乱入者
「なんでそんな個人的なことを……君に話さなきゃいけないんだ……」
ウリュウが私の問いにぶっきらぼうに答える。
言葉には余裕を感じられるものの、彼は少し疲弊しており、額には汗が滲んでいた。
教員達を縛り上げ何処かに運んできたと考えればここまで疲れるのも納得だ。
ふと見ると、遠くにボールを運ぶ用の荷車がある。
あれで往復してきたのだろうか?涼し気に見えて意外と手間が要るって部分では非常にウリュウらしい能力だが……
もし本当に時間を止められるのなら、ウリュウは作中でも最強クラスだろう。
(……今まで喧嘩売らなくて良かった~……)
「教員って他にもいる?」
「いや……今日来る予定だったのは全員いましたよ。」
ウリュウの問いに焔が答える。
「ありがとうコズミックレッド!お噂はかねがね……混乱の中協力を申し出てくれてありがとう。」
「……まあ……リリアがブラックホール団な時点で今回も何か事情があったんだなって思ったから……一言何か事前に説明は欲しかったけど。」
そう言って焔は私の方を見る。
「ご、ごめんなさい。本部に連絡されると都合が悪かったの……」
「ちょ、ちょっと待った!リリアさんってブラックホール団なの!?敵だよ焔君、何許す感じ出してるの!?」
あかりが焦ったように言う。
「確かに立場は敵だけど……『リリアは』信用してるから。」
「はあ!?」
訳が分からない、と言った様子であかりは私と焔を交互に見る。
他が冷静すぎて忘れていたが、本来ならばこれが普通の反応だろう。
「……それより……あの……あなたって……」
焔が言葉に詰まりながらウリュウを見て尋ねる。
「ん?ああごめん!僕はウリュウ、よろしくね。」
輝かんばかりの美しい笑みでウリュウが握手を求めると、焔はぎこちない笑みでそれに応えた。
よく見ると、焔の顔が引き攣ってるように見える。珍しく緊張しているのだろうか……?
(なんだこのとんでもないイケメン……!俺が成長したら越せる……?いやどうだろう。
しかも能力も強そう!俺よりイケメンで強そうな男がリリアの周りを彷徨いてるなんてー……!)
「ピンクもよろしく!そう言えば君はここの教師じゃないよね?何でここに?」
「元生徒なので15周年を祝いに来ただけです……!なのにこんなことになっていて何が何だか。」
そうだったのか。
記憶は改ざんされるわ事件に巻き込まれるわ、最近のあかりは散々な目に遭っているようだ。
「……ねえ、こういうのもなんだけど……あかりは自分がやりたくないなら無理して協力しなくていいのよ?」
言うと、あかりは恐ろしいものを見るような顔で私を見る。
「なっ……んで……そういうこと……言うかなあ……?」
「?」
「やる!双星守って必要ならあなた達も捕まえるから!
……縛られるのも嫌だし、一旦見逃してあげる。」
あかりは口ごもりながらそう言って俯く。
一方焔は何か気になったことがある様子でそわそわしており、落ち着かない様子だ。
「……コズミックレッド、何か?」
見かねたウリュウが尋ねると、
「あ、あの!ウリュウさんは……リリアとはどういう関係なんですか……?」
焔はそう言って訝しげにウリュウを見る。
ウリュウは何かを察したように にやりと笑い、
「リリアの上司だけど……近々婚約するかもしれないと言う話が出ていてね、まあこちらは本意ではないんだが……」
と呟く。
よりにもよって焔になんて情報与えているのだ、婚約する気などない癖に!
焔の方を振り返ると、彼は少し燃えながら震えている。
「婚約……へえー?でもウリュウさんって歳上みたいだし!?リリアは若すぎるんじゃないかなあ!?」
「僕は詳しくないけど、女の人って余裕のある歳上が好きって言うだろ?少なくとも炎が漏れてしまうような子供には興味無いかもね……?」
2人は暫し睨み合う。
なぜ急に揉め始めたのだろう……?
