日本滞在 5日目③
田村さんの元彼はそうして語り始めた。
彼がライトノベルを読み始めた直接の理由は僕の死だった。
僕が死に、田村さんとの仲もふわふわしだした彼が次にとった行動は、僕の実家に行くことだった。
僕の親友を名乗り、僕の秘密の部屋()にあがったそうだ。
ところ狭しと並べられたラノベとマンガの山に圧倒された、と。
母親からは、形見として持っていってくれてもいいし、ここで読んでくれてもいいなどいわれたそうだ。ほんと、よけいなことしかしないな。
僕の死後、僕の家までやってきたのは田村さんの元彼だけだった。
そりゃそうだ。
僕はガチ目の友達がいない系の陰キャなのだから。
母親はそんな田村さんの元彼にいたく感動し、おもてなしを始めたそうだ。息子の遺品で。ほんとによけいなことしかしない。
「そのときライトノベル全般にはまりました。なにせ彼女も相手してくれなくなって暇でした。彼の家に行けばあいつの可愛い母親がお菓子とラノベとマンガでおもてなししてくれたので、居心地はよかった。死んでしまった友達の家みたいなところはすぐに気にならなくなりました」
こういう精神性を持っている辺りが、こいつが強キャラである所以だ。
あと人の母親を可愛いとかいうな、やめろ、まじで。
「読んでいくうちに、終わってしまう物語が多くて。すんごいはまっても、やっぱり終わってしまう。それで悲しくてつらくて。なんでこんな悲しい想いしているんだろうって思いました。どうしたらこんな思いしなくていいのかなって思っていたら。あいつの部屋を漁っていたら、これの初代機が出てきたんです」
やめろ、恥ずかしい、黒歴史をひもとくな。
「それで思ったんです。こんだけ好きなら書きたくなるよなって。それで終わってしまう物語の続きを書こうと思った。完全にそのまま二次創作でも書いてもよかったんですけど、なんか続きでありつつ、自分の書きたいものをミックスさせる感じがいいかなって感じて。それで親友のpomeraを拝借して、書き始めたのが最初っす」
僕は教養の一環で購入しただけだった。結局書き専ではなく、読み専が性に合っていると分かり、pomeraはそれ以来触っていないはずだ。
「あとはもうそれの繰り返しです。ラノベ読んでラノベ書いて。地元のところに就職してクビになってを繰り返して。所長にお世話になって。それでもやっぱ書いていて。読んでいて。電話当番は時間あるから書いてましたすみません、あとたまに暇なときセイコーマートでも書いてます、すみません」
田村さんの元彼はそうしてすべてを告白した。
文字通り、僕が調べたことも含めてすべてだ。ほんと、昔も今も、僕の心を一番揺り動かしているのは地味にこいつかもしれない。
僕は鷹揚に頷く。
「とりあえず所長としては聞かなかったことにしてやるよ。好きにやれ。仕事に影響出ていない限りはなにもいわない」
「ありがとうございまっす」
「でもな。受賞したらきちんと連絡しろよ。部下がそういうもんで成果でて、やってきたことが成功して、喜ばない上司なんていねえからな」
緊張感の表情に浮かべていた田村さんの元彼は、ようやく笑っていた。
いつかの野蛮な陽キャの空気は消え去った、普通の笑顔がそこにあった。
胸くそわるいから、やっぱりこいつには現ナマは不要だ。
ざまー。ざまー。ざま。ざまぁ。




