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僕が異世界転生するまでの30日間  作者: 小柳和也
一部 異世界転生するまでの僕 。

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3/37

2日目

 犯人探しといっても、全く持って何から始めればいいのか検討がつかない。一日目はなにをすればいいのか考えていたら宙にぷかぷか浮いたまま眠りに落ちていた。死んでも眠れるんだな、と感心した。


 とりあえずまったく接点のない地点から行くことにした。

 女子バスケ部だ。


 宝くじが当たる程度の確率さえ掴めば、文化系女子との接点ぐらいは持てそうだが、体育会系中心の女子バスケ部と仲良くやっている風景はまったく想像の埒外だった。


 生前十五日前までの僕は、この子を攻略対象として見事に攻略していたという。図書委員系だけではなく、アクティブ系を攻め落とすとは?! 十五日前の僕グッジョブ。でもどうやって交流した?! 基本陰キャで通しているはずの僕がっ! どんな事件があった? どうやって干渉した! カモン、駄女神!!


「女神をグーグル先生みたいに使うのやめてくれませんかね」

 ぬるっと駄女神が出現。

「そんなこというなら無くなった記憶を復活させてくれない?」

「無理でしょうね、それは幽霊状態になった代償みたいなもんですよ多分」

「少なくとも今の俺の記憶からは、女子バスケ部のスタメンガードなんかと仲良くできる接点は皆無だ。挨拶すら住んでいるセカイが違いすぎてできないレベル」

「過去情報によりますと」メモ用紙をめくりながら、駄女神が解説してくれる。「バスケ部女子三上さんと接するときは常に、田村さんが傍らにいたようですね。あなたが単独で彼女と接しているシーンはあまりないです」

「だろうね」

「ただ身体的接触に近しい距離で一緒にいる時間が長い」

「セクハラ行為か」

「彼女がバスケ部であることを想像すると、何かを賭けてバスケット勝負をしていたようですね。それ以降、彼女のあなたへの好感度というか、関心度が一定指数上昇しています」

 僕の発言は華麗にスルーされた。正解!


 体育館で部活中の三上さんに動きがあるまで待機任務になった。

 三上さんの様子を確認するが、教室でたまに見かけたことがある程度の印象だった。

 初対面ではないことぐらいは分かるが、落とした消しゴムを拾ってもらえないだろうなと想像する程度の距離感だと思う。ほんと涙がちょちょきれますねという謎のツッコミを頂戴したが、華麗に無視しておいた。


 数時間後、全体練習が終わっても、三上さんはシュート練習を続けていた。

「みっかー。まだやるのー」

 全体のモップ掛けが終わり、顧問によるミーティングが終わり、まじめそうな居残り組が百本ほどシュートを決め終えて帰宅しようとしていても、三上さんはまだ汗グッショリでシュート練習とドリブル練習を交互に続けていた。

 見ているだけなのにいつか倒れてしまうんじゃないか、と少しはらはらしてしまうほど三上さんは熱心だった。

「もうちょいー。モップはやっておくからいいよー」

 リングから視線を逸らさず、三上さんが応じる。

 それは日常的な風景のようで残っていた部員らも「じゃあよろしくねー、あんまし詰めすぎないでねー、また明日ー」と、帰って行った。

 三上さんは帰宅していく部員にひらひら背を向けたまま手を振るだけして、シューティング練習を再開した。

 待機任務を継続。

 駄女神はその字に恥じぬ駄女神っぷりを発揮して、すでに居眠りしていた。

 地球人からは視認されない状態とはいえ、半口あけて時々いびきもかいているこの駄女神が支配するこの星は、実は危機的状況に陥っているかもしれない、と少し危惧する。もしくは女神があくびをしながらだらだら過ごしていても大丈夫なぐらいこの世界は平和なのだろうか。まあいっか。


 三上さんの監視を継続。

 ボールを左右に切り返すクロスオーバー。足の間を高速で通すレッグスルー。リムにむかってドライブからのバッグステップ。シュートを決めると、体育館の端から端まで全力ダッシュしてからドリブルワーク再開。

 一個一個のプレーや動作がすべて全力だった。激しく息をつきながらも、それでも三上さんは練習プレーの質を落とさない。滴る汗がとまらない。膝が震えていても、走ることをやめない。


