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冥府の王に花束を  作者: りとむ


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愛の神 -Ourania- ep.2

愛の国と呼ばれる場所を訪れた旅人のカロンと、猫のディー。

そこは、愛する者の為なら何をしても罪に問われない国だった!


致せり尽くせりの歓迎を受けていたカロンだったが、

その最中、ディーが突如いなくなってしまう。


ディーがいた場所には書置きが残されていた。


「私はディーを愛してしまいました」


「ディー……貴方は美しい……」

 女は、暗い部屋にいた。

 明かりはなく、自分の姿すら見ることはかなわない。


「……………………」


「貴方は、私だけのもの……」


 暗い部屋に、女の声だけが響いている。

「これからは、ずっ~と私のそばにいてね、ディー」




◇ ◆ ◇



 カロンは歩いていた。

 時刻はすでに夜遅く、外を出歩く人は少ない。



「こっちか………」


 カロンは自分の感覚を頼りに、ディーのもとへ進んでいく。


()()()()()()()()()()()()、ね。必要ないと思っていたけど、こういう時に限っては便利だ」


 カロンはいつもの黒いロングコートではなく、茶色いローブのようなものを羽織っていた。

 フードを被っているため、表情は伺えない。



「ここか」


 カロンはある建物の前に立っていた。

 夜は更に深まり、道を歩く人影も見当たらない。


 その建物は比較的小さな家が多いこの街では大きい方だろうか。

 近代的な建物が並ぶ国の中で、()()()()()()()は少しばかり異彩を放っていた。

 建物の電気は消えており、人がいるのかどうか外からではわからない。


 カロンは扉に手をかける。

 鍵は閉まっていなかった。


 ゆっくりと扉を開いた先にあったのは、


 暗闇だった。




◇ ◆ ◇




「どうやら、君の前の持ち主さんが来たようね……この街の人々は愛に敏感で、そして協力的。

 ここまで無事に上がってこられるといいんだけど……ふふ……」



「君が、あの猫の持ち主かい?」


暗闇から、声が響いた。


「はい。口うるさい相棒を引き取りに来ました」


「取りに来るとは律儀だねぇ……君の相棒を持ち去った女性は上の階で待っているよ。勝手に取りに行ったらいい」


 男が暗闇で何かを操作する音が響く。

 突如ついた明かりに、カロンが一瞬目をつぶり、そして開けると、声の主が立っていた。

 三十代ほどの男は、引き締まった体を持ち、腰には幅広の剣を差している。


 部屋は壁も、床も木製でできており、家具のようなものは見当たらなかった。

 ただ、四角形の広い空間が広がっている。



「おや、こんなにかわいらしいおチビちゃんだったか」


「わたしは()()()()です。おチビちゃんではありません。」



 男は少しだけ笑いながら、腰の剣をゆっくりと抜く。



「そうかい、ナヴィアちゃん。これは失礼。

 ……さて、知ってるとは思うが、ここは愛の国、だ」



「愛する者のための行為なら、罪に問われないんですよね?」



 カロンが言う。相変わらず顔はフードの中に隠れ、表情を伺うことはできない。


「そうさ、時に人間は好きな人、好きな物のために罪を犯す。それはどんなに法で規制したところでなくならなかった」


 男は剣を持ったまま両手を広げ、話を続ける。


「だから国は規制することをやめた。好きに争え、と殺したければ殺せ、と。結果、それによって治安は良くなった。多くの人が、()()()()()()()()という恐怖に襲われたからだ。一般市民の間に争いは少なくなり、殺人件数は半分以下だ」


 カロンはその場から動かない。


「ただ、それは一般市民の間で、だ。金のある奴らは、俺みたいなやつを雇って、ほしい物を好きなだけ集めている。まぁ、俺も国が規制しなくなったおかげで職があるんだから、感謝しなくちゃな!」