「あー!ちょっとちょっと、こんなとこで謎の喧嘩してる場合じゃないでしょ!?
来るんだよね、ネメシス!それについて話した方が絶対いいって!」
あかりが冷静に2人に割って入る。
2人は睨み合うのをやめると笑顔で「そうですね」「今日はよろしく」と穏やかに笑いながら呟く。
(助かったー……)
安堵していると、背後から急に何者かの攻撃を受け、ウリュウがごとそれを交わす。
空を割くような轟音で、すこし耳がピリピリした。
この攻撃は……!
「おい異星人!リリアを放せ!」
ゆかり……!そうか、ゆかりにも今日のことは何も話していないのだった。
「……知り合い?」
「友達……」
ウリュウが呆れたようにゆかりを見ながら尋ね、私が焦ったように答える。
「シノめ、生徒の誘導が完璧じゃないじゃないか……」
ウリュウはそう言うと柏手を叩きゆかりと一瞬で距離を詰め、ゆかりの腕を掴み上げた。
「あれ!?」
「捕まえた!あ、君よく見たら前に会ったことある人じゃないか。」
「……あー!リリアの保護者の方!?」
「理解してくれた?僕は敵じゃないよ」
「さ、サーセンっす!勘違いしてて……!」
ゆかりはそう言ってウリュウに頭を下げる。
「ゆかり……よく見つからずにここまで来れたわね。」
「君も優秀みたいだね……そうだ、ネメシスが来るまでまだ時間がありそうだし、
君のようにやる気のある生徒にも協力を仰いでみよう!体育館に行こうか、皆様。」
ウリュウがそう言って歩き出すと、彼の腰に付いていた通信機が鳴る。
「……失礼。はい、もしもし?」
「ウリュウ、緊急事態だ……!妙に強いマダムと謎の少年から攻撃を受けて……うわあ!」
そこでミカゲさんのものと思われる声は途切れる。
「……予定が変わった、コズミック5の皆は体育館に。俺はミカゲ君の所に向かう。」
「私も行くわ!」
私とウリュウの2人は通信記録を辿り通信が途切れた場所まで急いだ。
通信の途切れた場所に着くと、そこにはコズミックグリーンに襟首を捕まれ、たミカゲさんがいた。
凛太郎はそれを不思議そうに眺めている。
「ミカゲ君……何遊んでるの。」
ウリュウは肩透かしを食らった様子で興味が無さそうに言い放つ。
「遊んでない……!見たら解るだろう、劣勢なんだ!」
「コズミックグリーンに凛太郎……!なんでここに!?」
尋ねると、凛太郎は笑顔で手を振りながら
「遊びに来たら急に襲われたからグリーンさんが防衛しただけ。」
とあくまで緊張感無く答える。
「このマダムには俺の能力が効かないんだ……!とにかく助けてくれ!」
私とウリュウは顔を見合わせる。
「あら、また会ったわね!この人お姉さんのお友達?」
「まあそんなとこ……グリーン、放してあげてくれない?」
私が言うと、グリーンはそっと手を放す。
「はあ……助かった。」
「で?これはどう言う状況なのかしら?」
頰に手を当てながらグリーンに尋ねられ、私は今日の作戦とこの後起こることについて話した。
「まあまあそれは大変。」
「あの……グリーンさん、本部にはこのこと黙っていて欲しいの。
私もヒーロー達に攻撃されるかもしれなくて……」
「解った、内緒にしておくわ!頑張ってねお姉さん。」
グリーンは私の頭を撫でながら言うと、ウリュウの方を見て
「因みに……うちの子に何かあれば殺すから」
と言い放つ。
「ま……マダム、ご冗談を……!」
ウリュウが引き攣った笑顔で返すと、
「みつばさんの言ってる事嘘じゃないよ」
と凛太郎が無邪気に補足する。
「あの娘にしてこの親ありだ……ユウヤくんもとんでもないのに捕まったな。」
ウリュウは青ざめた顔で私にそう耳打ちしたのだった。




