プロローグ:湖の畔で・終
そして、静寂が生まれた。
誰の喋る声も、動物の鳴く声もない。
暗闇に包まれた闇の中には、雲に覆われた僅かな月明りと、人影が二つ。
一つは地面へ倒れこんだ妙齢の女性、もう一つは立ったままそれを見つめる小さな影。
伏した人影は動く気配を見せず、もう一つの人影は呼吸に応じて僅かに肩を揺らしていた。
「これで、わたしは……」
静寂の中、小さな声がこぼれる。
それは少年のような、それでいて少し高い声。
小さな影の傍らには、その身には似合わぬほどの大きな鎌が落ちていた。
声の主は、呼吸を落ち着けるように大きく息を吐くと、近くにあった木の根元へと体を預け座り込む。
両腕で抱え込むようにした姿から、表情を伺うことはできない。
「わたしは……」
繰り返す言葉は、少し震えていた。
「君は、成し遂げた」
それに応じるのは壮齢の男性のような声、少ししわがれている様な、太い声だ。
太い声の主は、姿も見せぬまま続ける。
「君は、見事成し遂げたのだ。
君の殺したこの女性のおかげで、君は……」
「そんなこと私は望んでない!」
髪を振り上げ、少女は立ち上がった。
雲の隙間から差し込んだ僅かな月明りに、綺麗な緑色の瞳が反射する。
「君が望んでいるかどうかは、問題ではない。
重要なのは、君が彼女を殺したという事実」
壮齢の声は、少し溜めて言葉を紡ぐ。
「君が、次のカロンだ……死の代行者、カロン。カロン・ナヴィータ」
「わたしは……」
その声を最後に、少女は再び木の根元へと座り込んだ。
「今は休め。どちらにしろ、もう運命は決まってしまったんだ」
暗闇に、僅かな衣擦れの音が響き、やがて止んだ。
森は再び、静寂に包まれた。
次回更新予定:11月13日




