6日目
今日も棚沢由さんの肉体を拝借しての行動だった。
三上さんの部活動が終わるまで待機。
棚沢さんの生息地である図書館で時間を潰したあと、体育館用の出入り口前で待機。
他のバスケ部らが帰宅していく中、三上さんはなかなか出てこなかった。
しびれを切らして体育館を覗くと、想像通り汗びっしょりの軽くエロい雰囲気になりながら、シュート練習を続けている三上さんがいた。
何かに熱中するように。打ち込むように。無心にシュート練習を続けている。
「おまえは三上と友達だったか」
声に振り向くと例の担任教員だった。男子〇学生同士の性的なアレを学内パソコンの深い階層に置き去りにしている危ない教師。アブノーマルな状況でやることがスリルなのだという。もう終わっているといってもいい。
「一生くんのことに関して、少し話がしたくて、待っています」
「おまえもか。あいつはほんと手に届く女子全員に手を伸ばしているんじゃないか」
「大丈夫でしたよ。そこまで積極的ではなかったですから」
「なによりだ。攻略対象を途中で切り替えて、何人も同時攻略しようなんて、恋愛初心者の童貞野郎に出来ることではない。ゲームでも難解なのに、現実ではなおさらだ」
「先生は、三上さんに用事ですか」
「倒れられたら困るから定期的な監視だ。おまえがいるならおまえに任せる」
「任されます」
「三上、客だぞっ」
汗だくの三上さんが小首をかしげていた。かわいい。
ついでだったので担任にも僕殺害当日について何か知らないか聞き込みをしてみた。担任教師としての自責の念は強いようだが、それ以上でも以下でもなかった。これ以上生徒を失いたくないという想いだけは伝わった。
「棚沢さんも、一生くんと何かあった口なのっ」
シュート練習を継続しながら、三上さんが大声で話しかけてくる。
「特別何かあったわけではないです。ただ私はドジなので、よく図書室で本を床にぶちまけることが多かったんです。一生くんは普段は無視して通り過ぎるんですけど」
「最低だねマスターはっ」
マスターというのは、おそらく僕のことだろう。
「でも最近は手伝ってくれました。無視しないで助けてくれた。だから少しだけ気になっていたということが正解かもしれないです」
「マスターは変わろうとしていたんだよ。そして実際に変わっていた。陰キャの成り上がり物語が始まっていた。私は準ヒロインとして活躍したかった」
「メインじゃないんですね」
「荷が重い。でもたまに一緒にいる友達にはなりたかった。もうそれもかなわないけどね」
「バスケに打ち込む理由はなんですか。過剰に頑張っている気がします」
「マスターにいわれたんだよ。目標は? って。インハイ優勝はちょっと現実的じゃない。卒業後もバスケに関わって生きていけたら最高かなって。じゃあプロを目指せばって、マスターは簡単にいうんだ。ほんと適当だよね。でもそんなこと言葉にしてくれる人は、マスター以外いなかった。だから今は少しだけその目標に向けて無理している、のかな。マスターがいなくなったことが寂しすぎてやっている感もあるけど」
ずいぶんと無責任なことを口走っているようだった。
確かに三上さんのバスケスキルは客観的にみてもすごい上手いようにみえる。
汗だくバテバテになりながらも、スリーポイントラインの外からのシュートがほとんど外れない。リングの中心を射抜くようなシュパっと音が響くシュートが何本も決まっていく。八割近く、そんな遠くから入っている気がする。
「なれるかなれないかっていうより、そこまで強い目的をもってバスケやってなかったから。今はそれをもってやる。大学社会人、どこまでいけるか分からないけど。でも今はやるって決めてるんだ」
僕が何を口走ったのかは分からない。
それは記憶の無い時の僕と、三上さんだけの物語だ。
無責任なあおりだったのかもしれない。でも三上さんは後悔しないために動き始めた。
僕がこれ以上いうことはなかった。
僕死亡日についても聞いたが、特別な情報はなかった。皆、僕が死んだ当日にはそれを知らず、翌日学校から聞かされたということだった。
想像通りではあった。