異世界転生 五十日目以降
四天王をあらかた始末し、残る重要拠点は魔王城のみとなった。
万が一四天王や魔王が僕よりも超人的な能力を持っているかもしれないので、慎重にことを運んだが、杞憂だった。普通にこの世界において、他者よりも力が強いだけの魔物。それが魔王だった。転生初日の僕でも四天王討伐は可能だったことだろう。
野営地に冒険者ギルドの精鋭が集まっている。
明日には魔王城へ精鋭五十人でなだれ込むことになっている。最後の夜だ。僕はお酒を飲んでいた。油断しているわけではない。
飲みたいときに飲む。それが流儀だ。この国では日本国の法律に縛られることもないので。
僕は火の番をしながら、飲んでいた。
お嬢はいつも通りの綺麗な甲冑姿でやってきた。
「最後の夜だ。死ぬかもしれないから話しておこう」
「おそらくこちらの被害はゼロですが、一応最後の夜ですから聞いておきましょう」
「平和になったらどうしたい?」
「さあ」
「私の婿にならないか」
たき火を見つめたまま、いつも通りなんでもないように、お嬢はそんなことをいう。
だが十数日以上ほとんど一緒に野宿したり戦闘したりして過ごしてきたのだ。
違和感に突っ込む。
「らしくないですね?」
「なに?!」
「あなたなら、婿になれ! 命令だ! といいます。ならないか? なんてしおらしい。もしかしてテレてますか」
お嬢抜刀。あの。火に当てられているのか顔が朱に染まっているよ。
「いま、そういわれて、テレてきた。恥を見られてしまった、殺すしかない、もしくは婿になってもらうしかない」
「お嬢は。普通の生活がしたいんですか」
必殺の横薙を回避しながら問う。お嬢はためらいなく上段に構え直し、
「魔物を殺すことのみを考え、練り上げ、生きてきた。それ以外は知らんし関心もない」
上段切り。あ、いま、人間を斬り殺しそうになっていますよとツッコむのは野暮だろうか。
皮二枚ほどの距離で見切る。恐ろしい。このお嬢様、割と本気で切りかかっているよ。
「お嬢。おれが有能で優秀じゃなかったら、すでに二回は死んでいるよ」
「ここで私に斬り殺されるのなら、婿にはいらん」
目がマジだ。ほんと。恥じらいのために好きな人、殺そうとしているよこのお嬢様。
それから必殺の抜刀を九回ほど避けた頃、ようやくお嬢の恥じらいよりも、剣を振るう疲労が上回ったらしく、肩で息をしながら、鞘に収めてくれた。
「今日はこのぐらいで勘弁してやる。話はよく考えておくんだな」
そんなことをいいながら野営地へ消えていった。
平和になったら、か。
こんな世界まで平和になったら。僕は次はどこへ行けばいいのだろうか。
そんなことを考えながら、夜が明けて、魔王討伐当日を迎えた。
ギルドの有能戦士を中心にして、魔王城入場。玉座にふんぞり返っていた魔王を難なく討伐。魔王城入城から十五分後ぐらいの出来事だった。
魔王の加護を受けて存在していた、本来的にこの異世界の秩序から逸脱して存在していた魔物の多くが、その日消失していったそうだ。
一部の独自の生態系をなしてしまった混合魔物は残っているそうだが、そこら辺の森の中をお散歩していて魔物に遭遇してしまう、みたいなことはほぼ皆無になったそうだ。人を寄せ付けない霊峰の奥地などにひっそり伝説級の化け物が残っている程度になったそうだ。
異世界は平穏を取り戻したのだ。
そして僕はまた、目的も目標も失った。
異世界を攻略しつくしてしまったのだ。そして僕に攻略後の世界で延々とエンドコンテンツを行う気力は残っていなかった。
お嬢様がツンデレ分のデレを押しつけてくるが、僕はそれを享受することなく、世界を奔走した。独りで旅に出ることにした。それぐらいしかもうやることが思いつかなかった。寒村に帰ることもなく、僕は旅に出た。
一年二年と世界を回り、その日暮らし。
何度かストーカーめいたお嬢に迫られたこともあったが、何とか切り抜けた。三年四年とそんな生活を続けるうちに伝説の異邦人なんて呼ばれるようにもなった。
さらに歳月が経って九年十年ぐらい経過すると、行きずりの展開で、魔物の残滓が残る古びれたダンジョン攻略に駆り出されることも多くなった。
その際に何度かこの世界の根元に接する機会があり。
神々の化身と呼ばれるような奴らとも戦闘行為を繰り返した。魔王の加護から逃れていまだ悪さしていると噂になっている危険地帯の奥地などへ乗り込んでみた結果だった。
その戦闘行為を終えた報酬として、神殺しの剣や、万物を通さない盾などと一緒に、転生の炎を手に入れるに至った。
僕は異世界から、日本へ転生が可能になったのだ。
実際、軽い気持ちではあった。この世界も文字通り攻略しつくし。ちょっと昔懐かしい故郷へ帰りたくなったのかもしれない。
日本の暦をみると、ちょうど僕が異世界転生した頃、北海道の桜が咲き始める季節に近づいていた。運命的なそれも感じたので、僕はちょっと地元へ帰るノリで、日本に対して転生をおこなった。




