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レッド

私達はギリギリで教室に着くと急いで席に着く。

教室には40名ほどの生徒がいて、先程見た顔ぶれも確認できた。


ホワイトも同じ授業を取っているみたいだ。

あ、いじめっ子の金髪坊主もいる……まあそちらはどうでもいいか。


「ねえ、レッドってどんな感じなんだと思う?テレビで見た時は小柄だったし……女の子かな!? 」


「まっさかー」


前の席の子たちが楽しそうに話している。


小柄……? 妙だ、コズミックレッドは現在、アニメと同じ「赤城焔(あかぎほむら)」が担当している筈。

ならば仮面姿の大男として認知されていなければおかしい。


「皆、遅くなってごめんね。」


そう言って扉から出てきたのは先程私達にゼリーをくれたあの小柄な少年だった。


あれが……コズミックレッド……!?


「ヒーロー史上最強の男」と言われたその男…「赤城焔(あかぎほむら)」は、年齢も謎、顔も謎、生い立ちも謎だった。

レッドは内に燃える正義を最後まで貫いた偉大なヒーローで、その死を以てホワイトに正義のあり方を示したキーマンでもある。

その彼がこんな若いなんて……


レッドは私に気付くと、こちらを見てにこりと笑う。


「見た!?今こっち見て笑ったよ……! 」


「可愛いー! 」


「この度は俺の授業を受けに来てくれてありがとう。

俺は剣技が得意だから……この一ヶ月皆にダガーの講師をします! よろしくね。」


「はい、いっすか」


先程の金髪坊主が自信満々に手を挙げる。


「なんでしょう」


「俺、多分あんたより強いですよ」


金髪坊主がそうレッドに言い放った途端、教室はザワつきだす。

レッドに向かってあの威勢、やはりあの少年は調子に乗っているようだ。


「ねえ、あの金髪坊主……態度でかいけど何者? 」


私は前の席に座っていた女子に小声で尋ねる。


「ひゃっ……変な呼び方しちゃだめだよ! あの子は『黄瀬ゆかり』君、双星でも稀に見る天才らしくて、今一番ヒーローに近い存在って言われてるの。だからあんまり…」


成程、それで調子に乗ってしまっているのか。

少し才能があるからといって講師に喧嘩を売るとは礼儀のなっていない奴だ。

しかもコズミックイエローと同姓同名とは驚いた、優しくて面倒見のいいイエローに比べ、金髪坊主からは粗暴な印象しか受けないが。


「って能力があるし……あれ、聞いてる!? 」


「ありがとう! 参考になったわ! 」


「ほんとかな……」


「赤城焔……あんた双星きっての天才らしいね。でも俺、この前あんたの体力テストの記録を抜いたんだ。

先生に言われていやいや参加させられたけど、自分より弱い奴に教えて貰うとか、俺無理だわ……帰っていい? 」


生意気な奴め、授業ぐらい自分で選択したらどうなんだ。


「戦ってみないと君が俺より強いか解らないですよ。」


「じゃあ戦わない? 模擬戦闘スペースでさ! 」


「うん勿論、授業が終わった後でね。」


レッドは満面の笑みでそう金髪坊主に返す。


「え……」


「ほら、君だけの為に時間使ってたら授業できないでしょ? 終わったら相手しますので、君はどこかで時間潰しててね。」


クスクス……と我慢しきれなかったであろう誰かの笑い声が響く。

あんなに啖呵を切ったのだ、それを軽くあしらわれてしまっては笑われもするだろう。


「何で俺があんたの都合に合わせなきゃ……! 」


「それはこっちのセリフなんだよなぁ」


ビクッと体を震わせ萎縮する金髪坊主。

近くに居るわけでも無いのに私の心臓も縮み上がる程の覇気だ。


「君一人のせいで、どれだけの人間が時間を無駄にすると思ってるの?

ヒーローっていうのは団体行動が主、君みたいな奴は才能があっても人間性が原因で社会から弾かれる。

勿論俺の教室からも……授業を受ける気がないなら出て行きなさい。」


「チッ……ぜってー負かす! 」


情け無くも臆したのか、金髪坊主はそう吐き捨てて教室から出ていった。


物凄い圧……アニメで見た通りの厳しさ……!

