7日目
最後に棚沢さんの体をお借りして、田村さんの彼氏とも話しておくことにした。
映画版では改心するタイプの暴力キャラのようだから、少しは話しておいてもいいだろう。
校門前で待ってみる。
棚沢さんには悪いが少し噂になってもらうことになるだろう。深層意識化では仲良くなったから、きっとリアル化でも大丈夫。
田村さんの彼氏が正面玄関から出てきた。
田村さんはいない。田村さんがいないことは確認済みだ。さっさと独りで下校してしまい、僕の献花台へ向かってしまった。
校門に腰を預けている棚沢さんに、田村さんの彼氏が気づいた。
手を振ってみる。フリフリ。
田村さんの彼氏は怪訝そうになりながら近づいてきた。
「なんだよ。図書委員」
「ちょっとお話したくて」
「悪いけどおれには彼女いるから」
「田村さんでしょ。知っている。一生くんのお話したくて」
自意識過剰だった田村さんの彼氏が少しだけ顔を赤くしてから、スマホをタップする。
「一応田村にLINEしとくぞ。一緒に下校しているところ誰かに見られて噂になっても面倒だから」
「ご自由に」
田村さんの彼氏と下校になった。中の島方面、札幌の遠景を見ながら並んで歩く。
「図書委員にも手を出してやがったか」
「私が落とした図書館の本を拾ってくれただけですよ?」
「なんだそれ」
「一生くんも私も図書館にいることは多かった人種です。で、私は基本ドジっ子なので、よく整理している本をぶちまけていたんですよ。一生くんはちょっと前までは完全無視でした。関係ないと言わんばかりに。でも最近は一緒になって拾ってくれた。だから気になって」
「あいつは変わっていたんだよ。ただの陰キャから少しだけ、人生を前向きに踏み込んだ陰キャに、な」
「あなたからみても、そう見えたんですね?」
「意地っ張りになりながら、それでもあいつは誰かと関わることをやめなかった。それだけはすげえよ。聞きたいのはそれだけかよ」
「うん。あなたなら少しは聞きやすかったから。ただ、一生くんのお話がしたかっただけ。そうしないともう忘れちゃいそうだから」
「忘れてしまえよ。そうするしかない。あいつは死んでしまって。おれらは生きてしまっているんだから」
「強いねあなたは。田村さんが彼氏にするわけだ」
「なんだよ」田村さんの彼氏はまだまだ顔が赤い。「なんだよ」
「そんな話をするための口実かもね。じゃね」
棚沢さんの体でこれ以上やることは悪いだろう。ちょっと田村さんの彼氏をどきどきさせてから、僕はその場から離れた。
やはり僕が同級生らに殺される理由はなさそうだった。
そうなると、僕が死んでしまって、最も利益を受ける存在を疑わないといけない。