思い出せない事
「はっ」
ー目が覚めて、思わず自分の顔を触る。
良かった、私の顔…
「桃園あかり」の顔だ。
周りを見渡すと、「リリア」と呼ばれていた少女とコズミック5のメンバーや研究生達が私を心配そうに見ている。
「あの…私は何を…」
「俺とリリア様がイチャついてたらいきなり倒れちゃったんですよ、ピンクさん!」
「ええ!?」
どういう状況なのそれ…?記憶に無い。
もったいないなあ忘れちゃうなんて!
…じゃなかった、どういう経緯でそんな事になったんだろう?
「あかり、何か思い出した?」
少し期待する様な眼差しで、少女が言う。
「…ごめんなさい、特には」
私が答えると少女は肩を落としながら
「そう…」と呟く。
「あ、ごめんなさい!それならそれでいいのよ!
…ねえ、私須藤リリア
貴方と友達だったの!
良かったらまた仲良くして」
彼女は満面の笑みで言う。
彼女とのトーク履歴には、何度か通話が掛かって来ていた。
…恐らくは嘘じゃないのだろう。
私は彼女の手を握り
「勿論」と呟く。
皆、今の私に少し違和感を持っている様だ。
でも私はずっとこんな感じでやって来た記憶しか無い。
何かが妙なのに…何が変なのか解らなくてもやもやする。
「あのね、あかり…今日は…
ごめんなさい」
少女は、顔を曇らせながら言う。
「な、何で謝るの!?」
「何がなんだか解らないまま、
貴方の記憶を無理やり戻そうとして…
私、焦ってたの、やらなきゃいけない事があったんだ
でも強引すぎた、ごめんなさい」
彼女はそれだけ言うと、「またね」と言いながら事務所を出た。
…何だろう…
この言い知れない不甲斐なさは。
私、何を忘れちゃったの?
ーーーーーー
私が事務所を出ようとした時
「リリアちゃん、待って」
と言いながらブルーに腕を掴まれる。
「うわっ!?」
「あ…ごめん、びっくりしたよね!
…あのさ、まだ時間ある?」
彼が申し訳無さそうに私の方を見ると、私は静かに頷く。
この様子…多分ブルーも違和感を感じてるんだ。
「あのさ、焔君にも聞きたい事あるんだ
何かご馳走するから…少し話せない?」
彼は後ろにいた焔にも声をかけると、
焔も「わかった」と返事をする。
何故かフユキも着いてきたが、ブルーは気にしている余裕も無さそうだった。
…
連れて来られたのはブルーの家。
少し生活感はあるものの、綺麗にされた部屋からは彼のまめさが感じ取れた。
「あれっ…そういえば君何でいるの!?」
しれっと着いてきたフユキにブルーが尋ねる。
「俺、リリア様のいる所ならどこでもいるんです!」
彼がフユキの浮いた回答に困惑していると、
「この子は大体事情も知ってるし、
ブルーさんの話そうとしてる事も
多分聞いて大丈夫だよ」
と焔が冷静な様子で言う。
「そう…あー!まずは出前取ろうか!
何食べたいかおじさんに教えて」
私達はブルーに美味しい物をご馳走してもらった後、
少し気まずそうに沈黙する。
「あの、それで話って何ですか?」
最初に口を開いたのはフユキだった。
「あー…あかりちゃんの事…なんだけどさ
どうしても違和感があるんだ、やっぱり
別人になっちゃった気がするって言うのかな
上手く…言えないんだけど」
「俺も、話聞いててちょっと思った
表面はピンクなんだけど、
内面が違うというか…」
「この前、裕也君の記憶を戻そうとした時…
あかりちゃん変な事言ってたでしょ?
俺の中身はあんたより歳上だー、とか
何とか…」
…ああ、確かに言ってたわね。
説明が難しいから黙っていたけれど…
「あの意味、よく分からなかったんだけど
お嬢ちゃんは知ってるんだろ?
教えてくれないか、
あかりちゃんって…何者なの?」
彼は真剣な眼差しで言う。
こ、これって…もしかしてブルーを味方に引き込む大チャンス!?
でも、漫画とか小説を読まなそうな人に転生の概念なんてどう伝えたら…!
…それにもし伝わったとして
私が転生者だっていうのまでバレたらフユキと焔は…
私の事どう思うんだろう?
他人の人生を借りて生きている気味の悪い奴って思われたりしたらどうしよう…
私はすこし迷いながら二人の顔を見る。
しかし、すぐにあかりやナギの顔が浮かんできて、
それが私に勇気を与えた。
…いや、嫌われたって構わない…!やってやる!
33歳のあかりがいた事、誰にも知られず終わるなんて嫌!
それにナギが復帰した時に苦労させない為にも…
ブルーを説得するんだ!