見舞客らは、大騒ぎ。
「セレナ様が死ぬって本当ですか!?」
セレナが自身の死期を悟り、死に支度を始めて早数日。諸々の準備は着々と進み、セレナが「死ぬ準備万端…!」と無表情で鼻歌を歌っていたその日の午後、彼女の家の前には人だかりができていた。
きっかけは、村のパン屋の息子が零した一言からだったらしい。
「セレばーちゃん、死ぬってさ」
その噂は瞬く間に広まり、老若男女が「え? まじで?」「死ぬ死ぬ詐欺じゃないの?」「いや、今回はガチ寿命っぽい」などと口々に言いながら、ゾロゾロと家の前に押し寄せてきた。
ドンドン! ドンドン!
「セレナ様〜!セレナ様〜!ご無事ですかー!?」「あの世への旅支度ってほんとですか!?まだ渡したい物がありますー!!」「お香典って今渡すものですか!?」
騒がしさに気づき、セレナは玄関の戸を開けた。
「……騒がしいな。死にかけには刺激が強すぎる」
「「「………」」」
その台詞にセレナを除く村人全員が静まり返る。
ある者は驚愕の表情を浮かべ、ある者は頬に手をあて、この世の終焉でも来たかのような顔をする。
「やっぱり本当に死ぬ気だあああああ!!」
パン屋の青年の叫びを皮切りに、次々と村人たちが騒ぎ出す。
「やめてください!あんたが死んだら、この村の平均知能指数バカみたいに下がるんですよ!!」
「私まだ借金返してませんー!!」
皆が涙目で叫ぶ中、セレナは静かに右手を挙げた。
それは「帰れ」の合図だった。
「お引き取りを。余命数週間予定の者に、騒がしさは毒である。あと借金は返せ。」
だが、セレナの帰れの合図を気に留める様子もなく、村人たちの騒がしさはどんどんと増していく。
「予定って何!?それ自己申告制なの!?」
「やだやだやだやだ!セレばーちゃんが死ぬなんてやだあああああ!!」
「まだあんたに借りた鍋、返してないのよおおおおお!!」
「…いや、うるさ」
セレナはあまりのうるささに、音の発生源から遠ざかろうと上半身を後ろにそらす。
しかし、眼前の集団は止まらない。むしろその音量を上げていく。
「え、ちょっ、この間の教本の解説、最後まで聞いてないのに!!え、これ打ち切り!?死んだら打ち切りってこと!?やばくない!?人生の続きは!?死ぬなぁあセレナ婆!!」
「セレナ様!!是非!!財産分与のことも考えましょう!僕、法に明るいですから!お任せください!遺産、なんでも引き取りますよ!?」
「お迎え来てるって?やばいよ、それ、“あの世のスカウト”だよ!
断って!今すぐ断ってえええ!!!!」
「……」
セレナは無言で扉を閉めた。