4日目
「特殊能力決めたよ」
平岸高校の屋上に座り込むと、女神を呼び出す。
駄女神様は少しにらみつけるように、僕の目の前にしゃがみこんだ。
「無理難題いわないでくださいね。私だって一応女神としての通常業務、雑務もあるんですから」
「大したことじゃないよ。君はこの世界の女神なんだろ? 大したことじゃない」
「すげえ大したことを頼まれるときの言い回しじゃないっすか」
「田村さんや、三上さん、あと先生と会話したい。そんな特殊能力くれ」
「……」
「あくまで会話、ね。こっちから一方的にあなたの脳内に話しかけているとかじゃなくて、相手からのリアクションも声もきちんと聞こえて、うんとか、はいとか、相槌とか打つコミュニケーション行為」
「いえ、会話の意味を説明されなくて結構ですが」
「それでよろしく。いつできる? 今? すぐ?」
「待て待て待て」
「なんだよ駄女神はほんと仕事遅い」
「とりあえず申請しますから」
「即断できないの?」
「私は物事の施行者であって、決定者じゃないんですよ?! ただの現場の人間なんです」
「工事現場で交通整理している人であって、工事を発注する立場じゃないってことか」
「たとえがあれですが近いですね。ここを工事したいと要求することは可能です。そしてそれは九割九分通ります。そして実際に現場に出て、工事するのも私なんです」
「女神様は忙しいね」
ブラック企業の女神様は笑顔だった。さほど疲れた様子はない。強キャラだ。
「そう思うなら少しはいたわってくれていいんですよ」
僕の要望が申請され、しばし待ち時間になった。
女神様はさきほどから困り顔だったが、仕事は進めているようだ。
「リマインドしますが、目的は犯人探しということですね?」
「死んでしまってまでイチャイチャラブコメを目指す度量はない」
「私の目的はあなたのサポートです」
「当たり前だろ女神なんだから」
「サポートする理由は、あなたの異世界転生まで、あなたが無事にこの世界にとどまることをサポートしているんです」
「無事にとどまれない可能性がある、と言われている気がする」
「あなたは何も感じていないかもしれませんが、あなたはあなたの考える以上に不安定な存在です。人ではなく、幽霊とも呼べず。定義しにくい状態です。そんな状態で過度なストレスを受けてしまえば、いまの状態を維持できず、最悪消失してしまうかもしれない」
「そこまで憂鬱ではないけど」
「とにかく、私の目的は、異世界転生が可能になるまで、無事に今のあなたの状態を維持してもらうことです。犯人探しはあなたの精神バランス維持の一環です。ただ、あなた自身に過度なストレスがかかるような状況になったと判断した際は、即刻この探偵ごっこは終了します。それがもろもろの能力を与える条件です。飲んでもらえますね」
もちろんだ。いざとなったら、消失してやるからな、と脅せばどうにでもなる。
「もちろんだ」
「本心ではないことは察せますが、心の声は常に読んでますから、くれぐれも発言には気をつけてくださいね」