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ヒーロー

リカと呼ばれた少女は足に大きな痣を作っていて、その青痣からその痛々しさが伝わってくる。

立てない所を見るに、骨折しているかもしれない。


「気の立ってる大人にたまたま話しかけちゃったみたいで……足を蹴られたんだ。」


少年の1人がそう説明してみせる。

流石、双星の子供を狙うだけあってこんな幼い子にも手を上げられるのか。とてもではないが理解できない。


「すぐに治すよ!」


カグラはそう言って目を閉じようとする。

……瞬間、私の頭にナギの顔が浮かんできた。


「待って」


私はカグラの腕を引く。


「何!?急いでるんだけど!」


「……あんた、身代わりが無いと治せないんじゃないの?

まさか自分を身代わりにして治療する気じゃないでしょうね。」


「そりゃ、人を治すってなったら花瓶とかじゃ釣り合いが取れないし……大体同じ大きさのものが必要なんだ。」


ナギの時もそうだった、自分が犠牲になって……

そんなことをしたら周りの人間は心配する、きっとリカちゃんだってそれを望んでいない。


……それにこの少年、アニメではとんでもないサイコ男だったが、妹を治してあげたい気持ちは本物のようだ。

あまり他人事には思えない。


私はカグラの隣に座り込み、

「分散ってできるの?私も身代わりになるわ」

と提案した。


「できるけど……いいの?リカの足、多分折れてるよ……?」


カグラは目を丸くしながら言う。


「あんたと分散したら……まだ軽傷にならない?」


「わからない、やってみる。」


カグラは目を閉じると、リカちゃんの痣を癒し始める。それと同時に、私の足にもじわじわと痛みが走った。


「ーっ……!」


足にはそこそこ大きな痣ができたが、折れている訳ではなさそうだった。

分散してこれか……リカちゃんはどれだけ強く蹴られたのだろう。


「リカ、平気か……?」


カグラが尋ねると、リカちゃんはそっと立ち上がってみせる。

良かった、無事回復したようだ。


「……… リリカ、立てる?」


カグラが手を差し伸べる。

私は手を取ると、難なく立ち上がってみせた。


「良かった……あの、ありがとう」


カグラは安堵した様子でそう口にする。

……なんだか、アニメで見た印象と違うな。

敵側ってことを除けば、素直でいい子なように見えるのだが……


「おい!お前らそこで何やってる!」


不思議に思っていると、苛立たし気な男の声が響く。

子供達はそれを聞きびくりと体を震わせ怯えていた。


「ああ……アルスターんとこの子供か……さっきも言ったろ、そんなとこでうろちょろされっと邪魔なんだよ。蹴られたくなかったらとっとと失せろ!」


出てきたのは190センチはありそうな大男で、その剣幕は鬼のようだった。

こいつがリカちゃんの足を折った張本人だろうか?


「あの……何も折れるまで強く蹴ることないんじゃないですか。」


カグラが男を睨みながら言う。

他の子供達はそれを心配そうに見つめていた。


「ん?ああごめんごめん。俺たち種族が違うだろお?

ちょっと力入れたら折れちゃったんだよ、でもカグラ君がいれば治せるよなー?あははは!」


(何よこいつ、悪びれもせず……!)


「この……!」


男の態度に限界が来たのか、カグラが男に飛び掛かろうとする。


(わっ馬鹿……!戦闘向きの能力でもない癖にそんな大柄な男に向かって行ったって勝てる筈無いじゃない!)


男に掴み掛かったカグラは案の定首根っこを掴まれ持ち上げられてしまった。


(あーもーどうにでもなれ!)


私は手に冷気を溜めると、男の足と腕を氷で固める。


「……放して……!氷漬けにするわよ。」


男はカグラを放し、少し力む。

すると氷はビキビキと音を立てて砕けてしまった。


凄い馬鹿力だ……先程男は異星人の種族が違うと言っていたが、何か関係があるのだろうか?


「なんだ?ガキ。今俺に何したか解ってんだろうな?」


男がこちらをギロリと睨み、威圧的に言う。


(や……やばい……怒らせた……!)


「お前もどっか折れねえとわかんねえかもな。」


男が私に手を振り上げたその時、後ろから子供と思しき影が現れ男の腕を弾き飛ばした後、思い切り胴を蹴り空中に飛ばす。


レンジャー5の仮面をしているが、間違いない。

この馬鹿みたいな火力と機動力は……!


「フユキ!?」


「もー、いい加減学習して下さい!相手の力量を図れっていつも言ってるでしょ!……逃げますよ。」


フユキはそれだけ言うと手榴弾を取り出す。


「あの……何で手榴弾持ってるの……?」


「さっきそっちで盗んで来ました!大丈夫です、遠くに投げてどっちに逃げたか撹乱するだけですから。」


4方向に手榴弾を投げ、私の手を引き走るフユキ。

なんだか、私なんかよりも遥かにスパイらしい気がする。


「おい!攻撃されてるぞ!ヒーローの仮面を着けたガキが暴れてる!」


大人達の声が響く中、フユキは混乱に乗じてその場を離れることに成功した。


「はー……怖かった!」


フユキはかなり離れた場所で仮面を外しながら言う。


「ずっと……見てたの?」


「はい!どうせやらかすだろうなって思ってたので!」


(うっ…!胸が痛い…!)


「ありがとう……あと、ごめんなさい。余計な心配かけて……」


「いいんですよ、好きでやってることですから!」


私はなんて不甲斐ないのだろう。

焔をあんなことに巻き込んで、あかりの記憶も消され、任された仕事も満足にこなせない。


ナギだったら……きっとこの仕事もこなせた筈だ。


悔しくて唇を噛む。

これでは、ナギが復帰した時にも迷惑をかけてしまう、もっとしっかりしなくては……!


「リリア様!」


「……っ!はい!」


「もー、ずっと呼んでたのに無視するなんて酷いです。」


「……ごめんなさい……」


「アジトで聞いた情報、ウリュウさんに話すんじゃないんですか?」


「あ……ああ……はは、そう……だったわね。」


そうだ、今は自分を責めてる時間も惜しい。


使えそうな情報はいくつか掴んだ。

完全な失態って訳ではない……はず。


「俺も一緒に行きますよ!首突っ込んじゃったんで!」


フユキはそう言うと私の手をギュッと握る。


「わっ……!何急に!」


「ずっと不安そうだったので……俺の能力が発現する前、怖い時とか不安な時はこうやってよく母さんが手繋いでくれたんです。

誰かに愛されてるって思うと、少しだけ安心しませんか?」


……フユキは能力を発現する前はしっかり愛されてたのか……急にその愛が恐怖に反転するなんて、一体どんな気持ちだったのだろう。


それこそ、怖くて……不安だったに違いない。

なのに、今は自分の愛を誰かに与えられるなんて……


――やはり、フユキはヒーローなんだ。

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