異世界転生 二十日目
さっさと魔王城へ突入しようとする僕含めての急進派と、まずは慎重に世界各地を陣取る四天王討伐をすべきだという慎重派で、冒険者ギルドは二分していた。
正確には「急進派作戦本部」と看板が立てられたボロ小屋にいるのは、僕と甲冑のお嬢の二名。残りすべてが慎重派という構図だった。
毎日慎重派からも使者がやってきて、説得工作をおこなっているが、お嬢がガンとして首を振らない。
「これだけの戦力があるのだ、ほんと無意味な毎日だ」
「万が一、同時多発的に四天王が攻撃を仕掛けてきた場合、四天王周囲の街は壊滅します」
「それは仮にほかの四天王を各個撃破してもありえる話だろう」
「百年ほどで四天王は三回ほど撃破されています。だがそのたびに魔王軍からの総攻撃があったという記録はありません。しかしいきなり魔王が倒された場合、あなたがそれだけの力があるゆえですが。倒されてしまった場合は、なし崩し的に次の魔王を目指して四天王が暴れる可能性は大いにあります」
「魔王を倒せてすべての魔物は消滅する、という説があるが」
「可能性はありますが、四天王と呼ばれる勢力がその枷からはずれている可能性もあります。とにかく慎重に行動することの意味は大いにあるのです」
「すべて仮定の話。話にならない」
使者が帰ってしまうと、今度は僕がお嬢を説得する時間だ。
そう。実質的に急進派はお嬢一人なのだ。僕の能力にホレこんで僕を担ぎ上げ、さっさと今すぐ魔王殺そうとしているのはお嬢ただ一人。
なら僕がお嬢から離れれば、もうそれは急進派の解体を意味する。
ただそれはお嬢がかわいそうだ。悪気はないのだ。ただ意志だけが誰よりも強固。
そしてその意志を主張しても対立意見は出されたとしても、迫害されないだけの立場にある。だから僕はお嬢と一緒にいる。
「いい加減折れましょうよ」
「急進派の柱たるおまえがそんな弱腰でどうするっ!」
「いえ、僕はあなたに担ぎ上げられているだけの神輿ですから、急進派は実質あなただけです」
「黙れ神輿。神輿であるなら、神輿らしく担がれておれ」
自立する神輿なんですが、というつっこみは不要だろう。
「神輿が今回は折れましょうって相談しているんですよ。折れましょう」
「黙れっ。おまえがもっと強行を主張されば意見は通るっ」
びっくりするぐらい平行線が続いていた。
このお嬢様はとにかく生まれたこの方、自らの意見が通らなかったことが本当に皆無なのだろう。それゆえ、こういう反対されている状況が理解できず、訳が分からず、とにかくいつも通り駄々をこねているのだ。
お嬢は今日もぷんぷんしながらお城へ帰って行った。埒があかない。こっそり覗きに来ていた慎重派の斥候に首を振って今日もだめだったと伝える。
僕にできることはなんなのだろうか。
お嬢のようなお嬢様を説得する話術はない。顔もお嬢をホレさせるにはいたっていない。戦闘能力は評価してもらっているが、それ以上でも以下でもない。
「どうしたらいいかな」
慎重派の斥候を招き入れて、相談する。「四天王がいきなり全員死んでくれれば、いいんですけどねー」
「それはないだろ」
四天王がいなくなれば。
天啓。
「一番近くの四天王の城はどこ」
斥候が地図を広げる。川を越えて、山を三つ越えた先。直線距離なら割と近い。空を飛ぶ文明はこの世界にはない。なので空を飛べれば、かなり近い。
僕は翌日の強行派会議まで二十時間以上あることを確認した。
「慎重派に伝えてくれ。明日までに急進派は、慎重派と合流し、改めて魔王討伐のための旅に出るはず、と」
翌日の急進派会議に出てきたお嬢が、目を丸くする。
魔族らしき大男が縄で縛られて正座していればそうだろう。大男をよくみれば、四天王と呼ばれる一人であることに気づくだろう。
「お嬢。四天王の一人を拘束してみました」
四天王ガロウはすっかり意気消沈していた。城は完全倒壊し、瓦礫の中から引っ張り出した上でフルボッコにしてやったので、もう戦意はかけらもない。こちらのいうことに答えるだけのショボショボ魔物だ。
お嬢は少しけ落とされているようだが、すぐにいつもの調子に戻る。
「だから言ったのだっ。それだけのことをおまえは一人で数時間でやり遂げた。そうであるならば、今すぐ魔王城へ乗り込むことが最善だ」
四天王ガロウをゆする。
「話せ」
ガロウはうつむき加減のまま、恐怖を吐き出しながら答えた。
「王がやられれば、我らは割れます。手短な村を蹂躙し、新たな魔王を名乗ります。魔王がいきなり討伐されれば少なからずの大きな被害がでます。なのでこちらの方がおっしゃる通り、まずは四天王を時間をかけて各個撃破するのがいいと思います。そうすれば魔王は結局籠城するしかなくなります」
弱々しくなった四天王の言葉に、お嬢はようやく折れてくれた。魔王をいきなり討伐する方が遙かに被害が上回ると判断してくれた。
「解ったよ。まずは四天王を各個撃破。その後、最速で魔王城へ乗り込む。それでいいな」
「御意」
お嬢は慎重派のもとへ合流のための使者として派遣した。僕はそのあいだに、四天王を処置しておくと伝えておいた。
四天王はその後、殺害した。魔族を生かしておくことはしない。お嬢にはすべてを自白したので魔力の根元を絶った上で解放した、と伝えておいた。数百の人類を殺し食らってきたような存在を生かすことはしない。
その日のうちに急進派(二名)と慎重派は合流し、四天王のうち残る三名の撃破へ旅立つことになった。




