かぼちゃってすごくね?という話
かぼちゃってすげーよね。
いやなんの話だよと言われそうなので、順を追って話そう。
話は去年の5月末まで遡る。今年の夏野菜の陣地が決まって、決まったついでに余った畑が出た。南北に2メートル東西に6メートル。分かる人には分かるはずだ。
「すっっげえ微妙な面積だ……」
もう1.5倍の面積があるなら迷いなくメロンを植えるだろう。だがこの広さで植えると、我が家の黒ボク土は生育初期に蔓ボケを必ず起こすので面積のなかに収まらない。しかも無理に収めようと蔓返しすると湿気が抜けにくくなって病気が蔓延してしまう。
ならほかの……冬にあんこにして食べる用の小豆が頭を過ぎるが、いやまてと頭を振って選択肢から消す。楽しみにするのはいいが梅雨明けの猛暑にブチ当たってせっかく発芽したぶんが枯れてなくなるのがオチだ。何年それを繰り返した?いい加減学べ暇庭。
「ああ……何にすっかな」
面倒ならそのスペースは何も作らなくても良いのだが、そうすると今度はその場所に生える雑草の草取りで自らの命を7月末の炎天下に差し出すことになる。それもダメだ。その作業は俺かオヤジが墓に入るハメになってしまう。
その時、脳裏に閃くものがあった。
「……貯蔵用白かぼちゃ……!」
何年も前に仕事で扱った事がある。べらぼうに堅く、果皮が真っ白で馴染みがないため、知っている人以外にはそう売れるものではない。だが、白かぼちゃのすごいところは何と言っても日持ちの良さだ。
表皮に傷さえつけなければ3ヶ月は余裕で保つ。仕入れたのを忘れて年を越してしまった在庫は、9月に仕入れてからなんと半年の時を越えて売り場に並んだ。
バナナ箱に入れたまま忘れられ在庫の白かぼちゃに気が付き、廃棄になるかとため息を吐きながらダメで元々で作業場備え付けのかぼちゃカッターで真っ二つにした時の、鮮やかなオレンジ色のかぼちゃの中身。
大丈夫だ。食える。そう判断して1/4カットにしたものを自分で買って、職場のとうもろこし蒸し器で蒸して、昼休みに食べてみたのだ。
衝撃の食味だった。腐っていないどころではなかった。さつまいもで経験したから分かる。これは、熟成されているのだ。砂糖でも混ぜたかのような強い強い甘み。でんぷんは粒子がかなりきめ細かく滑らかで、自然物とは思えなかった。バターをぜいたくに練り込んだかぼちゃパイの中身。そういう印象だったのだ。存在を忘れられていた半年ものの掘り出し商品ということで及び腰だった仕事場の仲間も、おいしいと分かったとたんにかぼちゃの取り合いになった。ゲンキンなヤツらだほんとうに。
脱線した。話を戻そう。
そんなわけで、畑の余ったスペースに、長期保存の効く白かぼちゃを作ってみようかと思ったのだった。
……まあ結果から言えば、私の見立ては甘かったのだが。
「種は普通の種だな……」
種苗店で買った白かぼちゃの種。手のひらに取り出すと、普段食べている黒緑の皮ものとの見分けはつかない。大きくも小さくもないし、形も普通のかぼちゃの種といった感じである。
6月を目前に、もうすでに気候的には暑くなってきつつあった。苗用ポットでの育苗は、日影で土が過熱しないように気をつけながら行う。買ってきた種5粒のうち4粒が無事発芽し、本葉が出てきたら間髪入れずに畑の空きスペースに4株を植え、稲わらでマルチング。これが地獄の扉を開くことになる。
どうせ収穫は初秋なので、放って置いていいだろうと思っていた。まして今回は肥料を何も施していない。メロンでさえ暴れるほどの肥やしが土のなかにあるのだから、無肥料でちょうどいいだろうとタカをくくっていたのである。
「……え?は?」
梅雨の雨の中、そんな言葉を漏らした。
ナスの面倒を見に来た私は、ナスの陣地に勢いよく押し寄せる白かぼちゃの茎を目にして愕然とした。