 三上さんをみていると、一つの想いが去来する。

 なんでそんなに頑張るんだろうか、と。

 これも十五日前の僕が何かしら干渉をおこなった結果なのだろうか。だとすれば、陰キャ主人公としての僕はまあまあな活躍っぷりを魅せていることになる。


 でも僕にこの子をここまで頑張らせてしまう何かがあったのだろうか。

 もともと志向として三上さんは頑張り屋なのだろう。それはわかる。

 でも今の三上さんの練習への打ち込みは、少し異様だ。度を越しているというか、異常といってしまってもいい。

 殺気立っているというべきかもしれない。何かを忘れようとして何も考えなくていいように、とにかく体を動かしているように感じるのだ。

 うぬぼれだろうか。僕が死んだことがそういう影響を与えているのだろうか。記憶がないことがもどかしい。


 三上さんの気持ちを聞いてみたい。

 体育館の出入り口に人がやってきた。

「まだやってんだ」

 教員だ。顧問ではないが、知っている顔だ。体育教師。小峠。未婚。胸うすい。三十前。

「すみません、もうちょっと」

「体育館はおまえのストレス発散場所じゃないぞ」

「れ、練習ですが」

「そうだ、だからおまえのストレスを発散させる場所ではない。帰れ」

「練習していない、とおっしゃるんですね」

「違うのか。違わないだろ」

 上から目線。高圧的。正しいのだろうが、この婆苦手だ。昔から苦手だった気がする。

 三上さんはその場にぺたんと座り込んだ。膝から崩れるように。体はとっくに限界だったのだろう。そんな状態でも体を酷使させてしまう精神状態なのだ。


「ですね。少し休んでいいですか」

「好きにしろ。おまえはあいつの忘れ形見だからな」

「そんな言い方しないでください」


 また鳴らない心音がドキっとする展開を想像した。

「いや間違いない。今のおまえの行動を形成しているのは、あいつの影響だ。残念ながら。あの残念クソオタクのメンタリティにおまえは汚染されている」

「せめて影響されている、といってくれませんか?」

「支配されている」

「感化されているんですよ」

「混乱状態にあるともいえるな」


 この婆きらい。

 三上さんがあきらめたように、床の上に寝っ転がった。あきらめないで!?


「少しがっかりしています。少しびっくりもしています」

「だろうな、あんな陰キャに行動を変化させられてしまっては」

「数週間前までいてもいなくても同じような空気だったのに」


 ガチめで傷つくから本人がいる前でそういう話はしないでね。

 目の前にいないからといって、どこで誰が聞いているかわからないんだからね!


「今はこんなにも愛おしい」

 やめて好きになっちゃう。

 僕の感情をぐちゃぐちゃにかき回しながら、三上さんは汗だくのまま泣いていた。

 声をあげることなく。きれいな滴をその燃えるような瞳からこぼしていた。


 不思議な感覚だ。

 さっきまで名前もよく思い出せなかった可愛いクラスメイトの感情を、ここまで上下させているのが僕の死という現実が。


 人によっては感覚が違うかもしれないとはいえ、僕は名前もよく思い出せないクラスメイトが亡くなったとして。


 一時的に悲しみのような感情を抱くことはあるかもしれない。

 顔を見たことがある、少しは会話したことがある、同級生、同世代である。


 そのような人物に、死という現象が起こったら、やはり多少の悲しみは覚えるだろう。

 同性代という人物の死に、一定の寂しさ悲しみという感情移入は起こるかもしれない。


 ただ数週間後に涙を流すような悲しみはしない、と思う。

 それは親しくないからだ。

 思い入れがないからだ。


 数日なら雰囲気に流されて気分が落ち込むことがあっても、数週間後に、はっきり感情を吐露させるようなことにはまずならないと確信できる。


 僕の考えでいくなら。

 三上さんにとって、僕はただの名前も知らないクラスメイトではなかった、ということだ。


 親しかった。

 思い入れがあった。


 僕にその記憶はない。

 教員は。チラ。泣いてはいなかった。ただ薄ぼんやりとした瞳になっていた。力なく焦点ぼんやり。涙を流す三上さんを見下ろしている。


「あいつとおまえや田村らは、まったく別の人生を歩んでいた。それがたまたま交差して、たまたま深いところで影響しあった。それだけだ。そういうもんだ人生は。そういうもんじゃなかったのは、あいつが唐突に刺されて死んだこと。別れることはあれど完全にこの世界から消えてしまうような別れは、確かにあまりない。もうこの世界にいないこと。それだけだ」


 すみません死んじゃいましたけど、ぬくぬくとこの世界にはいます。


「なんで刺されちゃったんでしょうね」

「さあね。神様が残酷なんだろうさ」

 ほんとにね。あくびかきながら唾液たらしている女性の神様を睨んでおく。


 むくっと起きあがった三上さんはすっかり立ち直っているようだった。

 涙の痕もなく、毒気は抜かれている。

「帰ります」

「送るよ」

「悪いですよ?」

 教員が、一応は年齢分生きている大人の顔で首を振る。

「少なくとも目の届く範囲で、生徒に死んでもらうことはしたくない」

「先生」

「これ以上生徒に死なれると教育指導担当として体裁が悪いという話さ」

「先生。ツンデレ?」

「そうでもない。少なくともあいつに対してデレたことはなかったよ」

「もっとデレておきたかったですね」

「安心しろ。君はもっと成長してもっといい男と出会うさ。学生時代の一時の勘違いで出会ったような、おかしな男のことは忘れ去る。悲しいけど、それでいいんだよ」


「そうかもしれないですね」三上さんはどこか遠くを見つめている。「でもあの人がいたことも、やってくれたことも、私の中からはなくなりませんよ」


「それは遺産だからな。受け取ってやれよ」

 三上さんは教員のジープで帰宅していった。

 駄女神はいまだに居眠りしているので無視して、平岸の空へ帰ることにした。


 分かったことがある。

 僕が十六年生きてきた僕と、三上さん達が語る僕とは齟齬がある。


 でも僕は決定的に何かを変えて、行動した。

 もしくは外的要素に促されて行動した結果、僕は変わったようだ。そしてそれから僕は死亡し、その変わった何かをすべて手放してしまったようだ。

 一度手放してしまった何かをどうやったらまた手に入れることができるのだろうか。

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