カグラ
振り向くと、そこには少年とも少女ともつかない美しい子供が立っていた。
(おわ……薄いプラチナブロンドに赤い目……白兎みたい……!)
しかしこの髪色……どこかで見たことがあるような?
「あの……!双星襲撃に向けて敵に見つからず奇襲をしかける練習をしてたのよ!」
いくら子供と言ったって、彼は敵なのだ。
ここで殺されるかもしれない……!
「……そうなんだ!でも見つかっちゃったからもっと練習した方がいいかも。」
子供は呑気に言い放つ。
良かった、侵入者ってバレてなさそうだし敵意は無いように見える。
「カグラくん!ちょっと来て!」
テントで武器の整備をしていた子供の1人が子供を呼ぶ。
(……ん……カグラ……?)
少年は呼ばれた場所に急いで向かい、私も当たり前のようにそれについて行くと、バラバラになった武器を必死に直そうとしている少年が目に入る。
「改造しようとしたら失敗して戻らなくなっちゃって……」
「カグラくんなら直せるでしょー?」
「代わりになるようなもの、ある?」
カグラと呼ばれた少年が言うと、子供達が花瓶をカグラに渡す。
カグラは銃の部品に触れ、祈るように目を閉じた。
……すると、たちまちバラバラの銃は元に戻っていき……代わりに花瓶がバラバラに砕けた。
この能力……!間違いない!
この少年は、アニメに出てきた幹部の1人だ。
カグラは優秀なヒーラーで、幹部を倒しても彼が治してしまうからコズミック7は凄く苦戦を強いられていた。
しかもかなり性格悪が悪く、捕まったブラックに拷問するシーンでは傷つけては治して傷つけては治してを繰り返し、痛めつけていたのだ。
余りに惨い拷問に、ファンが戦慄いたのを覚えている。
私にも拷問をする気なのかもしれない、警戒しておかなくては……!
「……どうしたの?難しい顔して。」
思わずカグラを睨んでしまっていた私に、彼は不思議そうに尋ねる。
「えっあっいや……!」
「もしかして何したらいいかわかんないのかな?良かったら俺と一緒に武器の整備しようよ。」
(……あれ……全然怖くない……?)
「へえ、君金川の方から応援に来たんだ」
カグラが銃を磨きながら言う。
「ええ……この支部の人手が足りてないって聞いたから。」
子供達の警戒心はまるで無く、私を味方と信じて疑っていない様子だった。
それもその筈、カグラによるとこの玉馬川のアジトは人の入れ替わりが激しいらしく、急に新顔が現れても誰も不思議に思わないのだと言う。
幸運だった。
ここの連携がしっかりしていたら今頃磔にされていたかもしれない。
「俺もね、小木窪からの助っ人!」
小木窪……前に電車をジャックしようとしていた異星人が住んでいたエリアだ。
あいつの所属していた組織は確か……
「アルスター……?」
「そう!よく知ってるね!最近コズミック5にやられちゃって……住んでるとこを追い出されたんだ。俺たち何にもしてないのに……」
……私も一応、ウリュウこの世界で異星人と地球人が戦う事になった経緯は聞いている。
アニメではブラックホール団が一方的に地球人を襲っていたように見えたが、現状はそういった訳でもなく……地球人に対して攻撃的な異星人組織もあれば、そうでない組織もあるらしい。
にも関わらず異星人をいっしょくたに悪とする風潮に、割を食ってる組織も多いとか。
なんならブラックホール団もその一つだ。
……アルスターも元々は穏健派の組織だったのだろうか?
「君は……えっと」
「リ……リリカよ!」
「リリカ……?あはは!俺の妹の名前に似てる!俺の妹、リカって言うんだよ!」
リカ……?そんな人、アニメには出てこなかった。
カグラだけがブラックホール団に入ったのか?
そもそも元々はネメシスの人だったのにどうしてこっちに来たのだろう?
「リリカはどうしてネメシスに加勢してるの?」
「あー……私も同じなの。ヒーローに住んでる場所を奪われた……から。」
「やっぱり!ヒーローって酷い奴らだよね。俺たちはまだコズミック5だから運が良かったけどさ……あそこの彼がいた組織、酷いヒーローに当たったらしくて……家族が無抵抗のまま暴行されて重症を負ったらしい。」
カグラはそう言って奥に座る少年を見る。
「でも……その……酷いけど、何でそれで双星に?報復するにしたって子供しかいないのに。」
「え……ああ、ヒーロー本部を狙う程の規模がうちに無いから。戦闘力が低くてヒーローサイドと交流の深い双星が狙われたらしいよ。」
私の問いに、カグラが淡々と答える。
なんと卑劣な……子供相手によってたかって武力行使なんて、大人気ない組織だ。
「そ、そうなんだあ!頭いいー……」
会話だけじゃない、目からも情報を盗まなくては。
以前コズミック5が出動した時にも思ったが、銃器に関してはあまり蓄えが無いように見える。
奥には手榴弾が見えるが、これも数は多くない。
ヒーロー本部への襲撃を足踏みるすくらいだから、もしかしたら大して資金を持ってないのかもしれない。
「どうしたの?何か考え込んで。」
「えっ……あ、あー!私にお金があれば組織に援助出来たのになーって考えてたの!」
「うち貧乏だもんね、解るよ」
やはり……資金が無いようだ。
ネメシスの勝ち筋は恐らく誰にも悟られず奇襲されること。
少しでもこちらに準備されたら部が悪い筈だ。
ならば、双星学園に襲撃のことを教えてしまうのはどうだろう?
ウリュウはまだ、それはやめた方がいいと言っていたが……
「カグラ君、来て!」
考えていると、少年の一人が焦ったようにカグラを呼びにくる。
カグラは大人気のようだ。能力の万能さからして、必然的なことではあるか。
少年に導かれるままついて行くと、そこには怪我をして蹲っている少女がいた。
「リカ!」
リカ……って……
まさか、先程カグラが言っていた妹だろうか?




