過去の恋
報告が終わると、私達は解散し、フユキは笑顔で帰って行った。
私も帰ろうと部屋を後にしようとすると、
ウリュウに呼び止められる。
「何…」
「その足、どうしたの?」
彼は私の足に出来た青痣を見て言う。
うわ…結構大きくなってたのね…!
「あっ…これ…は…!気にしないで!」
まさか敵の女の子を助けるために身代わりになりましたとか言えないし!
「結構深刻な打撲跡に見えるんだけど…来て、冷やしてやるから」
彼はそう言うと私の手を引いて医療器具の沢山置かれた薬の匂いのする部屋に連れていかれた。
「…自分の家にも医務室がある訳?」
「悪い?使わない薬とかはここに置いてるんだよ」
彼はそう言うと私をベッドに座らせて患部を冷やす。
「-っ!」
「痛い?」
「痛くないけど…冷たくてびっくりしちゃった…」
「なんだそりゃ、能力が氷の癖に冷たいのに慣れて無いわけ?
…暫くじっとしてて」
彼はそう言って優しく笑う。
…今だったら…聞けるかな
エリヤについてどう思ってたんだろう、とか。
「あの…さ…この前…あんた私に言ったでしょ…
エリヤ愛してるって」
私が言うと、ウリュウは少し咳込む。
「言った覚えがない」
「寝ぼけてたもの、でも確かに聞いた
ね…どういう関係だったの?
お姉ちゃんと…」
目を逸らしながら言うと、彼は少し横を見た後
「まあいいか…君と婚約するかもしれないって話だったし」
と呟く。
うっ…そういえばそうなんだった…!最悪…!
「エリヤは僕の…婚約者だったんだよ
親が決めた婚約だったけど…
僕は案外彼女の事、嫌いじゃなかった」
そう語るウリュウの顔は、少し柔らかい。
本当に…エリヤの事好きだった…んだ。
「どういうとこが好きだったの…?」
「ん…そうだな…彼女は弱かった
嫌なことがあればすぐに喚いて泣きつくし
とにかく文句の絶えない奴でさ
…僕がいないとどうなっちゃうんだろうって思ってたけど
その脆さが案外好きだった」
「へ、へえ…?」
この人ってその手のタイプの人苦手なんだと思ってた…!
しかもエリヤってそんなめんどくさい感じなの!?
「でも…彼女、僕に地球人の血が混ざってるって解ったら離れちゃったんだ
簡単に離れていく彼女を見て…ああ、別に僕がいなくても
彼女は何とかなるんだって思った」
「今でも好きなの?」
「まさか…別れ際『気持ち悪い』って散々言われたんだぜ?
そこまでされて好きでいれるほどお人好しじゃないさ」
「でも…おねえちゃんの事…嬉しそうに話すから」
私の言葉に、彼は私をじっと見る。
「…そんなに嬉しそうだった?」
「ええ、とっても」
「そう…でも本当に今は好きじゃないよ
彼女は僕の友人を引き連れてここを裏切ったし
…君を殺そうとしてるから」
「…えっ」
そ、その言い方じゃまるで…
私もあんたの大事の物の一つみたいな言い方じゃない…!
「でもまあ…そうだな
見た目はかなり好みだったかも
僕ちんちくりんにはマジで興味ないし」
「なっ…!今の、私への嫌味と取るわよ」
「そう取ってくれ、今のは君への嫌味だ」
可愛くない奴…!
「ふん!あんたも不運ね!
自分が悪いとはいえ私と婚約する事になるかもしれないなんて!」
「別に不運とは思ってないよ」
「…そうなの?」
「リリアは子供だけど…真理愛は15歳だっけ、俺の2つ下?
君の言動を子供だと感じたことは無いし
ずっと面白い奴だと思ってたんだ
エリヤとはタイプが違うけど…君も中々イケてるぜ」
彼は私の方を一切見ずに言い放つ。
私は最初…この人の事を誤解していて
ただの嫌味で不気味なヤバい奴だと思ってたけど、
今はそうでもない。
この人は私を無視しなかったし…
仕事をすれば褒めてくれるし
目的が合えば意見だって受け入れるし
部下が倒れれば落ち込み、
人並みに過去の恋愛を引きずってる
誰よりも人間的で意外に優しい人。
…何より私を真理愛として見てくれる
数少ない人物でもある。
「あんたも…結構イケてるわよ、
…見た目以外も」
私が彼の顔を伺いながら言うと、彼は氷を取り私の足に湿布を貼る。
「早く大人になれよ、真理愛
…流石に今の君にどうこう出来る程
子供好きじゃないからさ」
彼はそう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
…そっか…ウリュウは別に今もエリヤが好きな訳じゃないんだ…
って!何ほっとしてんのよ私は!
何にしたってこいつは嫌味だし何考えてるか解らないし!
婚約なんかしたら毎日おもちゃみたいに扱われるに決まってるんだから!
…でも…
もし…あの3人の内の誰かと本当に婚約しなきゃいけなくなったら
こいつが一番マシ…かもね…。
「君、これから時間ある?」
「えっ…!?ま、まあ帰って寝るだけだから暇っちゃ暇だけど…」
「じゃあちょっと手を貸して
これから僕たちの作戦の中で
一番面倒なミッションをこなすから」
「一番面倒なミッション…?」