リリアの前世
私達が話し合いを終えた後、全員が解散する事になり、焔は「家に帰りたくない」と言う理由からブルーの家に泊まることになった。
大分融通が利くようになったあたり、母親に意見できるようになったのだろうか。
私はフユキと一緒に駅を目指していると、フユキが少し申し訳なさそうに口を開く。
「……あの……聞いていいことか解らないんですけど。」
「何?」
「……リリア様は……前世?どんな人だったんですか?」
フユキの問いに、思わず硬直する。
「あ……あはは!そっか……私も転生者だって言ったから気になったのね!
気持ち悪いでしょ、別人だった頃の記憶がある奴だなんて……」
私は試すようにフユキを見る。
「いえ、特異だとは思いますけど……それより俺が気になってるのは、リリア様の俺への態度って言うか……もしかして前世でも俺のこと知ってたんじゃないかなって思ったんです。」
ぎくりと肩を揺らす。
まさか、自分がアニメの中の存在であると気づいてる……?
「どういうこと?」
「何となく出会った時……リリア様が俺の顔を見て『会えて嬉しい』って顔をしてたような気がして……俺の告白の返事で「アイドルを見てるような感覚」って言われた時も、まるで以前から一方的に俺を傍観してたみたいな印象を受けたんです。
だから俺の能力にも理解を示してくれたの……かなって。」
まさに、フユキの言う通りだ。
賢いとは思ってたが、いくら何でも勘が鋭すぎはしないだろうか?
「あはは……!考えすぎよ!そんな訳……!」
私はそこまで言いかけてやめる。
……今更、何を怖がっているのだろう。
誤魔化したところで、どうせバレるとわかっているのに、「ホワイト」に嫌われるのを怖がって……逃げようとしてる。
だめだ、「フユキ」とちゃんと向き合うと決めたではないか……!
「……そう……知ってたわ、前世であなたのこと。
凄く大好きで……だから……完全に無意識ではあったけど、あなたが言われて嬉しい言葉も、行動も……全部知っていたの。
ずるいわよね……それであなたからの好感を得るなんて……」
「はい!そうですね!ずるいです!」
フユキは私に向かって満面の笑みで言う。
(……ああ……きっと……嫌われた……よね。)
「そうやって自分の都合が悪い事も誤魔化さずに言っちゃうとことか、ずるいくらい真面目で可愛くて……俺、リリア様のそういうとこが好きです。」
「……え……」
「別に俺、都合のいいこと言われたからリリア様に惚れた訳じゃないですよ?
気付いてないんだろうけど……リリア様のそういう危なっかしいくらい無謀で勇敢な所に俺は惹かれました。」
フユキはそう言って私の顔をじっと見つめる。
「そ……そう……よかった……」
私はにやけた顔を見られないように下を向く。
転生者とバレてもフユキが離れないことに、心のどこかですごく安心している自分がいるのを悟られたくなかった。
「ねえ、前世ではなんて名前だったんですか?」
「須藤……真理愛」
「あ!今と似てるんですね!じゃあ……真理愛、また明日。」
駅の前まで来ると、フユキはそう言って私の目の上にキスをする。
「はわ……!?」
「あは!驚きました!?ドッキリ大成功ですね!それじゃあまた!」
フユキはそう言って満面の笑みで帰っていく。
……本当に、心臓に悪い男だ。
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「ウリュウ―!今日はすっごく伝えたいことがあるのよ!これを聞いたらきっとあなたも喜ぶんだから!」
私が浮かれ気味に医療班のアジトに顔を出すと、ウリュウはナギに向かい合ったまま項垂れている。
「……寝てる……」
もしや、ずっと付きっ切りでナギを診ていたのだろうか?
「ウリュウ……」
少しウリュウの体を揺するが、起きる様子は無い。
(……起きるまで待ってようかな。)
ウリュウの隣に座ると、私は彼の顔をじっと見る。
本当に綺麗な顔……まつ毛も長くて、肌も白くて……まるで人形のような顔立ちだ。
暫しウリュウに見惚れていると、ふいに彼の目が開く。
「あ!ウリュウ、起き……」
ウリュウは私を見て、腕を引き込み顎を持ち上げ
「エリヤ……愛してるよ」
と呟く。
(……え……?エリ……ヤ……?)
「あ……わた……し……リリアなんですけど……!」
言うと、ウリュウの体重が一気にのしかかる。
「わっ!嘘また寝た……!?」
私とエリヤを間違えた?
そう言えばウリュウは、以前も姉との関係を匂わせていた。
(……どういう関係……なんだろ。)
私は少しもやもやとしたまま、ウリュウが起きるのを待ち続けた。




