ヒーローのヒーロー
A棟付近に配属された生徒たちは、異星人迎撃に備えていた。
「ダガー、人数分ある!?」
「大丈夫!授業の成果ここで見せてやろう!」
「……きた!前方から複数人来るよ!」
生徒達はダガーを構えると、襲って来た異星人達を切り伏せて行く。
「なんだ、結構私達も出来るじゃん……!」
「異星人達も銃とか持ってるのかと思ったけど、普通に俺たちと変わんない装備だし大したことねーな!」
異星人達を捕獲しながら談笑していると、奥の男子生徒が何かに気付き声を上げる。
「おい!また誰か来るぞ……!子供だ。」
生徒達とあまり変わらないくらいの少年が生徒達に近付いてくる。
「流石双星の生徒!大人相手にここまでやるなんて凄いじゃないか!」
「何だお前……こっちは3人いるんだぜ?とっとと逃げて仲間と合流した方が身のためじゃねえの。」
「陽太、もう3人でやっちゃわない?子供だし多分勝てるよ。」
女子生徒の言葉を、少年は鼻で笑う。
「地球人って本当に馬鹿。ジャージに苗字書いてあるし、ホイホイ呼び合っちゃって……リテラシー無いよねー。
僕はこんな奴等に住処を追い出されたのか……」
「は……!?」
「教えてあげる、僕はネメシス幹部『リオン』君たち、可哀想だけどもう負けてるんだよ。」
「どういうことだよ?」
「西村陽太」
「あ!?」
「その女子生徒を襲え。」
名前を呼ばれた男子生徒は、女子生徒に向き直り切りかかろうとする。
「は!?ちょっとやめてよ!」
「ちが……体が勝手に!」
もう一人の方の男子生徒が女子生徒を庇い、生徒同士のダガーの刃が交差する。
「操られてるのか、お前……?」
「そうみたいだ……!助けて!」
男子生徒に庇われた女子生徒は、通信機で連絡を入れる。
「こちらA棟C班!ネメシス幹部と遭遇しました、応援をお願いします……!洗脳系の能力を持っているらしく、男子生徒の1人が操られてます……!」
しかし、何も応答は無く肩を落とした。
「お前らとりあえず逃げろ!俺のことはほっといていいから!」
操られた生徒がそう声を上げるが、2人は困惑してしまい引くことができない様子だった。
「なあ西村陽太、君が戦ってるそいつは何て名前?」
「光輝です!……あ!」
「宮下……光輝。西村と一緒に女を襲え。」
宮下と呼ばれた男子生徒は悲鳴を上げながら女子生徒の方に向き直る。
男子生徒生徒2人はダガーを振りかぶりながら女子生徒ににじり寄った。
「や……やだ!やめて!」
女子生徒が腰を抜かしながら叫ぶ。
男子生徒達が涙目になりながらダガーを振り下ろそうとしたその時、何者かがA棟2階から飛び出してきて男子生徒2人の後頭部をダガーの柄で強打する。
すると2人はよろけ、地面に伏せた。
「すみません!応答したんですけど電波が悪くて……報告内容がよく分からなかったけど来ちゃいました!」
「真白君……!助かった……!」
「ふーん……女、彼って強いの?」
「強いわよ!あんたなんかじゃ絶対勝てないんだから!」
「マシロ……マシロ、ね……」
「真白君、あいつにフルネームを知られると操られちゃうみたいなの、気を付けて。」
「それ解ってて名前呼んで来るとかお姉さん迂闊ですね!」
「あ……ごめん。」
「おい西村、宮下!」
リオンが呼んでも男子生徒達は反応しない。
「ちょっと強めに殴ったから気絶したかもしれないです」
フユキはそう言いながらダガーを構える。
「はは……まあいいや。僕、普通に戦っても強いからさ。」
「お姉さん、2人と下がってて下さい!」
フユキはそう言って気絶した2人を後ろに投げるとリオンに切りかかる。
しかしリオンはまるで遊んでやってるとでも言いたげにのらりくらい交わして笑っていた。
「へえ!本当だ、結構やるじゃん。前に戦ったヒーローより強いかもな、お前。」
「無駄口叩いてると負けますよ。」
フユキは刃の圧を強め、リオンと生徒達が離れる様に戦っており、それに気付いたリオンはダガーを取り出し応戦する。
2人の動きはほぼ互角で、押しも押されぬ状態が続く。
すると何かを待っていたかのようにフユキがダガーを振りかぶり、リオンに振り下ろす。
その凄まじい衝撃に耐えきれず、リオンのダガーは飛ばされてしまった。
「なっ……なんださっきの馬鹿力……!」
「俺の勝ちですね」
フユキが後ろに下がったリオンを追いかけると同時に、男子生徒の1人が目を覚ます。
「あっ……まずい!真白君逃げて!」
「宮下!この男のフルネームは!」
「え……真白……冬……樹………!?」
フユキの顔は青ざめ、額には汗が滲んでいる。
「真白冬樹、あいつらボコボコにして来い。」
フユキは絶望した表情で目覚めた男子生徒の前に来ると、胸ぐらを掴む。
(や……やだ……やりたくない……俺がボコボコにしたらこの人死んじゃう……!)
