ヒーロー
リカは足に大きな痣を作っていて、その青痣からその痛々しさが伝わって来る。
立てない所を見るに、骨折しているかもしれない。
「気の立ってる大人にたまたま話しかけちゃったみたいで…
足を蹴られたんだ」
そんな…内部でもやり合ってるわけこの連中!?
流石、双星の子供を狙うだけあって
こんな幼い子にも手を上げられるのね…信じらんない!
「すぐに治すよ!」
彼はそう言って目を閉じようとする。
…瞬間、私の頭にナギの顔が浮かんで来た。
「待って」
私は彼の腕を引く。
「何!?急いでるんだけど!」
「…あんた、身代わりが無いと治せないんじゃないの?
まさか自分を身代わりにして治療する気じゃないでしょうね」
「そりゃ…人を治すってなったら花瓶とかじゃ釣り合いが取れないし…」
ナギの時もそうだった、自分が犠牲になって…
そんな事したら周りの人間は心配するじゃない!
…それにこいつ、アニメではとんでもないサイコ男だったけど
妹を治してあげたい気持ちは私にだってわかるわ。
私はカグラの隣に座り込むと
「分散って出来るの?私も身代わりになるわ」
と声を掛ける。
「できるけど…いいの?
リカの足、多分折れてるよ…?」
カグラは目を丸くしながら言う。
「あんたと分散したら…まだ軽傷にならない?」
「解らない…やってみる」
カグラは目を閉じると、妹の痣を癒し始める。
それと同時に、私の足にも痛みが走った。
「ーっ…!」
私の足にはそこそこ大きな痣が出来たが、
足が折れている訳ではなさそうだった。
分散してこれって…リカちゃんはどれだけ強く蹴られたのよ!
「リカ、平気か…?」
カグラが言うと、リカちゃんはそっと立ち上がってみせる。
良かった…
「…君、立てる?」
カグラが私に手を差し伸べる。
私は手を取ると、難なく立ち上がってみせた。
「良かった…あの、ありがとう」
彼はホッとした様子で言う。
…なんか…アニメで見た印象と違うな。
敵側って事を除けば
普通に素直でいい子な様に見えるんだけど…
「おい!お前らそこで何やってる!」
私達が安堵していると、苛立たし気な大人の声が響く。
子供達はそれを聞きびくりと体を震わせ怯えていた。
「ああ…アルスターんとこの子供か…
さっきも言ったろ!
そんなとこでうろちょろされっと邪魔なんだよ
蹴られたく無かったらとっとと失せろ!」
出てきたのは190センチはありそうな大男で、その剣幕は鬼の様だった。
こいつ…!女の子の足を折った張本人!?
「あの…何も折れるまで強く蹴る事ないんじゃないですか」
カグラが男を睨みながら言う。
他の子供達はそれを心配そうに見つめていた。
「ん?ああごめんごめん
俺たち種族が違うだろお?
ちょっと力入れたら折れちゃったんだよ
でもカグラ君がいれば治せるだろー?
あははは!」
何よこいつ…!悪びれもせず…!
「いいからさっさとどけ!
邪魔なんだよ」
「この…!」
男の態度に限界が来たのか、
カグラが彼に飛び掛かろうとする。
わっ馬鹿…!戦闘向きの能力でもない癖に
そんな大柄な男に向かって行ったって
勝てる筈無いじゃない!
男に掴み掛かったカグラは案の定首根っこを掴まれ持ち上げられる。
あーもーどうにでもなれ!
私は手に冷気を溜めると、男の足と腕を氷で固める。
「…放して…!氷漬けにするわよ」
男はカグラを放し、少し力む。
すると氷はビキビキと音を立てて砕けてしまった。
げっ…凄い馬鹿力…!異星人の種族が違うって言ってたけどこんなに素のステータスが違うわけ!?
「なんだ?ガキ
今俺に何したか解ってんだろうな」
男は威圧的に言う。
や…やばい…怒らせた…!
「お前もどっか折れねえとわかんねえかもな」
男が私に手を振り上げたその時、後ろから子供と思しき影が現れ彼の腕を弾き飛ばした後、思い切り胴を蹴り空中に飛ばす。
レンジャー5の仮面をしているが、間違いない。
この馬鹿みたいな火力と機動力は…!
「フユキ!?」
「もー、いい加減学習して下さい!
相手の力量を図れっていつも言ってるでしょ!
…逃げますよ」
彼はそれだけ言うと手榴弾を取り出す。
「あの…何で手榴弾持ってるの…?」
「さっきそっちで盗んで来ました、
大丈夫です、遠くに投げてどっちに逃げたか撹乱するだけですから」
それだけ言うと彼は4方向に手榴弾を投げ私の手を引き走る。
なんか…!私よりちゃんとスパイしてる!?
「おい!攻撃されてるぞ!
ヒーローの仮面を着けたガキが暴れてる!」
大人達の声が響く中、フユキは混乱に乗じてその場を離れる事に成功した。
「はー…怖かった!」
フユキはかなり離れた場所で仮面を外しながら言う。
「ずっと…見てたの?」
「はい!どうせやらかすだろうなって思ってたので!」
うっ…!胸が痛い…!
「ありがとう…あと、ごめんなさい…
余計な心配かけて…」
「いいんですよ、好きでやってる事ですから!」
私…駄目だな
焔をあんな事に巻き込んで、あかりの記憶も消されちゃって…
任された仕事も満足にこなせない
ナギだったら…きっとこなせたのに…!
私は悔しくて唇を噛む。
こんなんじゃナギが復帰した時にも迷惑をかけてしまう、
もっとしっかりしなくちゃ…!
「リリア様!」
「…っ!はい!」
「もー、ずっと呼んでたのに無視するなんて酷いです」
「…ごめんなさい…」
「あのアジトで聞いた情報、ウリュウさんに話すんじゃないんですか?」
「あ…ああ…はは、そう…だったわね」
いけない、そうよね
今は自分を責めてる時間も惜しい、
仕事をしっかりこなさなきゃ。
大丈夫…使えそうな情報はいくつか掴んだもの
完全な失態って訳じゃない…はず?
「俺も一緒に行きますよ!
首突っ込んじゃったんで!」
フユキはそう言うと私の手をギュッと握る。
「わっ…!何急に!」
「ずっと不安そうだったので…
俺の能力が発現する前、
怖い時とか不安な時は
こうやってよく母さんが手繋いでくれたんです
誰かに愛されてるって思うと、
少しだけ安心しませんか?」
…そっか、フユキは能力を発現する前はしっかり愛されてたんだ…
急にその愛が恐怖に反転するって、どんな気持ちだったんだろう。
それこそ、怖くて…不安で…
なのに、今は自分の愛を誰かに与えられるなんて…
やっぱり、フユキはヒーローなんだな。