追い付くその日は、すぐ傍に。
朝。村の広場には、またもや喧騒が広がっていた。
「よーし! 今日は“生涯ありがとうパレード”の準備だー!」
「昨日のバーベキューが“最期の夜会”だって言ってなかった?」
「どっちもやればいいでしょ! なんせ今日が“その日”なんだから!」
村の人々は今日も迷惑なくらいに元気はつらつだった。
昨夜、セレナが明日が“その日”だと自ら宣言したのがまずかったのだ。
村の連中は文字通り受け取り、“最終出勤日”のノリでセレモニーを始めた。
広場には“ありがとうセレナ様”の横断幕。
子どもたちは「無表情ゲーム選手権」と称してセレナの表情を真似しながら顔面筋肉を攣らせていた。
──セレナ本人はというと、
家の庭に椅子を置き、静かにその喧騒を眺めていた。
目の前にはカイが、ぐったりと突っ伏している。
「……カイ、少しはあの村人たちを止められないのか」
「…生憎だが、俺の影響力は、そんなにない……足掻いても無駄だ…」
疲れ切った声でカイがそう呟く。ここ数週間、暴走する村人たちを止めようと奮闘したが、全て徒労に終わったカイの発したその言葉には、何とも言えない重みがあった。
「…せめて横断幕の“死出の旅立ちセレモニー”って字を、もう少し柔らかく書けと指導しろ」
「…俺だって出来たらそうしてる…もう、手遅れだったんだ…すべて…」
セレナは無表情でため息をついた。
「しかしまあ……なんとも騒がしい最期だな」
「あんたの死、完全に地域イベント扱いされてるよな……」
その言葉に、セレナはふと目を伏せた。
焚き火のように、胸の中で何かが揺れる。
「…まあ、それも悪くない。」
そう返せば、目の前の青年は信じられないといった風に眉を顰める。その様子に、思わず笑いが込み上げる。やさしく頬を撫でる風に、それを台無しにするような騒がしさ。昔は嫌っていたはずのそれが、今となってはなにか違う物のように感じられるのは、歳のせいなのだろうか。
──ああ、本当に、…悪くない。
セレナはそよめく風を感じながら、眼前の騒がしさに身をゆだねるように、ゆっくりと、静かに目を閉じた。