間違いない、本当にこの人「赤城焔」なんだ。


ーーー


レッドに案内されるまま、生徒達は何事も無かったかのように道場につく。


「皆も知ってると思うんだけど……ヒーローは自分の能力を引き出せる武器を個人的に発注してそれを用いて戦います、例えば俺の場合はこれ。」


レッドはそう言って腰から刀を抜く。

刀は炎に包まれていて、その炎は美しく揺らめいていた。


「燃える刀……『紅丸(べにまる)』だよ!かっこいいでしょ!

こういう接近武器が使えるようになると、後々役に立つと思うんだ。

だからその為に今日は基本的な動きを覚えようね!まずは素振り2000本!1000本ごとに休憩挟むから頑張って!」


レッドはそう言って満面の笑みを浮かべた。


「ねえナギ……素振り2000本って言った? あの人」


「言ったね! 流石ヒーロー! 

肩慣らしでそんなハードなメニューを……! 」


ナギは嬉しそうに目を輝かせる。

レッドはアニメでもハードメニューをこなしていた印象だ。

もしかしてこの授業、地獄の始まりなのでは……?


……


「はーい、いったん休憩!皆頑張ったね!」


素振り2000回を終え、私は床に倒れ込む。

一方講師のコズミックレッドは一緒に竹刀を振っていたにも関わらず、全く疲れている様子がない。


もし「ヒーローと敵対しない未来」に辿り着けなかった時、レッドは私の「宿敵」になる。


アニメのリリアも、能力的に相性の悪いレッドと何度も衝突していた。

しかし、現時点でこの体力差では彼に勝てる可能性は0に近いだろう。

頑張って組織での立場を上げなければ、いずれ蹂躙されてしまうかもしれない。


「はあ……はあ……! 死ぬ……! 」


「リリア大丈夫? 水飲もう水……! 」


「あり……がと」


疲れ果てた私に、ナギが水を渡してくれる。

対してナギはあまり疲れている様子ではなかった。

この人は本来、私よりも圧倒的に実力が上なのだろう。

何も知らず戦闘指導していた事実が恥ずかしく思えてくる……


「……あの」


「あら……さっきの……」


床に座り項垂れている私に心配そうな顔で話しかけて来たのは、ホワイト……にいずれなる少年だった。

彼も先程素振りを2000本を終えた筈だが、その顔色からは疲れを感じさせない。


「さっき助けてくれたの、ありがとうございました!」


「それ……さっきも……聞いたわ。別に……当然のことしただけ。」


私は今できる限りの凛々しい顔でグッドサインをする。


「俺、さっきからあなたの練習してる所見てました! あんまり体力無いんですね! 」


彼は私の前でしゃがみ込むと、満面の笑みで言い放つ。

そうだ、忘れていた……! コズミックホワイトは通称「ノンデリサイコ君」!

正直すぎるあまりに言葉が鋭利な子なんだった…!


しかし恐らくホワイトに悪意はない、彼は常に自分に正直なだけなのだ。


「わざわざそんな事言いに来たの?

お前勘違いしてるかもしんないけど、リリアはお前が困ってるから助けただけで友達になった覚えないから……馴れ馴れしくすんなよ。」


「お兄さんは体力すごいですね!なんかこういうの慣れてるって感じしました! 」


「え……ああ、まあな……」


アニメでもそうだったが、ホワイトは人の事をしっかし観察している。

ナギの実力まで見抜いているのは流石主人公といったところだろうか。


「一方君は全然持久力が無いし、素振りのフォームもへにゃへにゃで見てられなかったくらいなのに……

ゆかり君に挑んじゃうなんてすごいです、俺だったら絶対にやりません! 」


「褒められてるの……? 」


「勿論! リリアは勇敢なんですね! 」


「何で名前……? 」


「さっきお兄さんが呼んでました。」


「様を付けろよ、無礼だぞ。」


「解りました、リリア様! 俺、一緒にいてもいいですか? もっとリリア様の事知りたいです! 」


「別にいいけど……知れるような余裕ないと思うわよ……? 」


私は次、もっとハードなメニューが来ると確信していた。

あの講師、優しそうなのは恐らく見た目だけだ……!


「皆結構疲れちゃってるねー…困ったな、これじゃこれ以降のメニューもこなせないかも。

そうだ!体力付けるために今日は20キロ分走ろうか!」


その言葉を聞いてその場にいた全員が青ざめる。

やっぱり鬼だ……!

この授業、最後までこなせるのだろうか……?

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