墓
ウリュウ達と体育館に戻ると、シノが不機嫌そうに待っていた。
これだけ人が多かったら私達には静かに聞こえても彼からはかなり騒がしい声が耳に入っていることだろう。
ここまでぐったりとしたシノを見るのは初めてかもしれない。
「おせーじゃねえの、殆ど全ての生徒を集めた筈だぜ……多分。」
「ありがとうシノ。その拡声器借して。」
ウリュウはシノから拡声器を貰うと、
「体育館にお集まり頂きありがとう。
僕達はブラックホール団、渋矢を中心に活動する異星人の組織だ。
僕達がここをジャックしたのには理由がある、これから『ネメシス』なる異星人組織がここを襲撃するという情報が入っているんだ。」
と生徒達に言う。
生徒達はざわつき始め、混乱していた。
「そこで、僕達はその異星人達を迎撃しようと考えている。
ここにいる生徒や教師の中で手を貸してくれる人はいるかい?」
ウリュウの言葉に、体育館は静まり返る。
「いやネメシスがどうって……私達今ブラックホール団に襲撃されてるんだよね?」
「何でブラックホール団がうちに襲撃しにくる異星人達を迎撃すんだよ……」
皆戸惑っているようだ。
それも仕方ない、今ブラックホール団に襲撃されてるということで頭がいっぱいだろうし……やっぱり私の作戦、ちょっと強引だったかしら?
落ち込んでいると、一人の生徒が手を上げる。
「はいはい!俺やります!迎撃したいです!」
手を上げたのは、フユキだった。
そうか、フユキも何も知らない体で参加するという話に落ち着いたのだった。
「どうする……?真白君1人とか危なくない?」
「強いし大丈夫だろ。異星人と戦うとか怖いよ……」
ウリュウを見ながら、生徒達は参加を迷っているようだった。
すると、私の横にいた少年も手を上げる。
「やっと状況がなんとなくわかった……俺もやる。」
(ゆかり……!)
ゆかりが手を上げたのを見て、何人かがちらほらと手を上げる。
「真白君と黄瀬君がいるなら……やろっかな。」
「学園の為だしね。」
流石、最もヒーローに近いと言われていただけのことはある。
ゆかりの才能をよく知っている生徒達はゆかりを見てかなりの数が手を上げてくれた。
「ゆかり、ありがとう……!」
「……次から俺にもちゃんと説明しろよ。」
「ご……ごめんなさい……」
「……教師陣はコズミック5だけ?……ああ、手が上げられないのか。」
ウリュウが能力で教員全員の縄を解くと、教師たちは顔を見合わせる。
「ほ……本当に誰かが襲ってくるのなら……私は参加しよう……かな?」
「いいんですか主任!?あんな訳の分からない異星人達の言うことを信じて!」
教師たちは小声で揉めながらも、半数ほどの人間が手を上げた。
良かった、これだけいれば何とかなりそうだ。
「よし、手を上げた人達は校庭に集合。
上げなかった人達は勝手に抜け出されても困るしまた縛っておこうかな……シノ。」
ウリュウがシノを見るとシノは少しよろけながら生徒達を縛り始めた。
「じゃ、行こうか。恐らくそろそろ……奴らが来るよ。」
ウリュウに言われ私は頷く。
校庭に集められた生徒と教員に、ウリュウが指示を出した。
校庭や体育館等目立つ場所に戦力の高い人間が、
他は満遍なく人員を配置し、もし格上の相手に出くわしたらシノの作った通信機で知らせるという話に落ち着いた。
シノ……こういう時はやっぱり味方で良かったと思ってしまう。
いつの間にこんな量の通信機を作ってたのだろうか?
その場で生徒達は解散し、私は焔と屋上で待機するよう言い渡された。
ここなら学園が見渡せるし、不審な奴がいたらすぐに分かりそうだ。
「……あれ?焔、ヒーロースーツなんだ。」
「うん、衝撃耐性に優れてるしこっちの方が安全だろ。
……俺に何かあったらリリアが泣いちゃうから。」
焔は嬉しそうに言う。
「そ……そんな頻繁にビービー泣かないわよ……!」
「はいはい。それにしても、リリアのそれ何……?専用武器?ライフルみたいに見えるけど……」
焔が私の手に持たれた武器を見て尋ねる。
そう、これは今回の迎撃作戦の為に新調してもらった専用武器。
ワンドも可愛かったが、敵を苦しめるにはより凶悪に行かないといけない。
「そうよ!私が屋上担当になった理由!まあ見てなさい!」
『敵襲来!A棟、西口、東口、校庭方面から
侵入を試みているようだ。』
ミカゲさんの報告で私はスコープを覗く。
とうとうネメシスが現れたようだ。
ライフルを構えると、校庭方面からB棟に侵入しようとしているネメシスの団員に狙いを定め、撃つ。
すると私の能力を込めた弾は彼らの足に当たり、凍って身動きが取れなくなってしまった。
「うわ、これは厄介だ。上から凍る弾なんて連発されたらめんどくさくて士気が下がるね。」
望遠鏡を覗きながら焔が言う。
「どんなもんよ!」
私の能力の練度に目を付けたシノがこれを作ってくれたお陰で、今回は活躍できそうだ。
得意気にしていると、焔もにっこりと笑って
「俺も頑張らないと」
と言うと紅丸を抜く。
「え……頑張るっ……て?え……ええ!?」
焔は屋上から華麗に飛び降りると、綺麗に着地する。
(スーパーヒーロー着地って奴だ、あれ……!)
なるほど、ヒーロースーツ着てるからあのくらいの衝撃は平気なのだ。わかっていても心臓に悪い。
焔は私の放った氷で身動きが取れなくなった異星人たちをバタバタと切り伏せていく。
彼の炎は線を描きながら燃え盛り、火の粉を散らしている。
その様子は豪快でありつつ美しいとさえ思えた。
(焔ってこんなに強かったんだ…!)
私は次々現れる異星人達の足元を凍らせ、焔のサポートをする。
すると、校庭から侵入を試みた残りの異星人達は軌道を変えどこかへ去り、私達は10名以上の異星人の迎撃に成功した。
このまま作戦が上手く運べばいいのだが……いや、杞憂だ。
余程の邪魔でも入らない限りはきっと大丈夫だろう。
★ ★ ★ ★
――リリア達が迎撃に集中している頃、双星に向かう2つの人影があった。
「あのぅ……ほんまにいかはるですか赤松さん?しかも何で俺まで一緒に……」
「あの子を愛す者同士のよしみさ。何か不満があるのかな、喜助君。」
「あー!いやいや!無いですよ別に!異星人の俺を殺さんでいて下さる赤松さんに不満なんかあるわけないでっしゃろ……しかし、双星と赤松さんにどういう縁が?」
「あの学園は私の友人が立てたのだが……その目的は『慰霊』でね。
もう若いヒーローが死なない為の教育を施そうと設立された……言わば、でかい墓のような場所なんだ。」
「墓……ですか……じゃあこれから赤松さんは墓参りにいかはる訳で?」
「ああ。暫く顔を見せていなかったが……10年ぶりの墓参りだ。」
(学校を墓呼ばわりですか、縁起でもない。)
田村はそんなことを考えながら赤松の背中を眺めていた。