 男は、自らの持った剣を、いとおしそうに眺める。



「旅人を殺すの初めてだなぁ……」


「そうですか」


「ごめんな、これも仕事だからな」


 男は剣を構えたまま、カロンへ少しずつ近づいてくる。


「まさか丸腰ってことはないよな、そのローブの中に何隠してるんだ?」


 ニヤニヤとした男に対し、カロンは何も返さない。


「まぁ、何を持っていようと関係ないけどな!!」


 すでに男とカロンの距離は3メートルほど、男は大きく踏み込み、その剣を振り下ろす。

 空を切る音が鳴り、カロンは、左足を半歩引くようにしてそれを避ける。


 男はそのまま前につんのめると、すぐに振り返り、剣を構え直す。


「流石は旅人だ。そりゃ、平和ボケした街の奴らとは違うよな」



 そう言って、男はどこか楽しそうに笑った。

 男は再び距離を取り、剣を構え直す。

 その構えに、迷いはなかった。


「次は本気でいく」


「そうですか、ではわたしも」


 カロンはローブの中から手を出す。その手には、大ぶりのナイフが握られていた。


「ナイフ……か。そんなもんで俺の剣に勝てるとでも思ってるのか?射程も威力も桁違いだぞ?」


 カロンは表情を崩さない。


「ナイフ一本のチビを殺したとあっちゃあ多少心が痛むが……なにせ俺もこれで生活してるんでな、悪く思うなよ。」


 そして勢い良く一歩を踏みだそうとして………足は前に出なかった。

 男が自身の右足を見ると、その右足の甲には深々とナイフが突き刺さり、床と足を縫いつけている。


「あ、あぁぁあああ! ちくしょう! なんだよ! 全く見えなかった!」


 男は驚きと痛みによってもだえる。



「確かに、射程も威力も桁違い。ですね。」


 ナイフを投げたままの姿勢でカロンは男を見据えた。


「わたしも、剣一本の人間を殺すのは、心が痛みます。降参してくれませんか?」


 そう言うカロンの手には、また別のナイフが握られていた。


「ふざけるなよ……俺がガキに負けてたまるかよぉ!!」


 男は剣を振り回すが、足は相変わらず床に縫い付けられており、

 一定の距離を保つカロンには届かない。


「これ以上、あなたを傷つけたくありません。降参して武器を捨ててくれませんか?」


 カロンは同じ言葉を繰り返す。


「くそっ、抜けねぇ、なんで抜けねぇんだよ……」


 ナイフは男の足を貫通し柄しか見えていないほど深く突き刺さっている。

 男が引っ張るものの、ナイフは徐々に徐々にしか抜けていかない。


「ですから降参を……」


「うるせぇ!おぃガキ!てめぇは絶対にぶっ殺す!!」




 カロンは説得を諦め、あたりをキョロキョロと見まわす。

 壁を触るようにして何かを確かめながら壁沿いを歩くと


「ここか」


 ほんの僅か、よく目を凝らさなければわからない程度に色が違う壁を、蹴り飛ばした。

 激しい音を立てて崩れ落ちる。壁の先には、階段があった。



 男に刺さっていたナイフが抜けたのと、カロンが階段を見つけたのが、ほぼ同時。

 男はナイフが抜けた瞬間、剣を握って走りだす。

 ナイフが刺さっていた脚からは踏み込むたびに血があふれ出すが、そんなことを気にする様子は微塵も感じられない。



「おいガキ!」


 カロンが、ゆっくりと振り返る。


「ガキ! 死ねぇえ!」


 男は剣を大きく振りかぶり、カロンめがけて恐ろしい速度で振り下ろす。


 しかしその剣は、カロンの眼前数センチのところで動きを止め、その対象を切り裂くことはなかった。


「てめぇ……本当に人間かよ……」


 カロンは男の剣撃を、薄刃のナイフ一本、しかもそれを片腕で止めていた。




「…………………()()()()()




 カロンの口が小さく動く。



「は?」


 男がそう言った瞬間、彼の頭に恐ろしい衝撃が走る。

 男の意識は、白くフェードアウトし、深い闇の中へ落ちていった。



 カロンはナイフを再びローブの中へしまうと、ナイフの柄で殴打され、気絶している男を一瞥し、上の階への階段を進んだ。




◇ ◆ ◇



 二階へ上がると

 そこには、トリマーの女が佇んでいた。


「やっと来たか。思ったよりも遅かったな」


 女の腕の中から、ディーの緊張感のない声が聞こえる。


「ディーを返してもらえますか? 一応、相棒なので」


「ダメよ」


 女が首を振る。


「ダメよダメよダメよダメよダメよダメよダメよダメよダメよ!」


 それは、少しずつ激しさを増していく。


「私は、ディーを愛しているの!」


「そうですか。それでも、返してもらわなければ困るので」



 女はディーを抱きかかえるようにしてしゃがみ込む。

 ディーは少し苦しそうに不満そうな表情を浮かべた。


「返していただけないなら、申し訳ありませんが……」


 しゃがみこんだ女にカロンが少しずつ近づいていく。

 その手の中には、ナイフが握られていた。


「わかってるわよ」


 女がゆっくりと立ち上がる。

 そして、ディーを顔の前まで持ち上げ、漆黒の体を下から上へ舐めるように見る。


「下の階にいた彼を倒したんでしょう? 私が、貴方に勝てるなんて思ってない」


 カロンの足が止まる。

 女は、更にゆっくりとした動きでディー喉元へ恐らく愛用なのであろうハサミを向ける。


「この子は私に殺されて、私の一部になるの。貴方に返すくらいならその方が()()