フユキは震えた拳を振りかぶる。
女子生徒はそれを真っ青な顔で眺めているしかなかった。
「フユキ!歯ぁ食いしばれ!」
刹那、声と共にリオンの後ろから金髪の少年が駆け抜けて来ると、フユキの頭めがけて飛び蹴りを食らわせる。
フユキは何が起こったのか分からず、蹴られた方に飛んでいく。
「ヒーロー参上……!」
「なぁーにぃ?また増えたの?悪いんだけどさあ、
1度誰かの名前が解っちゃえばイモヅル式にお前の名前も解っちゃうの!お前らもう詰んでんだよ。」
「詰んでねえよ、お前は俺が倒す!いや、半殺す!
よりにもよってフユキの能力悪用しようとしやがって……!こいつの能力は人傷つける為のもんじゃねえ!人守る為にあんだわ!」
フユキは潤んだ瞳でゆかりを見る。
「おい宮下!この金髪の名前は!」
「黄瀬ゆかりです……!」
「あーそう……おいきsfyu……」
言いかけて、リオンは違和感に気付く。
「あれ……声が歪む……!?」
「俺の能力はな、音を操る能力なんだよ。あんた声が使えないと何もできないよな?」
リオンは先程までの余裕とは一転、目を泳がせて焦りだす。
「なっ……嘘だ!僕の能力が効かないなんて……!」
ゆかりは逃げようと身を翻したリオンの襟首を掴み
「待てよ、どこ行くの」
と言って睨む。
「あんたさ、名前なんて言うの?」
「リオン……」
「あっそう……折角だから俺も呼んでやるよ。おーいあんたら、耳塞いどけ!」
ゆかりに言われると、全員銃撃戦用に携帯していた耳栓を付ける。
【リオンくぅーん!一昨日来やがれ!】
物凄い音圧で空気が揺れ、リオンがどれ程の爆音を浴びせられてるのかをフユキ達は察した。
リオンは白目を剥きながらぐったりと倒れ、ゆかりが勝利したことを全員が確信した。
「ありがとう黄瀬く……!」
女子生徒がゆかりの所に駆け寄ろうとすると、横にいたフユキが勢い良く立ち上がり、思い切りゆかりに抱きついた。
「……何だよ、泣いてんの。
だから言ったろ、報告内容分からない応援要請に飛び込んで行くなってさ。」
「怖かった……能力で人を殺すかもしれないって……」
フユキは涙声で言う。
「そんなこと俺がさせねえよ。」
「俺……だめだ……ヒーローになりたいのにゆかり君に助けてもらちゃって……」
「ヒーローを守るヒーローがいたっていいだろ?
英雄だって人間なんだから。」
ゆかりが満面の笑みで言うと、
フユキはそれを見ながら安堵したように微笑んだ。
「……あの2人……あんな仲よかっ……たっけ?」
「さあ……?」
女子生徒と男子生徒はその様子を見て少し唖然としていたのだった。




