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死亡十三日前 実質個人PCとはいえ深層に怪しいファイルを置く奴は地雷

「貴様は教師をなめているのか」

 腕を組んで、仁王立ちの、鬼の形相になっている教員だった。鬼のような恫喝シーンから始めないでほしい。かわいそうな僕は萎縮しきりで何もいえなくなっている。十五日目のパソコン内から見つかった怪しいファイルの持ち主だろうか?

「怖がるな。訊いているだけだ。答えろ」

「せんせ。一生くんは悪くないですよ?」

「悪いのは貴様だ田村。そんなこと誰でも分かっている。私は今、こいつに教師をなめているのかと訊いてるだけだ。悪い悪くないの話ではない」


 なにしてんだよ今度の僕は。

 死亡十五日前の記憶をインストールし、観終わったあと、僕は意識を失ってしまったようだ。女神様の慌てっぷりから察するに、本当に人の形を保てず、そのまま塵滓になってしまう可能性があったそうだった。


 原因は明白。メモリ不足。脳味噌の要領不足。僕の存在力不足。

 残念だけど、事実らしい。


 その経験から一日分、全ての記憶を一括インストールしてしまうと僕自身が記憶の容量、衝撃に耐えられないということが判明した。

 今回からは、重要な出来事があった日をピックアップしたうえで、その日のうちで最も重たい事態、重要と思われる状況からの再生になった。


 女神様が夜なべしてすべての記憶を検閲し、そのうえで重要と思われる場面だけをつないで編集してアップロードして視聴させてくれるそうだ。YouTube生配信の切り抜き動画ということだろう。

 女神様のブラック労働が加速する以外は、得しかない。ありがとう女神様? ん? 女神様なら今、そこら辺で頭を抱えてうなりながら悪夢を観ている顔をして寝ています、お疲れさま。


 教員に恫喝され続けている僕は、あのそのえと、などの声を時々発しながらも、具体的に何か説明する様子はない。当時の僕の心境は察するしかないが、やはり客観的に見る分にはなかなかにイライラさせてくれる光景だ。教師がマジギレしてもしょうがない気がする。


「だからそんなにマジギレしてたら、気弱な一生くんが喋れないでしょ、と教えてあげているんですよ」

「黙れ。田村と議論するつもりはない。無論、計画を最初に練った人物、黒幕が、真犯人が最悪であり、最も罪深いことに変わらない。が、実行犯に罪がないわけではない」

 どうやら田村さんにそそのかされて、僕が何かしらをやってしまったようだ。

 厳格な教師ガマジギレするような何かを、だ。うん。犯罪行為じゃないことだけを祈っておくぞ僕。

「せんせ」

 田村さんが教員の袖をひく。

「ていうか、せんせは脅迫されている立場なのですから、もう少し一生くん見習っておどおどしたらどうですか?」

 とんでもなかった。普通にやっていやがった。

 やっぱりこいつ人として終わっている。

「だから歩み寄っている。私の犯罪行為を曝露しない、とはっきりいうまで、教師の立場から解放はしない」

 どうしよう。関係者全員悪人かもしれない。全員悪役。そんな映画があったような。リスペクトですよ?

「のど乾きませんか、先生」

 教員はテーブルの上に置いてあってコカコーラをあけ、氷入りのコップに注ぎ、田村さんに手渡し、僕の目の前にも置いた。

「さあ一生様。私の犯罪行為を曝露しないと、誓うんだ」

 こいつとんでもない駄目教師かもしれない。


 そして僕はどうやら罪悪感に負けてしまったようだ。

 申し訳なさそうに告白した。

「あの、そもそもの話なんですけど。データ盗ってないです」

 今度は田村さんが狂化する番だった。はぁっ! なにいっての! ていうかそれを今目の前でいうかボケ!


 そして教員が威厳と誇りとプライドを取り戻す番だった。

「田村。いつまで座っているんだ? とりあえずのどが渇いたな」

 そしてこの教員はまじめっぶっているが、相当に残念きわまりない大人のようだ。この状況に楽しみを見出す程度に人としてひんまがっている。

 恨み顔でお茶を汲みに消えていった田村さんを見送ると、

「邪魔者も消えた。本題に入ろう」

 お茶ら気の時間は終わりということらしい。

「データがないのは本当か」

「本当です」

「わざと盗らなかった?」

「はい」

「盗れといわれたんだろ」

「三回ほど念押しされました。盗る振りをして、削除しました」

「何が目的だ。犯罪行為を言わなかったことで内申点はあがらない。おまえは何も得をしていない。せっかく信頼を勝ち取っていた田村からも嫌われる。おまえはなにも得していない」

 まったくだ、なにしてんだ死ぬ十三日前の僕は。

「先生が好きなので。比較的」

 顔を少し伏せ、少しだけ顔を赤くしてそんなことを口走っている。

「!」

「比較的に、ですが」

 色々ありすぎて、もうテンション爆上げ状態が続きすぎているせいか、なんでもありな無敵の精神状態になっているのかもしれない。ハイになっている、というべきか。ラノベ主人公状態に酔っている、ということか。ほんと質が悪い。

「おまえは、私に好意を抱いているから、だから私の犯罪行為を見逃したということか。それで私がおまえに感謝や好意を覚えると期待してなのか」

 愚かすぎる、バカすぎる、無意味すぎる。

 先生の語感からは、そういった否定のニュアンスが盛り盛りのマシマシだった。

 お願いだから僕気づいてくれよ、と思ったが、あり得ないような限界状況に置かれているせいなのか、一種の興奮状態が続いているのか、僕は顔を真っ赤っかにしたまま、言葉を紡いでいく。いい加減、目をそらしたくなったきたが、十三日目の僕の発言なので甘んじて受け入れるしかない。

「先生は、ひどい人ですが、比較的平等というか、公平な気がします。悪く言えば、無関心ですけど。僕はその無関心含めて心地いいので。不干渉感というか。それでも仕事としてやるべきことはやめない感じ。だからいなくなってほしくないっていうか。はい。そういうことです」

「分かった。見返りにエッチなことをしてほしいのだな」

「あのだから」

 教員が立ち上がる。顔がガチだ。

「お前が望まなくても、私がそういうことをすることでお前を縛ることができる。だからそうしようか」

「待て待て待て待て変態教師」

 外で聞き耳立てていた田村さんがようやく登場した。早く突入してくださいよ。

「最後まで外で聞いていてくれていいんだけど」

「そうはいかないでしょ。もう限界でしょ」

「あら。ほんとウブな子だな」

 僕は顔を真っ赤にしたまま、鼻血を流していた。ついでにはにかむようにしながら、ふらふらっと意識を失っていった。貧血だ。


 十三日目の記憶はここで終わっていた。

 結果的にこの日を境に、教員のハートをキャッチした僕は、より校内で自由に羽ばたくようになるようだ。教員を攻略したことで田村さんから一目置かれ、校内自由行動の権限を付与されたわけだ。ほんとこいつ案外……。ノーコメントで。

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