日本滞在 5日目②
僕は販売店の所長を調べ上げ、肉体を所長に変化させる。変化の魔法は覚えはしたが、有効活用をするには倫理観が邪魔しており、手付かずだった。今日はまったく気兼ねなく使える。
見た目を会社の最高責任者の姿になり、そろーりと販売店の二階へあがる。
田村さんの元彼は集中してpomeraを叩いており、定期的なキータッチの音しかしない。
「おいなにしてんだよ」
僕は販売店の所長の顔と声で、田村さんの元彼に話しかける。
ギョっとした速度で田村さんの元彼が異様な速度で振り返る。一瞬で額が紅潮し汗が噴き出ている。少し面白い。
「しょ、所長。なんで」
まだ早朝七時だ。確かに、そりゃなんで、だ。
「今日いきなり担当来ることになってな。それの準備。おまえはなにしてんの。それなに? パソコン?」
全部知っているが、当然、全部田村さんの元彼の口から説明させる。
「えっと、そんなもんです」
「何か書いているな? 小説?」
田村さんの元彼が半笑いでpomeraを閉じる。
「そんなもんです」
「なんだよ、そんな趣味あったのかよ。でもさ。お前、今、暇だといえ、業務時間中だろ」
九時までの時間は不着や電話当番をしている限りは、一応なにをしていてもよいと業務規定には書かれている。
それでも僕は詰める。理不尽なパワハラを発揮する。
「小説読むならまだいいが」いいんだろうか? 強引すぎるか?「書くとなると事情が違うだろう」違うのだろうか? 田村さんの元彼が暗い顔で「確かに」と応じているから、まあいいや。
「一応聞くが、それが仕事になっているのか。収入あるのか。それとも趣味かよ」
「仕事、ではないです。趣味です」
「趣味ならいいよ。でも趣味で書いたものを新人賞とかに投稿したり、なろう系とかのサイトに投稿しているなら、話は別だろ。それは副業になりえてしまう」
田村さんの元彼が顔をあげる。「所長そんなことよくご存じっすね」
「最近パチスロではまっているやつが、もともとそういうところから出てきた小説? ライトノベル? なんだろ、それで知った」
いくつか有名タイトルをあげると、田村さんの元彼はなるほどー、というように顔をしかめる。いいわけは一切合切通用しない。
「で、どうなんだよ。投稿してんだろ、こんだけ書いていれば」
田村さんの元彼は沈んだ顔のまま「はい」と答えた。まじかよ、ちょっと脅したらなんか出てきたよ!
「いつからだよ」
「書いているのは高校卒業ぐらいからっすね」
「長。ずっと書いているんかよ」
「最終選考まではいきますけど。受賞はしてないっす」
「つまりお前は専業という立場でありながら、ずっと業務時間中に、実質別の仕事をしていたってことだな」
いや仕事ではないか。でも詰めよう。
「……はい」
「まあいいよ。とりあえず話せ」
「……はい?」
「今後どうするか決めるためにも、だ。どうしてお前がラノベ書いているのか。どういう経緯か、全部話せ。すべてはそれからだろ」




