妹
私は声を聞くなり条件反射的に彼女を抱えると、そのまま後ろに下がる。
すると私たちのいた位置に金棒が振り下ろされ、
地面が凹むほどの衝撃がこちらにも響いて来る。
危ない…!あんなの食らってたら死んでた!
「よお、何日かぶりだなガキ…屋上から陰湿な妨害して来てる奴がいるって聞いたから来てみれば…お前だったとはなあ」
彼は私のライフルを見ながら言う。
「何よ悪い…?あんた達も子供ばっか狙って陰湿だし仲間じゃない!」
私が言うと男の顔に青筋が浮かぶ。
「相変わらず生意気なガキだな!俺はネメシス幹部『オーガ』!
お前がいるとこのエリアに近付けねえ!
俺が倒してついでに大人に逆らったらどうなるか教えてやるよ」
こいつは恐らく…人より地の力が強いから、かなりしっかり氷漬けしないと簡単に砕かれちゃう!
でもそこまで厚い氷で覆うには狙いを定める時間が無くちゃ無理、暫く動きを止めてもらう必要がある…!
「そんなガキ抱えたまま戦えるかな?」
オーガは私に飛びかかると足元を狙って金棒を振り回す。
まずは足を潰して行動の自由を奪う気だわ!
私は咄嗟に交わすと、彼に向けて何発かの氷塊を撃ち込む。
しかしそれは彼の金棒によって防がれてしまった。
まずい…正直このままやり合うには部が悪すぎるわ!
体力がある内に逃げて焔に連絡した方が得策…!
私は彼の足元目掛けて氷を放ち固めると、その一瞬の好きに身を翻して逃げ出した。
…
「はあ…はあ…リカちゃん、ちょっと降ろすわよ…」
私はB棟の空き教室で息を上げる。
人を抱えなが走り回るのってすごくきつい…!
やっぱり対面であいつと私が正々堂々戦うのは無理!
「もしもし、焔?校庭でネメシスの幹部に遭遇したわ!
私は今分が悪いと判断してB棟内部に隠れてる
彼の能力は分からないけど、凄い怪力の持ち主なの
応援をお願い!」
私が通信機に言うと、焔は『了解』とだけ言って通信を切った。
「あの…私の事はほっといていいよ!
お姉さん多分敵だよね…?」
リカちゃんが言う。
「まあそうだけど…こんな状態の子供を放っておけるほど非情じゃないの!
大丈夫、私はあなたの味方よ」
私はそう言って彼女に笑いかける。
彼女はただ黙って私の顔をじっと見ていた。
なんか…他人とは思えないのよね、この子。
私にも妹がいたし重ねて見ちゃうと言うか…
もし彼女に何かあればカグラだってきっと気が気じゃない筈だわ。
…あれ?妹…?私って妹居たんだっけ…?
居た気がするけど今の今まで忘れてたわ…変なの。
そうそう、リリアと同い年の妹がいたはずよ、
名前…何だっけ…確か…
考えていると、私を追って来たのか金棒を引きずる音と足音が響く。
「…大丈夫よ、声を上げなければ気付かれないわ」
私は小声でリカちゃんにそう言うと外の様子を伺う。
彼は教室のドアを適当に覗き込んでいる、
しかしドアにべったりくっついてる私たちの存在には気づかずに素通りしてしまった。
背が高いから余計に低い所が見にくいのね…
よし、行った!
『こちら焔、リリア、校庭に誰もいないけど今何処にいる?』
「焔、私を追って幹部がB棟に入って来たの
今から焔のところまで誘導する、少し待ってて!」
私はそう言って通信を切ると、教室から出てオーガを追いかけ
「こっちよ!」
と声を上げる。
彼ははこちらに気付くと私を追って走って来た。
よし…!このまま校庭まで誘導してやる!
私はと付かず離れずの距離で校庭まで走る。
しかし彼は途中から私の行動の妙に気付いたのか、途中で身を翻してしまった。
まずい…!誘導していたのがバレた!?
私は彼を追ってB棟内部に入って行くと、
彼がまた教室の扉を覗き込んでいるのが解った。
まさか…弱い方から攻撃しようとしてるんじゃ…!
オーガは何かに気付くとリカちゃんの隠れていた教室の扉を開ける。
そしてゆっくりと金棒を振り上げた。
「やだ…!お姉さん助けて!」
私はその叫びを聞き、突如頭痛に襲われる。
『お姉ちゃん助けて!』
『あーやばいよあれ、死ぬんじゃない?クスクス…』
波の音と共に少女の声が頭に響く。
「あ…!」
これって何…?もしかして…前世の…記憶…?
突如、私の体に冷気が集まるのを感じる。
届け…!届け!
あの子だけは守らなきゃいけないんだ…!
「茉莉華!離れてて!」
私はそう声をげると、金棒を振り上げ立ち止まっているオーガに向けてライフルを撃ち込む。
体がふわりと浮くような感覚が襲い、
いつも以上に力が出力されているのを感じる。
彼に当たった弾はたちまち大きな氷の柱になり彼を閉じ込めてしまった。
「わ…標本みたい…」
リカちゃんは唖然としながらそう呟いた。
私は彼女の無事を確認すると、力尽きる様にその場にへたり込む。
なんか…今…変な感じがした…
いつもの感じじゃなくって…力が増幅したような感覚…
それに「茉莉華」って…この子ってリカちゃんでしょ…?
私…もしかして…「何か」を忘れてるの?
「お姉さん!」
よろけながら、リカちゃんが私に歩み寄って来る。
「大丈夫…!?今の、凄かったよ!お姉さんの目が青色に光って…!
大人の人氷漬けにしちゃった!」
光った…?私の目が…?
『もしもしリリア?大丈夫!?』
焔から連絡が入り、私は焦って応答する。
「あ…ご、ごめんなさい!今幹部を撃破したわ!
そっちに戻るからそこで待ってて!」
『え!?いつの間にそんな…まあいいや、気を付けてね』
連絡が切れると、私はリカちゃんを連れて校庭を目指そうとする。
…すると、どこからか拍手のような音が響いて周りを見渡した。
そして、廊下の向こう側で目が留まる。
あ…この人…合同訓練の時に見た…!
「すばらしい…幼き少女を守る為悪に立ち向かう姿…実に美しかった」
ゆっくり歩み寄って来るその人物は…
間違いなく「赤松宗次郎」その人だった。
「職員室に向かったんだが誰もいなくてね…そうか、今教師も総出で
迎撃に当たっているらしい…余程混乱している様だね」
彼は悠々とした態度で言い放つ。
「赤松宗次郎…!何の用!?」
「いやね、たまたま君達の戦いを見ていて感心したのさ
異星人にしては…熱い心を持っている様だと」
私、双星のジャージを着てるのに…異星人って解るの!?
「何でバレたんだって顔だな
…解るさ、君はジェド族の人間じゃないか?
能力を使う際に目が光るのはかなり特徴的だからね
うちにもその系統の異星人がいるから解るんだ」
普通の人間には無いものなんだ…!
無意識だし全然わからなかった…!
「君は勇敢に戦い少女を守った…誇っていい
うちのヒーロー達にも見習ってほしい戦いぶりだったよ
なので俺から君に褒美をやろう」
「褒美…?」
「君は…楽に死ねるよ」
有難い事に100話目に到達出来ました!
いつも読んで頂きありがとうございます。
このまま夏休み期間中に一部完できるよう頑張ります。