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僕が異世界転生するまでの30日間  作者: 小柳和也
一部 異世界転生するまでの僕 。

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異世界転生 十日目

 朝目覚めると、村人が大荷物をまとめ、村から出て行く準備をしているところだった。何事だと思って村人らを凝視すると、魔物、逃げなきゃ、今年もか、畑が、最低、あイッセイ様見てるホレる、などの台詞が見通せた。


 だいたいの事情を把握したうえで、住人の誘導をしているアリサちゃんを見つけたので事情を訊いた。


「イッセイさんも皆についていってください!」

「一応、どういう事情でこんな大移動になっているか教えてくれ。力になれるかもしれない」

「そんなっ」

「大トカゲを苦にしない程度の実力はあるんだから。助けになれるなら、なりたいんだ」


 アリサちゃんは可憐な声を絞り出すように事情を説明してくれた。

 村は今、収穫時期なのだ。

 数日前から作物は収穫に取りかかっており、取り終えた畑をまた肥やしている最中だった。畑自体が広大ゆえ、しばしは収穫中心の毎日のはずだった。こんな村中の人間が出払っていい状況ではないはずだ。


「魔王軍の従軍ルート?」

 アリサちゃんは悔しそうに天使ボイスを絞り出す。

「毎年この時期になると、魔物らが大軍で従軍してくるんです。私たちの村が進軍ルートにあって、それで邪魔だから本来は焼き払うところを、収穫時期の農作物を提供すれば、見逃してくれるという約定だときいています」


 それは。ただのヤクザ屋の仕事だ。因縁つけて恐喝しているだけだ。

 村人は毎年、畑を放置して山へ非難するということのようだ。


「魔王軍の従軍ルートに入っているんです。数年に一度以上はあります。そのたびに畑は放棄し、また一からです」

 合点がいった。かなり収穫量もあり、冒険者ギルドに徴収されそうといってもそれほどではなく、それ以外に搾取されそうな税金めいたものもない。それでも村はいまにも崩壊しそうな空気にあった。


 働き手は村からいなくなり、まとまった収穫があっても、従軍と称した略奪に遭ってしまうのだ。魔王城からほど近い立地ゆえ。


「抵抗しなければ殺さない、村娘も連れていかないという口約束ですが。それを守り、村は生きながらえました。それでもやはりむごい。アリサも逃げなさい。イッセイさんはこちらに」

 村長だった。アリサちゃんは僕に頭を下げると早足に誘導へ戻っていった。


「村長。魔物を任せてください」

 村長は小さく首を振る。

「あなたは本当にいいひとだ。そんなことまで頼めません」

「この村は、飯と仕事をお与えくださいました。信用ならないかもしれませんが、一度お任せ願えませんか。最悪死ぬのは僕だけです」

「大トカゲを滅したあなたなら確かに。その期待を込めて守衛を任せました。しかし騙した我々を」

「騙した? いつ? なにを?」

「魔王軍の襲来はいつもこの収穫時期。私らは黙っていた。あなたが戦ってくれることを期待して。そしてやはりあなたは戦うといってくれた。我々はそれを期待していわなかった」

