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思い出せない事

「はっ」


――目が覚めて、思わず自分の顔を触る。

良かった、私の顔……「桃園あかり」の顔だ。


周りを見渡すと、「リリア」と呼ばれていた少女とコズミック5のメンバーや研究生達が私を心配そうに見ている。


「あの……私は何を……」


「俺とリリア様がイチャついてたらいきなり倒れちゃったんですよ、ピンクさん!」


「ええ!?」


説明されたのにどういう状況なんだかさっぱりわからないし記憶に無い。

忘れてしまうなんて勿体ない……じゃなかった、どういう経緯でそんなことになったのだろう?


「あかり、何か思い出した?」


少し期待する様な眼差しで、少女が言う。


「……ごめんなさい、特には。」


答えると、少女は肩を落としながら「そう……」と呟く。


「あ、ごめんなさい!それならそれでいいのよ!……ねえ、私須藤リリア。

あなたと友達だったの!良かったらまた仲良くして。」


リリアは満面の笑みで言う。

彼女とのトーク履歴には、何度か通話が掛かってきていた。

……恐らく嘘ではないのだろう。


私はリリアの手を握り「勿論」と呟く。


皆、今の私に少し違和感を持っているようだ。

でも私にはずっとこの調子でやってきた記憶しか無い。

何かが妙なのに……何が変なのかわからなくてもやもやする。


「あのね、あかり……今日は……ごめんなさい。」


リリアは、顔を曇らせながらそう口にする。


「な、何で謝るの!?」


「何がなんだか解らないまま、あなたの記憶を無理やり戻そうとして……私、焦ってたの。

やらなきゃいけない事があったんだ。でも強引すぎた、ごめんなさい。」


それだけ言うと、リリアは「またね」と言いながら事務所を出た。


……何だろう、この言い知れない不甲斐なさは。

私は……何を忘れてしまったのだろう?


★ ★ ★ ★


「リリアちゃん、待って」


私が事務所から出ようとすると、ふいにブルーに腕を掴まれる。


「うわっ!?」


「あ……ごめん、びっくりしたよね!……あのさ、まだ時間ある?」


ブルーが申し訳無さそうにこちらを見ると、私は静かに頷く。


この様子……多分ブルーも違和感を感じているんだ。


「あのさ、焔君にも聞きたいことがあるんだ。何かご馳走するから……少し話せない?」


ブルーは後ろにいた焔にも声をかけると、焔も「わかった」と返事をする。


何故かフユキもついてきたが、ブルーはそれを気にしている余裕も無さそうだった。


……


連れて来られたのはブルーの家。

少し生活感はあるものの、綺麗にされた部屋からは彼のまめさが感じ取れた。


「あれっ……そういえば君何でいるの!?」


しれっとついてきたフユキにブルーが尋ねる。


「俺、リリア様のいる所ならどこでもいるんです!」


「この子は大体事情も知ってるし、ブルーさんの話そうとしてることも多分聞いて大丈夫だよ。」


ブルーがフユキの浮いた回答に困惑していると、

焔が冷静に言う。


「そう……あー!まずは出前取ろうか!何食べたいかおじさんに教えて。」


私達はブルーに美味しい物をご馳走してもらった後、少し気まずそうに沈黙する。


「あの、それで話って何ですか?」


最初に口を開いたのはフユキだった。


「あー……あかりちゃんのこと……なんだけどさ。どうしても違和感があるんだ、やっぱり別人になっちゃった気がするって言うのかな。

上手く……言えないんだけど。」


「俺も話聞いててちょっと思った。表面はピンクなんだけど、内面が違うというか……」


「この前裕也君の記憶を戻そうとした時……あかりちゃん変なこと言ってたでしょ?

俺の中身はあんたより歳上だー、とか、何とか……」


確かに言っていた。説明が難しいから黙っていたのだが……


「あの意味、よく分からなかったんだけど、リリアちゃんは知ってるんだろ?

教えてくれないか、あかりちゃんって……何者なの?」


ブルーは真剣な眼差しで言う。

これは……ブルーを味方に引き込むチャンスなのかもしれない。


しかし、漫画や小説を読まなそうな人に転生の概念をどう伝えたらいいのだろう?

……それに、もし伝わったとして。

私が転生者だとバレたらフユキと焔は……私のことをどう思うのだろう?

他人の人生を借りて生きている気味の悪い奴と思われたりしないだろうか?


少し迷いながらフユキと焔の顔を見る。

するとすぐにあかりやナギの顔が浮かんできて、それが私に勇気を与えた。


嫌われたって構わない、やってやる。

33歳のあかりがいたこと、誰にも知られず終わるなんて……嫌だ。


そしてナギが復帰した時に苦労させない為にも、ブルーを説得する必要がある。


私は、深く息を吸い込んだ。

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