何言ってんのあんた!そういうあんただって、事件が起きたって時、ちょっと休憩だとかいってふらふらどっか行ってたじゃないの!あんたが盗んだんでしょ!」

「違うわよ!……この人、自分が疑われたくないからって嘘言ってるんです!……ああ、そういえば、そこのステラなんかも怪しいです。彼女、前々からギャラリーにあるあれが欲しい、これが欲しいって、そんな話をしてたんですから」

「ち、違う!あたしじゃないッ」


 メイドたちの口喧嘩に触発されたのかその横では給仕や召使いの男たちも口々に自分じゃない、と主張し始める。


「俺じゃないですよ!こいつ怪しいですよ。前に飲んだとき金が欲しいってぼやいてたんで」

「なんだと!おまえこそ娼館通いが過ぎて財布空っぽじゃねえか!おまえがやったんだろッ」


 彼らの言い争いは次第に熱を帯び、掴み合い、殴り合いの喧嘩にまで発展し、最終的にエドウィンが部屋の隅に置かれた花瓶から花を抜き、水をかけて鎮静するまで収まりを見せなかった。

 この社会に人権という言葉はないので、もし庶民が権力者に疑われたなら拷問され、それで認めたなら処刑されて終わりです。それを防ぐには、賄賂を渡すぐらいしかありません。

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