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僕が異世界転生するまでの30日間  作者: 小柳和也
二部 世界が終わりそうなので、昔の友達だけでも助けてみた 。

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日本滞在 3日目③

 意を決して、三上さんの生活サイクルの観察を開始する。

 三上さんは札幌市内を中心に展開している大手スーパーでレジ打ちをしていた。少なくともバスケ関係の仕事で生計を立てているわけではないようだ。彼女は大人になり、当たり前の、どこにでもある、それでも大切な日常へ落ち着いたようだ。


 疲れた顔をマスクで隠すようにしてレジ打ちに励んでいる。時々柄の悪い客につめられても、謝罪を繰り返すだけだった。

 休憩時間は非常口脇で煙草を吸っている。アイコス? メンソールかな。

 仕事終わりには二千円前後の大容量焼酎パックをいつも購入。氷も大量購入。

 仕事以外の外出はなし。


 仕事終わりに食料とお酒を購入し、週四回ほどスーパーに出勤。その繰り返しのようだった。先生と違い、男の影はない。少しだけ安堵し、少しだけ心配になった。


 新型ウイルスの影響下以前からこういう生活をしているようだった。

 少なくともお家にいる時間を苦にしている様子はない。

 部屋では海外ドラマや映画などを月額支払いで見放題になるサブスクサービスに加入し、ひたすら映画ドラマを観たり、家庭用ゲーム機でFPS系のランク上げに勤しんでいる。スマホも時々開いているが、誰かとコミュニケーションをとっている様子はない。


 高校時代からストイックな娘ではあった。

 それゆえ、あまり人をよせつけない性格だったかもしれない。それでも基本的に陰キャのように誰ともコミュニケーションをとれない娘ではなかった。

 これは意図的に人との接触を避けている気がした。

 バスケ関連の書籍やゲームはなかった。三上さんは意図的に自堕落な生活をして、意図的に友達関係を絶っているのだ。

 夢破れた自分を誰かに見せたくないのかもしれない。

 三上さんのためにできることは何かあるのだろうか。


 ・


「三上さんじゃん。ここで働いていたんだ」

 まずは直接接触してみることにした。

 誰も並んでいないレジ、閉店間際の時間帯を狙った。

 少しなら会話していても不自然ではないように、数千円分の食材とお酒で買い物カゴを一杯にした。セルフレジが導入されているが、そういう機械類が苦手な高齢者向けに、普通の対面レジも残っており、今日は三上さんがそこにいた。

「はい」

 三上さんは商品をバーコードで読みとりながら愛想笑い。

 あなた誰や、久しぶりなどもなし。厄介な客が来たぐらいにしか思っていないようだ。対面接客業である以上、稀に良く多々ある客層かもしれない。

「てか覚えている?」

「申し訳ないけど、全く。むしろ新手のナンパかなって警戒までしている」

 返事をしながらも商品を読みとる手は止めない。

 なかなか手早い。勝負は早めに決めないといけない。

「こんなご時世でそんなことしないって」

「確かに。いつの同級生なの? 想い出すかも」


 三上さんの視線がチラっと僕の背後に送られた。誰もレジに並んでこないことを確認し、多少警戒感が薄れたようだ。

 内面の台詞表示は、怪しい、警察、通報、やり方、などが表示されている。

 泳がされているようだ。下手すると、通報されるかもしれない。慎重にいこう。


「平岸高校時代だってば」

 固有名詞により、かなりの警戒度が低下。

「ほんと? まっったく思い出せないけど。同じクラスではないよね?」

「三上さんは二組だよね。おれは四組だった」

「あー。だったらまったく見覚えないかも。でもなんでわたしがまったく覚えてないのにあなたはそんなきちんと覚えているの」

 ストーカーかもしれない、通報、と内面表示。きちんと理詰めで責めてもこの子は警戒してばかりなようだ。

「バスケだよ。おれ趣味でよく観てたから」

「あー。なーほーね。そっか」

 三上さんは途端に興味なさそうに顔を逸らす。止まっていた商品を読み取る手が動き出す。

「わかった。でも話したくないから。ごめんね」

「こちらこそ。いきなり話しかけて怖がらせてごめん。でも」

「なに?」

「なんでバスケ辞めたの。プロになれそうだったじゃん」


 三上さんは、平岸高校時代の活躍によりバスケ推薦で大学入学後、一時期は社会人バスケに入りかけた。

 年末年始に行われていた大学社会人プロチームが入り乱れておこなわれたトーナメント大会では大学のスタメンとしてプロチームと毎年対戦。


 一試合平均の最多得点最多アシストの記録し、大学四年時は二回戦までにプロチームを破り、上位チームと戦っていた。そのチームのエースが三上さんだった。

 実績にしても能力にしても、十二分プロで活躍できる素材だろう。

 顔立ちからしてもマスコミ受けしそうだし、それこそ大手スポーツメーカーとスポンサー契約すら、夢物語ではなさそうだった。

 なのに。


 三上さんは卒業後、プロチームに入らず、地元札幌へ帰ってきてしまった。


 それ以降、十年近く彼女の名前がバスケ史に出てくることはなかった。

「つまんない話だから。言いたくない」

「家族の問題なの?」

「あなた何様」

「僕は家族がいないんだ」事前に考えていた設定を語る。無論、力任せに聞き出すことも可能だ。それこそ自白薬を飲ませたような症状を引き起こすこともできる。でもできれば彼女の意志で、彼女の言葉で、彼女の事情を聞きたかった。「今の新型ウイルスの前からね。だから友達や家族はいつも、突然いなくなる。聞きたいことや言いたいことは、聞いておきたいし言っておきたい。今日君に再会したことも。奇跡的な確率だから。だから聞きたい」

「うざいね」

「お酒あるよ。高いの。飲まない?」

 三上さんの手が止まる。

 ちょうどバーコードを読みとろうとしていたお酒の銘柄確認。バーコードを読みとり、値段を確認。二度見。薄く笑いながら。ため息。

「しょうがない。お酒がもったいない」

 十五年の歳月は、彼女にお酒に頼らないと生きていけない何かを与えてしまったようだ。少し切なく。でも少し安心した。

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