双星襲撃
ヒーロー本部の事務室で、青柳はみつばから辞表を受け取る。
「本当に……辞めてしまわれるのですか?まだ後継も育ってないと伺いましたが。」
「辞めるならこの日に辞めたかったのよ。
姫ちゃんが亡くなってからもう16年も経つのね……早いわ。」
みつばは遠い目をしながら言う。
「これからは……どうするおつもりですか?」
「勿論!ヒーロー継続よ!」
「え!?」
「家庭を守るママって言うヒーローにジョブチェンジ!」
ウインクしながら言うみつばに、青柳の顔が綻ぶ。
「……スケバンレディ時代から始まり……長い間ヒーローをお勤めされたこと……いえ、これからもヒーローを継続されること、
本当に尊敬します……みつば先輩。」
そう言ってみつばを送り出した青柳の目には、
少し涙が滲んでいた。
ーーーーーー
ブラックホール団の医療班アジトにて、リリアはナギを見つめていた。
今日は双星の15周年式典当日、絶対に失敗はできない。
(ナギ、貴方の為にも私…絶対に頑張るからね!)
私は眠るナギの手を握りながら決心すると、部屋をそっと出た。
「ナギに挨拶してきたの?」
ウリュウと合流すると、彼に尋ねられる。
「ええ……いいお土産話用意しなくっちゃ!」
「そうだね。」
ウリュウはそれだけ言うと私の手を引く。
その手は少し震えていて、ウリュウの緊張が伝わってきた。
今日の手筈はこうだ。
まずは校門から堂々侵入し、シノが生徒の避難を、
ウリュウと私が教員の包囲を、ミカゲさんは連絡手段の妨害と万が一早めに来た見学客がいた場合の安全確保を担当している。
「念の為、リリアには生徒のふりを続けて貰った方がいい。顔を知られていない幹部の存在は貴重だ。」
ウリュウの言葉にシノは軽く頷くと、大きな拡声器を持ち校門に立った。
「おい!動くなテメーら!俺たちはブラックホール団!今からこの学校を……ジャックするぜえ!」
シノの言葉に生徒達はどよめく。
「おい、この人質が見えねえのか!?言うこと聞けよ!
今からお前ら生徒達には体育館に集まって貰う!グズグズすんな!」
シノはそう言って学生達の誘導を始めた。
(……あれ?イヤホンしてる……?)
「こんな時に音楽聞いてるの?あいつ……」
「彼は人の多い場所が苦手なんだ。いろんな声がごっちゃになって聞こえるから。」
ウリュウが私の方を見ずに言う。
「あ……」
だから初め、あんなに嫌がっていたのか。
「……いい友達ね。」
私が言うとウリュウは少し顔を逸らしながら
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ、行くぞ。」
と言って歩きだした。
『この学校は俺たちブラックホール団がジャックした!生徒に手出されたく無かったら教員は校庭に集まること!いいな!』
校内放送でシノの声が響く。
シノの誘導のお陰もあり、校庭には教師達が困惑した様子で集まっていた。
ウリュウは私の頭に銃を突きつけ、
「教師の皆様、お集まり頂きありがとう。僕はブラックホール団幹部のウリュウ……双星学園をジャックしに参りました。」
と、悠々と語る。
教師陣の中には勿論焔もおり、隣には何故かあかりもいて、焔の方は何かを察しているような顔だったが、あかりは明らかに動揺している様子だった。
「ジャックだと……?」
「何を考えている!」
教員達は口々に声を上げるが、ウリュウが私から手を話し柏手を叩くと、騒いでいた教員の口は後ろ手を縛られた上口にガムテープが貼られ声を出せなくなってしまっていた。
こいつの能力……!見るのは2回目だ。
いつの間に口を塞いだのだろう?
「教員の皆様、聞いて下さい。これからネメシスと言う異星人組織が双星を襲撃しにやって来ます。
僕たちはそれを迎撃したい……力を貸して下さる方はいらっしゃいますか?」
ウリュウが言うと、今まで静かに聞いていた教員達も騒ぎ出す。
「あの……もし本当ならヒーロー本部に応援を頼みたいのですが。」
騒がしい中、めいっぱいの大きな声であかりが言う。しかし、その言葉にウリュウは静かに首を振った。
「僕達まで殲滅対象にされたら敵わないからそれは無し。
あ、考えうる連絡手段は全て破壊してるし、今この一帯は電波妨害により携帯が使えないので悪しからず。」
「本当だ……!あ、貴方達……こんなことして一体なんのつもり!?」
「だから、ネメシスを迎撃するつもりで来たって言ってるでしょ。」
女性教員の質問にウリュウが不機嫌な様子で答える。
(こいつもうミステリアスキャラ演じるのに飽きてきてそうね……)
「で?僕たちに加勢してくれる教師はいないの?」
ウリュウの呼びかけに応える者はなく、場は静まり返る。
焔は何が起きているのか把握するのに時間が掛かっているようでずっと何かを考え込んでいたが、やっと口を開く。
「俺とピンクは参加してもいいよ、学園を守りたいから。」
「はい!?焔君何勝手なこと言ってんの!?」
焔は言い切った後で少し私を睨む。
何で黙っていたんだって顔している……悪かったが、こちらにも事情があったのだ。
「……他に協力してくれる人は?」
ウリュウが教員たちの方を見て再び尋ねる。
「ふざけるな!異星人風情が!生徒を放せ!」
……刹那、そう叫びながら男性の教員がダガーを持って襲ってきた。
「ウ……!」
ウリュウの名前を呼びそうになって、慌てて声を抑える。
(だめ、声を上げちゃ……!私は人質の生徒って体なのよ!ウリュウを信じて!)
ウリュウは一切臆することなく、教員がこちらに走ってきているのを呆然と眺めた後柏手を叩く。
するといつの間にかその教員の手足は縛られ、ダガーが寂しく地面に転がった。
「……見たろ?異星人ってだけで殺意を向けられるんだ、先は長いな。」
ウリュウは皆に聞こえないくらいの小声で呟くと、手を上げなかった教員達を一瞬で縛り上げどこかに消してしまった。
この能力……!まさか……
「ウリュウ、あなた……時間、止められるの……?」
私は目を見開きながらそうウリュウに問いかけた。