畑に植えてから3週間。白かぼちゃはその本性を表した。日に数センチほどもとめどなく伸び続ける蔓。
暴れているのか?と思って葉をめくると、否、ちゃんと雌花のつぼみが膨らみつつある。蔓ボケなら雌花は腐って落ちる。要はこの状態がこの白かぼちゃの平常運転なのだ。
「おいおいおいやべーよ」
家の資材置き場まで走って行き、鉄パイプを数本持って畑まで戻る。まずいと直感が告げていた。このままではナスの陣地がかぼちゃの蔓に蹂躙されてナスが実らなくなる。かぼちゃの葉っぱは大きいので、陽射しを遮る力が高いのだ。ナスのために組んだ支柱に這い登られたらナスは終わりだ。
慌てて白かぼちゃのための立体支柱を組む。欲を言えばアーチ状にしたいが、アーチ用の鉄パイプはナスやトマト、ゴーヤにも使っているのでその時持ち合わせがなかった。仕方なく垂直に鉄パイプを組んでジョイントで固定し、不格好な鳥居のような形になった。鳥居の足部分に伸びてきた白かぼちゃの茎を結束バンドで結わえる。これでどこまでも茎が横方向に伸びるのを防ぎ、高さを稼いでかぼちゃの茎の行き場をコントロールするのだ。
だが。
「なんだコレ……!止まんねえ……!」
7月頭。粗末な鳥居は白かぼちゃの蔓に完全に飲まれた。鳥居の両足に結びつけた茎はたちまち上部まで達して緑のゲートと化している。そこら中でかぼちゃの花が咲いてミツバチが飛び回っていた。ついでにナスはかぼちゃに最も近かった2株がとうとうかぼちゃの茎と蔓に絡まれ、梅雨明けを迎えることなく葉を散らした。
白かぼちゃの暴威はまだ続く。梅雨明け間近の7月半ば、ナスとは逆側に伸びていく蔓が、遂にお隣さんの畑へ迫っていく。当然ほっぽらかしては置けない。暇庭家のご近所さんへの覚えを悪くしてしまった先に、喜ばしい出来事など起こるはずがないのだから。
仕方なく蔓返しをすることにした。地面を這い伸びる茎の成長点を断ち切って、茎を自分の畑の方へ向けてやるのだ。ここで私は白かぼちゃの暴走の真相を知ることになる。
断ち切った茎を持ち上げようとしたその時。白かぼちゃの太い茎から、それ自体の質量だけでない、異様な重みを感じた。ぐいと力任せに引っ張り上げると、ブチブチブチ……と音を立てて持ち上がる。手応えに異常なものを感じてよくよく見てみると。
「うわっ!?茎から根が……!」
畑の土に接地した茎から、白い根っこがワシワシと伸びている。重かったのは茎が土に根付いたせいだった。株元とは別に、土に触れた茎からはどこでも根っこが生えていた。ということはこの2×6メートルの用地を覆い尽くした白かぼちゃの茂みは、この用地全域から今あるだけの栄養を吸い上げて育っているのだ。というか、ナスの領域に踏み込んだところからはナスのために施した肥料もガンガンに吸い上げているわけで。
「お前……そんな強かったのかよぉ……」
騙された。
騙されたって何に?それはあの白い楚々とした白かぼちゃの姿とか、ひと株に4〜5個実らせるというタネの袋に書いてある育て方とか、これまでに畑で育ててきた歴代のかぼちゃたちのだいたいの勢いがどのくらいかとか。
……否。認めよう、騙されたというよりは。そう、間違った思い込みだ。そういうもんだと思って育て始め、そういうもんではなかったのだ。自分の失敗だ。
大概の失敗は痛い目を見るまで経験値にならない。
愚者は経験から学ぶと言ったのは誰だったか。今にも体からカビが生えるかと思うほどのベットリとした梅雨の湿気の中、雑草すら生える余地を失くしたかぼちゃの密林の中を這いつくばりながら、遅すぎる後悔が汗になってボタボタと滴っていった。
