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異郷より。  作者: TKミハル
 番外 リリアナとエドウィン
103/369

 遺跡探索の現場から

 エドウィン視点。暗くなりようのない話。


 この時点より少し前のリリアナ:娼館から抜け出そうとあがいてます。

 遺跡探索というのは、なんにせよ金がかかり、骨の折れる仕事である。

 だいたいにおいて、その周辺には野盗が出没し、さらに近づけば近づくほど魔物との遭遇率が高まっていく。


 エドウィンが未だ知られざる遺跡があるとの噂を聞きつけ、はるばる王都から西へ旅をして、護衛を何回か雇い変え、野盗を防ぎながら数ヶ月。


 やっと辿り着いた砂漠の縁にある町で、地元民のいるパーティに護衛を頼み、根拠があるかどうかもわからない噂話を手がかりに探索を続け、どこまでも砂丘が広がる、地元の男がいなければ、進む方向さえわからず野垂れ死にしそうな砂漠の中、長い苦労の末に砂に埋没しかけた石柱の名残りを発見した。

「……」

 歓喜に心躍らせる自分とは違い、なんとなく気まずいような動揺が護衛パーティのあいだに広がる。

 この遺跡は、信仰心の強い土地柄なだけあって地元民の一人がその場で神に立ち入りの許可を得る祈りを捧げ、それが終わるまでのあいだに入るのだが……。

「俺は嫌だぜ。あんた一人で入りな」

 男たちは誰もが忌避の表情を見せていたので、エドウィンだけが石柱のあいだにある硬そうな土の洞穴の中に入り、ランタンを点けてその先にある、石の扉を念入りに調べていく。

「……」

 やけに汚れが少ない。もっと土を被っていてもいいはず……。嫌な予感がする。


 がっしりと扉をつかみ、思いきって押せば、少しずつ扉に幅が空き、やっと人が一人通れるほどになったのですぐに潜り込む。


 入った瞬間、すぐに先客に荒らされた中の惨状が目に飛び込んできた。

「ああ、これはひどい」

 半ば崩れかけた石室の中の石棺は、死者に用はないとばかりに中の人骨が投げ出され、装飾の類もすべてが持ち去られている。


 エドウィンはまずカバンから魔力の磁場を測定する振り子を、布に覆った状態で出した。強力過ぎる磁場に接触すると壊れてしまうので、注意しなければいけない。

 しかし、予想と違い振り子はぴくりとも動かない。どうやら、この場所はひどく弱い“力場”のようだ。

 まあ、力ある場所はその分守りも固いため、こんなふうに荒らされることもまずないのだが。


 今度は振り子を取り出し周辺を探ってみると、失敗作置き場のように様々な焼き物が転がっている場所の、水差しのような形状の底に反応を示したので意を決して壺を割ってみる。


 ガン、ガン、ゴシャッ


 こんな現場を見られたらと思うと冷や汗ものだが、布でくるんだので幸いなことに派手な音はたたず、外の男たちが来る気配もない。


 厚焼きの壺の底からは、細工の細かい腕輪が現れたのでそれを布で包み豚肉と同じ場所に入れカバンの奥に仕舞うと、あとはまわりの壁や石棺の文字を手帳に丁寧に写し取ってからその部屋を出た。


 護衛パーティの、ギブソンかギブスだったか、そのような名前の男が首尾を尋ねてきたので、

「遺跡の文字で、興味深いところがありました。それは―――」

と説明しようとするといきなりもういいと手を振ったので仕方なく手帳を仕舞い込む。

 続いて地元民の男が、何か持ち出したりなんかしてないだろうなと疑うのでカバンの中身を見せる。

 これはなんだ、と食料の袋を示したので、

「豚肉ですよ。なんなら中身をお見せしても、」

と言いかけると、極端に豚を嫌う彼は即座に顔色を変え、横を向いて吐きそうな仕草をし、遠ざかった。


 そうこうして無事その小さな遺跡(?)の探索を終え、護衛に依頼料から道中の薬使用料を引いた差額を渡し、造りは陳腐だがもっとも治安のよいとされる宿を取った。


 旅費と護衛費がかさみ、あの腕輪以外には大した収穫もなかった今回。何か策を取らなければ赤字どころかこの先生活が立ちいかなくなるのは必至だ。


 しかし、エドウィンは慌てず騒がず、地域に溶け込むため伸ばしている髭を手入れして、夕方の市場へ繰り出した。


 当たり前のことだが、ここでは肌をさらすような薄着の女性も、髭を剃ってつるつるにしている男性もおらず、砂埃や照りつける強い日差しも相まって暑苦しいような気分になってくる。


 人混みを縫うように歩き、市場でよさげな焼き物の壺を十数点購入すると、再び宿へ戻り食事をすませると、宿の主人にしばらく籠もるが放っておいてくれと頼んで自分のカバンから染料と彫刻用ナイフを取り出し、綺麗に汚れを落とした市場の壺へ、自分の知識を総動員しつつ不可思議で神秘的な文様を彫り、染め付けていった。


 手元にあるわずかな携帯食料しか消費せず、ほぼ飲まず食わずで三日間。どうにか自分でも、パッと見には、これは……!!と感心するような出来栄えの壺や焼き物が十数点完成した。

 日当たりのよい場所に置いておいたおかげで、ほどよく乾いていい色に仕上がっている。


 さらに万全を期すため、あの遺跡の近くで集めておいた土を塗り込め、これも同じように日干ししてからたった今掘り出したばかりだと言わんばかりになるよう手で細心の注意を払いながら土を落とした。


「この出来なら……」

 不審な点がないようどの角度からもチェックして、ひとつひとつ布に包み、背負いカバンの中に欠けることのないよう収めれば、あとは、貴族や金持ちの好事家に高値で売りつけるだけ。


 一仕事終えたエドウィンは宿の一室で、満足そうにため息を吐いた。


 

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