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死亡八日前

 あれだけ言っておいてマジで連絡しないとか、おまえ結構いい根性してんなっ」

 腕を組んだヤクザ系陽キャに見下ろされている陰キャという構図。完全にイジメの現場だ。僕はうつむき加減でだんまり。完全にイジメだ。


 早朝のホームルーム前。ほとんどのクラスメイトが着席済み。めっちゃくちゃ注目の的。僕は耳たぶまで綺麗に真っ赤っか。

「いや昨日は忙しくて」

「なんだよおれへの連絡以上に忙しいことあんのかよ」

「ちょっと攻略チームの固定との約束が」

「なんだよそれ! なにしてんだよっ。一から全部説明しろよっ」

 本人は無意識かもしれない。


 いや単に自分の都合を通しているだけということだろうか。

 衆人環視でのこのプレイはなかなかにダメージが深い。二度と陽キャとは関わらないと心に誓ってしまうかもしれない。


「なに一生くんいじめてんのさ」


 ようやく一時間目の授業の予習を終えたらしい田村さんが席を立ってくれた。

 詰められている僕への対処よりも、予習の方が優先順位が高いらしいが、それはさほど重要な問題ではない。


 きちんと立ち上がって抗議してくれたことが重要だ。彼氏相手だとしても、だ。

 田村さんマジヒロインっ! と、思っていそうな僕が田村さんと田村さんの彼氏を交互に見つめている。小動物感がある。


「男友達同士の猥談中なんだよ、来んなよ」

「完全に犯罪者イジメっ子の台詞。離れなさい」

「だぁからっ!! そんなんじゃねーよっ! なあっ」


 ほぼほぼ恫喝しながら、田村さんの彼氏が肩を組んできた。

 少し強めの香水かワックスの香りがする距離だ。敗北感も感じていそうだ。

 僕は完全に萎縮しきりでもはや相づちすら打てていない。かわいそ。


「どうみてもおびえきったハムスターになっているじゃない。離れて」

「一応男子高校生への例えにつかうなよハムスターは。かわいそうだろ」

 そんなことをかわいそう発言されている僕が本当に不憫だった。話は平行線のままだ。

「一生くんと話したいなら、私も一緒にいるときにするから。それでいい。そのとき以外は近づかないで」

「保護者かよっ」

「そっと扱わないと壊れちゃいそうな子なのよ。鈍感で無神経で不作法な君には理解できないかもしれないけど。世の中にはこういう子もいるのよ」


 田村さんの彼氏は渋々と、僕から離れると「わかったよ。放課後までは我慢してやるよ」と、捨て台詞を残し、自分の席へ帰って行った。


 僕は顔を真っ赤っかにして硬直しているだけだった。

 そんな可愛そうな僕を、田村さんはぽんぽんと頭をなでるように叩いてくれた。

「よく死ななかったね。誉めてつかわすぞよ」

 客観的にみて少しだけ分かった。

 僕は田村さんのペットだ。愛玩動物なのだ。でも教室カーストトップの女子のペットなら、ありじゃね?


 ・


 放課後の時間になり、田村さんの背後に付き従いながら、視聴覚室へ入った。

 先に待っていた田村さんの彼氏は、安っぽい回転椅子にふんぞり返りながら待っていた。


「おせぇぞ」

「一生くんが掃除当番だったの。君はやったことないから分からないかもしれないけど」

「やってくれるっていうからやってもらっているだけだっ」


 うわぁー。この人、素でいっているかも、否定しなかったよ。マジもんの天然はじめてみた。実質このときがあるから二回目だけど。

「君も少しは社会を学んだ方がいいね。ある意味、一生くんといい勝負だよ?」

「喧嘩売ってんのかっ一生っ」


 売っているのは完全に君の彼女さんだよという視線は意味をなさず、田村さんもよくあるやりとりらしく気にしたそぶりはなく、

「で、一生くんのことだけどね」

 と、本題を切り出した。


「私と一生くんは共犯関係なの。悪いことをしている主犯と共犯者。仕事仲間。だから君が邪推するような関係じゃない。キスはまだ君としかしてないよ?」

 今度は僕と田村さんの彼氏が同時に顔を赤くする番だった。勘弁してほしい。

「そ、そんなの分かってる。でも一応最近いつも一緒にいるから、そのなにしているか細かいところまで知っておくことが必要かな、とだな」

「それはいえない。私と彼の問題」あと先生。

「その言い方は気にくわない」

「私と彼だけの秘密」

「なおさらむかつくっ」

「でも他に言いようがないけど。一生くん何かいい案ある?」

「田村さんと愉快なその他大勢? とか」

「それなら許せる」

「いや。それは私がなんか嫌」

「いいだろっ!!?」

「とにかく分かったでしょ。何でもないの。浮気でもなんでもない」

「信用するしかないってことか」

「信頼して?」


 田村さんの彼氏は腕を組んで僕をにらむだけだった。

「とにかくだ。決めていたことだけどよ。それが一番手っ取り早いから。いいか?! 明日から一生がおかしなことしないように、おれがお前の期間限定親友になってやるよ。お前をより変容させてやる」

「それは賛成。いい機会だから矯正されちゃいなよ。矯正できる部分があるならされちゃいなさい。それでも矯正されない部分があるなら、それがあなたの芯だから」


 なんやかんやで。女友達みたいなよく話す女子ができて。

 積極的に構ってくれる男友達もできて。


 僕は間違いなく学生生活を充実させていったのだ。

 そしてそれから数日後。

 僕は死ぬのだ。

 人生の絶頂期で、なにも成すことなく、死ぬのだ。それはとてもさみしいな、と思った。

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