 笑う。いい人だ。「なら約束を。魔王軍がいなくなったあかつきには、きちんと村の人間として認めてください」

「あなたは」

「ただの心根の狭い、人間です。神なんて無責任なやつじゃない。少しだけ魔物に対してアンタッチャブルなだけ」

「あんたっちゃぶる?」

「僕の耕した畑に、クソ虫共なんかは踏み荒らさせないってことです」


 ・


 僕はいつもの農夫の格好に着替え、クワを装備し、畑を耕す。

 普段通りの、村に来てからの日常風景だ。見渡す限り山の麓まで畑しかない光景。僕だけが畑仕事をしている光景が異様である以外は。


 村の出入り口になっている街道が騒がしくなってきた。

 街道沿いから畑へ続く道と、村へ続く道に別れている。

 僕は畑から一歩外に出て、柵の出入り口も閉じた。

 クワだけを背負う。

 ぞろぞろぞろぞろと、二足歩行の亜人種の魔物がやってきた。

 魔物だけあって二足歩行ではあるが、頭から上がワニみたいな野蛮な口だったり、体中鱗まみれになっていたり、手先が刃物状に変化していたりと、バラエティに飛んでいた。

「誰だおまえ邪魔だしねよどけ」

 先頭を歩いていた鳥頭、文字通り鳥の頭をした亜人が近づいてきた。


 僕は無論微動だにしない。

「今年から収穫量が不安定になった。ゆえにおまえらに接収される量がなくなってしまったんだ。申し訳ないが、今日はお引き取り願えないだろうか」


 遠目からみても十二分な収穫量が見渡せる畑を背にして、僕はそんなことを口走る。

 鳥頭が鳥頭を伸ばして、僕の後ろを見やる。


「どーみても、おれらが喰い漁れるだけじゃ足りないだけの飯が菜ってんな?」

「いやあれは冒険者ギルドへの依頼品になるから、渡せない」

「なるほど。ちなみに何のために冒険者ギルドへ依頼するんだよ」

「毎年収穫時期に乞食のように収穫物を食らっていく魔物を討伐してもらおうと思っている」


 魔物共がざわつく。

 そして歓声があがる。笑い声。

 約五十匹の魔物の軍勢。想像通り、畑を荒らし喰らいに来ただけなのでまともな装備はしていない。ただ魔物はほとんど二足歩行で、骨格も太く、体長二メートル弱はありそうな奴がわんさかいる。


 ヒト語を操り、暴力衝動にかられたそんな大柄な奴らが五十匹もやってきたら、そりゃ恐ろしい。

 そういえば自信満々でこんなことしているが。

 直接的に魔物に対して僕の力を行使したことはなかった。


「残念ながら乞食のようなやつらがもう目の前まで来てるけど、ギルドの奴らはどこにいるんだ、おまえだけか?」

「依頼完了前に、おまえらが来てしまったんだ。だから帰ってくれ」


 鳥頭は笑いながら、拳を振るってきた。不意打ちの一撃。

 僕にはすべてみえている。不意を付いて右頬を強打するという鳥頭の意志が。


 でも僕はあえてその拳を受けた。

 すでにこうなる前に硬化魔法を展開中だった。

 ボキっと音がして。


 僕を殴った鳥頭の手首が折れていた。鳥頭から悲鳴があがる。堅い岩を無造作に叩くように殴れば、手首ぐらいイッてしまうだろう。


 鳥頭がしゃがみ込む。悲鳴が続く。


 僕はそれを見下ろしながら、他の四十九匹によくみえるように、クワを振り上げる。

 クワの先端にエネルギー集約。打ち下ろした先で拡散をイメージ。


 鍬落爆散。


 鳥頭の胴体に振り落とされた鍬から、エネルギー弾が放射状に照射される。水道を全開にした先についているホースを、天高く向けたように、勢いよくエネルギー弾が放射される。


 それは、数秒にも満たない出来事だった。

 悲鳴があがることもなく、四十九匹すべてが地に伏せていた。


 全員意識がない。

 ぴくりともしていないが、殺してはいないはずだ。


 ダメージ調整は限りなくゼロにした。ただし痛みはなくとも、衝撃力が強すぎてまともに意識をたもっていられなかったようだ。


 手首を折られた鳥頭だけが意識を残していた。四十九匹が一撃で昏倒されたことに目を丸くして汗だらだらにだし汁だしている。

「僕からの要求はいくつかある。覚えきれるか、鳥頭で」

 鳥頭が激しく頭を上下させる。

「二度とこの村に近づくな。近づいたと判断した段階で、魔王城へ乗り込んで、魔王含め城にいる魔物すべてにこれと同じことをする。そのときは目覚めることはないが」

 鳥頭が目を丸くしたままうなづく。

「報復も考えるな。おまえの顔は覚えた。どこにいっても必ず発見する。おまえが全力で報復を防げ。いいな。あと、こいつら全員連れて帰れ。村人が帰ってくる翌朝までに。早くやれ」


 鳥頭が七時間ぐらいかけて四十九匹全員を運び終えるのを、畑仕事しながら僕は見守った。


 翌朝、村人が歓声と共に帰還したときには、魔王軍の従軍が来る前と変わらぬ畑と、鍬を握る僕だけが残されていた。

 平穏の再開。

 とはなりそうもなかった。

 魔物への口止めは脅迫で済むが、村人のそれまではどうしょうもなかった。

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