「やめてください」



「私は、ディーと一つになる」


 カロンは再び女の方へ向かって歩を進める。



「ディーずっと一緒だよ、私は貴方を忘れないわ」



「その程度の刃物で私を殺せるとは思えないが、まぁやりたいというのなら止はしない」


 当のディーからはのんきな声が漏れる。



「やめてくれませんか? 目の前で人が死ぬのは、気分がいいものではありませんし、わたしも貴方を……」


「うるさいうるさいうるさい! さぁ、一つになりましょう!」


 しかし、女がハサミ持つ手を強く握ったとき、突如ディーの体は黒い靄に包まれた。

 女の手の中からディーは消え、その目の前には黒い靄が浮かんでいる。



「……………ディー?」


 何が起きたのか理解できていない女は、目の前の靄をつかもうと必死で手を動かし続ける。

 カロンは女の目の前まで来ると、靄に向けて右手を向けた。


「帰るよ、ディー」


 靄はカロンの手の中で少しずつ形を取り戻してゆく。

 程なくして黒い靄は巨大な鎌の形へと変わった。


「そうするとしようか」



「……あ……あ………あ………」



 未だ立ち尽くしている女に背を向け、カロンは歩き出した。


「ディー、このローブ動きにくいんだけど、いつものお願い。あと()()


「あぁ」


 瞬時、ディーの体が少しだけ小さくなり、黒いコートが現れる。

 カロンはフードを外すと、着ていたローブを脱ぎ、コートに袖を通す。



「う、訴えてやる! 恋路の邪魔をした人はこの町には居られないのよ!」

「どうぞご自由に。もうこの国で貰えるものは貰いましたので」


 カロンは振り返ると、階下へと降りた。

 そして一階で未だ昏睡している男を一瞥すると、出口へと向かう。


 ドアを開けると、空はすでに白み始めていた。


「もう朝か。昼間寝ておいてよかったなぁ」

「そもそも寝なければこんなことにはなってないんだがな」


「ディーがそれ言うかなぁ……」




◇ ◆ ◇



城門には人だかりができていた。



「あいつだ!」

「トリマーのおねぇちゃんの仇だ!」

「確かにいい猫だなぁ……」



 二十人ほどが集まり、城門の前で固まっている。



「あの女、意外にも人望あるだな」

「………めんどくさい」



 カロンは睨みつける住人を無視し、集団へと近づいていく。



「来たぞ! 絶対通すな!」

「猫をおいていけ!」

「俺達は恋する人の味方だ!」


 そして、口々に怒鳴りあげる人の目の前まで行くと


「わたしは()()()()()()()()()()。邪魔する人はどうなっても知りませんよ。」


 そう言った。


「………………」


 興奮していた群衆が静まり返る。


「たしか、愛する者のためなら何をしても罪に問われないんですよね?」


 いつの間にか猫は消え、カロンの右手には巨大な鎌が握られていた。

 民衆たちは一様に不思議な景色に息をのみ顔を見合わせる。



「旅人さんも愛しているなら仕方がないのかもしれないな」

「そうね、仕方ないわ」

「旅人さん!これからも良い旅を!」



 カロンとディーは何事もなく城門をくぐって国の外へと出た。




◇ ◆ ◇



 城門が遠くに消え、赤い花が一面に咲く道を旅人がのんびりと歩いていた。



「それにしても、まさか猫に恋する輩が現れるとはな……

 どうやら君にも愛されてるみたいだしな。ハハッ」


 黒猫はその体に似合わぬハスキーな声で、珍しく笑い声をあげた。


「ものは言いようだよ。嘘も方便ってやつ」

「ハハハ、わかっているさ、君は恋はしないのか?」


 カロンは一瞬歩を止め、考えると口を開く。



「わたしは自分のことで精一杯、誰かを愛する余裕なんてないよ」

「そうか、もし恋がしたくなったら言ってくれ。私がお相手を審査してやろう」


「よろしく頼むよ」


 旅人が歩く道の両側は、真っ赤な薔薇で埋め尽くされていた。




―――――誰かを愛するのには、それ相応の覚悟が必要だ。


次回更新予定:11月28日

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