梅雨明けと同時に、流石に白かぼちゃの暴走は止まった。雨による水分の供給が終わったのと同時に、実を結び始めたかぼちゃは実を大きくするのに養分を使い始めたのだろう。葉が茂っているのでよく見えないが、手でかき分けるとすでに白い果皮のかぼちゃがあちこちに出来ている。
ひと株に4〜5個?御冗談を。探せるだけでもひと株に10個は実がついているし雌花もまだまだバンバン咲いている。最終的に何個収穫することになるかさっぱりわからなかった。
夏の猛烈な暑さにもよく耐えた白かぼちゃ。9月の秋雨を迎えると遂にうどんこ病に負け、葉が枯れ始めた。ここまでで3ヶ月半。まだ暑さは残るが覚悟を決め、彼岸前に収穫となった。
「……これどこに置こう……」
あまりの量に絶句する父の隣で私もまた放心していた。
軽トラックの荷台に山盛りになった白かぼちゃ。たった4株からしめて82個。おい誰だひと株に4〜5個とか言った奴。収まんねえじゃねーか。4倍だぞ4倍。
かぼちゃって摘果するものなのかなぁと思いを巡らせるが、かぼちゃを摘果しながら作った経験が1度もないし、ひと玉の重量はばらつきはあるものの1kg〜2kgと、別にカボチャとして異様に小玉になったりはしていない。これでいいのかどうかは味わうまで分からなくなった。
と、いうわけで味見する。包丁では刃が通らないので鉈を持ってきて屋外でフルスイングしほとんど叩き割る。割った断面から見る種ワタの具合は熟している感じがした。ワタそのものがふわっと柔らかく、素手でかきだせる。ここまでやったら台所へ突入。白かぼちゃの表皮は硬く、熱を通しても食べられないので、蒸し器で蒸した後に箸で皮を剥がすとペロリと綺麗に取れた。
父と2人で白かぼちゃを頬張る。
「……ん、いたって美味いかぼちゃだな」
父が言う。私も2切れ目を食べながらうんうんと頷く。
採りたてのかぼちゃはまだ糖度は低く、甘みはまだそこまで強くない。が、この高デンプンの肉質は確かに美味だ。飲み物が欲しいほどのホクホクした食感で、しかしザラつきや果肉の中の筋が生むズリズリした不快感がない。キメが細かい証拠だ。
「宅男。これ、売るか?」
「うん……直売所持ってく。食いきれないと思うもん」
蔵に一応入ったものの、80個、総重量140kgものかぼちゃはとてもではないが消費しきれない。安くていいから食う分残して売っちまえということになった。種代はしっかり回収したうえにわずかだが全く想定外の収入になった。
そんなこんなで、思いつきで植えた白かぼちゃでうっかり地獄を見たのだが、これは冬至かぼちゃにするのには大変素晴らしい品種だった。
腐れは多少出たものの、冬まで土蔵の中で熟成されたかぼちゃはぐっと甘みが引き立って、砂糖など入れなくてもしっとりとかぼちゃ餡になって本当に美味い。マッシュして水と牛乳を加えて煮立て、少しシチューのもとを入れるとカボチャスープだ。これも甘みを存分に感じられる。畑でのあの暴れ方からは想像もつかない優しい繊細な味。
育てていたときはこんな手に負えぬもの二度と植えるものかと思っていたが、こんなに美味いと心が揺らぐ。今使ってない畑を全面使っちゃうかなあなどと懲りずに思いつきで考えながら、今宵も白かぼちゃに舌鼓をうっている暇庭だった。ね?かぼちゃってすごいでしょ。
初挑戦の作物でドタバタするのは結構よくある話だが、白かぼちゃは過去最も驚かされた作物になった。あの茎から生えてくる根っこは画像があればお見せしたいほどだ。収量も素晴らしく優秀だった。ちゃんとした面積に植えて伸ばし放題にしたほうが楽だとは思ったので、いかに大変だったかちゃんと書き残すことにした。
作っている間頭も悩ませたが美味しかったという1点で積もったマイナスも吹き飛ぶくらい味の面で優秀だ。来年は広々とスペースをとって慌てないように育てるつもり。




