異世界生活 七日目
順風満帆な異世界生活だった。
労働寝床食事ヒロイン仲間などなど。楽しい異世界ライフに必要不可欠思われるものが次から次へとタイミングよくやってくる。
僕という転生者の元へ集うように、運命に導かれているようだ。嫌な言い方をすると、女神による一種の洗脳、誘導魔法の結果ということだろう。
神様の行ったことであるので、運命であることに変わりはないと判断して、やってくる人らはみんな受け入れた。
ある種の洗脳を受けていたとしても、可愛い子であり、律儀な奴であり、おもしろい奴であることに変わりはない。
・
洞窟のそばにあった寒村に、僕は暮らしている。
たまたま偶然奇跡的な確率で、村は近場の洞窟になぜか住み着いてしまった巨大トカゲ「モリツカミ」の討伐依頼と村の警備依頼を、中央都のギルドへ申請するところだった。依頼料だけでもそこそこふんだくられるので、村民全員からの寄付という名の徴収をおこなっている最中だった。
そんなさなか、村が討伐依頼を出していた巨大トカゲの巨大な尻尾を戦利品として担いで村までのこのこやってきたのが僕だったわけだ。
さすがに十数メートル級の大トカゲを丸々担いで持ってくることは一般人にはできないと判断して、せめてもの手向けとして尻尾だけ切断して引きずって持ってきたのだが、これで十分に討伐依頼として認められた。
僕は村の財政を救った救世主として、次いつまた巨大トカゲが出現するか分からないからということで、村専業の守衛として雇われた。
巨大トカゲもすべて女神様の采配であるから、二度とトカゲがでることはないが、寝泊まりする場所と職場を見つけたようなので、素直に受け入れることにした。
この寒村をとりあえずの拠点として、まずは冒険者登録から始めよう、そのためにはまず大きな街へ向かおう!! と考えていた異世界転生初日の頃の僕ではあるが、七日目の僕は手慣れた様子でクワを握って、収穫の喜びを味わうために土を掘っていた。
土と接することでの労働の尊さと癒しさもあるが、無論、そこまで素直な僕ではない。
一通り土を均し終え、畑の隅っこに座り込むと、すぅっーとお茶の入ったかわいげなコップが差し出された。
「お疲れさまです。砂糖はいらないんですよね?」
村長の娘が、美少女めいた自意識過剰なそれもなく、美少女然として飲み物を手渡してくれた。
「大人だからね」
「でも糖分は活動するために必要なものだと聞いていますよ」
「アリサさんが来てくれただけで十分あまあまだよ?」
アリサさんは美少女らしく微笑む。
「意味不明ですけど、なんだかおもしろい気がしますね」
正直者だが気遣いは忘れない。パーフェクト美少女かな?
どうやったらこんなアリサさんみたいな健康的な美少女が、こんなろくな産業も観光もない枯れ干からびた村で生まれたのか理解に苦しむ。
これも神の采配かもしれない。実際父親はむさ苦しい村長だ。母親も農家の嫁といったどこか昭和臭いおばちゃんだった。
なのにアリサさんは実子だという。完全に養子縁組の孤児であることを確信していたから、実子だと聞いて二度見してしまった。
村長からは、
「そこまで露骨に驚かれると、分かっていてもむかつくな」
というお言葉をもらっている。
アリサさんがどういう出自かは、追求しないことにしている。
ただアリサさんがむさ苦しい村長を父として尊敬し、昭和臭い母親を母として敬愛している。それでも十分だ。
とはいえ、アリサさんがいることで僕はこの村から離れる理由がなくなったわけだ。
絶世の美少女であり、かいがいしくもあり、性格も完璧。
守衛をしながら、こうして時間があるときは畑仕事を無償で手伝っている。宿と仕事を提供してもらっているのでwinwinだ。
アリサさんが次のお仕事に行かないといけないので、僕は話を切り上げる。アリサさんはいい娘なので、こちらから切り上げないといつも時間ぎりぎりまで一緒にお話してくれる。
「アリサさん、そろそろ次の人が待ってるよ」
「いけませんでした! ではいきますね! イッセイさんはいつもお気遣いありがとうございます!」
農作業をしている村人への食事配膳や飲み物補給が、主な彼女の仕事だ。
村人の九割は畑にでているので、人数分の食事と飲み物配膳は、実はかなりの重労働だ。
以前は村のおばちゃん勢がやっていたが、アリサちゃんがやるようになってから目に見えて労働意欲が増しているということを僕が指摘し、それを多数の男衆が同意し、こういう状況になった。お仕事には清涼感は必要だ。
結局この村からでることなく、衣食住完備、なおかつ居心地までよい、美少女まで付いている。最初の村からでることなく、こうして畑仕事を手伝いながら、村の守衛として生活を開始していた。
異世界転生しているのに、地元の田舎でぬくぬく生活を選んでいるような生活になっているかもしれない。
ただ、こういう生活を選んだことに、いくつか理由がないわけでもない。
女神様から授けられてしまった常時発動スキルの影響が、甚大だった。
僕には、人が考えていること、思考を文字通り読みとることの出来るスキルが付与されていた。
人の内面の考え、意志、想いを台詞表示するスキルだ。
それとなく、村の人間に聞いて回ったが、そういった人の内面を見通すスキルなど聞いたことがないそうだ。
誰もが習得できる能力ではなく、僕自身に付与された特殊能力ということだ。
やっかいなことにオンオフできない。規定から逸脱したチートスキル。神の術だ。
人の考えが文字通り読めるというスキルを寄越すなんて、宗教神にでもなれということだろうか。人の願いを理解し、叶えることが可能なのだ。ただの冒険者ではなく、神として超然性をもって異世界を制せ、と。
人間関係にも悩む必要がないということだ。
物語的にはそこは悩むべきところ、悩むことで物語が動くと思うのだが、女神は僕がそんな非効率なことは望まないだろうと判断されているようだ。
僕はそんな結論に達してから、街へ出る旅支度をやめ、クワを握ることにしたのだ。
軽く話に聞いただけだが、魔王と呼ぶべき魔物の親玉もおり、人の整備した街道から逸れると、すぐに魔物が襲ってくる世界であるそうだ。
勇者らしき勇ましき活動に精を出す若者は近頃見かけず、冒険者斡旋所が世界の各地に整備され、そういう荒くれ者の収入源として魔物討伐は盛んだという。
そのせいか冒険者斡旋所は調子に乗っているそうで、こういう地方の寒村が依頼を出そうとすると、相当にぼったくられるそうだ。
魔物に殺されるか、人に経済的に搾り取られて緩やかに死んでしまうか、の違いということか。多少苦しくても人は大抵後者を選び、斡旋所は潤い、寒村は寒村としての趣を高めていき、いつか地図からも消えていく。
だからかもしれない。
これだけの能力がある以上、僕は僕の見知った人のために能力を使いきりたい。
冒険者斡旋所みたいな権力がはびこる世界でだるそうな冒険者らと共に魔王討伐する日も来るだろうが、それは今すぐやることではない、と判断した。
なので今は、明日明後日の収穫を期待して、未来へ向けての食事へ向かってクワを振って、畑を耕す日々を選んだ。MMOでは必ずギャザクラ勢としても活動するので、こういう仕事も嫌いではないのだ。
そして平穏はいつも唐突に破られる。
それは平穏ではなく、非日常の間を縫うようにして、たまたまな平和を享受していただけだからだ。
ゆえに。
僕は平穏を破られないように行動することを覚えた。




