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誰かの記憶

とはいえ……困った。

私は「ピンク」のことには詳しくても、あかりの中にいるあの人については名前すらわからない。


33歳医者で男、最推しは若葉ちゃんって情報しかないが……コズミック5のメンバーなら詳しいだろうか。


「ねえ、焔、ブルー。あかりの好きだったものとか嫌いだったものとかわかる?」


2人は顔を見合わせ

「好きな食べ物はチョコレートパフェ……って言ってたけど、打ち上げとかでは好んでチャンジャとか食べてた。」

と焔が言い、

「ダイエットしてるって言いながら奢ってやると炒飯大盛りにラーメン一杯、餃子2人前はサラッと行ってたね」

とブルーが続ける。


「え……ええ!?私そんな食べないよ!」


あかりが顔を赤くしながら言う。

……元々アニメでのピンクも食べるのは好きだったが、男の人の前でガツガツ食べるのは恥ずかしがりそうだ。


「なら俺、隣のスーパーでチャンジャ買ってきます!ちょっと待ってて下さい!」


「僕も付いてく!ピンクちゃんのことあんまり詳しくないから役に立てないだろうし。」


「あ……ありがとう」


フユキと緑川は会議室を出る。

フユキは流石の行動力だ。初めは着いてきて戸惑ったけどいてくれて助かったかもしれない。


私も今できることをしなければ。あかりの好きそうだった物……


「わっ……リリア、どうしたの急に!」


私はおもむろに焔に抱きつくと、あかりの方を見る。


……別に見せつけている訳ではない。

あかりは私と焔が仲良さそうにしているのを見てよく興奮していた。

もしかして……あかり(33)は所謂カプ厨というものなのではないだろうか?


「あかり……この様子を見てどう思う?」


質問を投げると、あかりは一瞬顔を赤らめて口を覆った後に私達を見つめ、

「くっついてるだけって感じであんまり萌えないかも……」

と呟く。


「……え?」


私は、斜め上の回答に思わず声を上げる。


「私がときめくのは抱きついてる光景じゃなくて抱きつくまでの経緯なんだよね。どうしてお姉さんが焔君に抱きついているのか、そこを見た上で接触という結果を堪能したいのであって、今お姉さん特に照れた様子もなく焔君に抱きついたよね?」


「あ…まあ…」


「無言だから経緯も解らないし全然エモくない。お姉さんは知らないドラマのキスシーン唐突に見せられて感動できる?出来ないよね?

あれは2人がキスに至るまでの経緯をキスという結果で見せられるから感動するんだよ。

ただ抱きつかれただけで私が興奮すると思ったら大間違い!」


「あかりちゃん!?落ち着いて!」


あかりは物凄い剣幕で言い放つ。

やはり、反応している。長いし怖いし何を言っているのかいまいち解らないが、あかり(33)はカプ厨なのだ。


「あかり、私たち最近まで喧嘩してたの……!私が異星人って知って焔がショックを受けちゃって……

でも最近仲直りできたからこのくらいくっつけるようになったのよ!どうかしら……!」


「あの……リリア?さっきから何を……」


「……喧嘩の後か……そういうシチュは嫌いじゃないよ……!」


「ピンクも何言ってるのさ!?」


「……焔、元々のピンクはその……男女のイチャイチャを見るのが好きだったのよ。」


「あ……確かにそんな感じはしたかも……じゃあリリアと俺がイチャつけばいいってこと?」


「へっ?」


焔は私の体に手を回すと、頬にキスをした。


「ひゃっ!?なななな……何やってんの!」


「だって……こうすればピンクの記憶戻るんでしょー?俺だって仕方なーくやってるんだよ?」


焔は力を込めながら言う。嘘だ、絶対私情も挟んでいる。


「あーだめ!やめて見せないで!こんな刺激の強い物見たらおじさん焔君の結婚式まで死ねなくなる!」


目を塞ぎながらブルーが叫ぶ。

……そういえば、この人も大概だったな。


私はチラリとあかりの方を見ると、彼女は震えながら手でグッドサインを出している。


満足げだ!あともうひと押しあれば思い出してくれそうなのだが……


手応えを感じていると、ガチャリと会議室のドアが開く。


するとレジ袋を持ったフユキが私とレッドを見て固まった後

「あー!ずるいです先生!何してるんですか!?」

と声を上げた。


「何って……イチャついてた。」


「俺もリリア様とイチャつきたいです!」


そう言うと彼は机に袋を置いた後後ろから私に抱き付く。


「うわっ…帰って来た途端リリアちゃんが挟まれてる!?何やってんの!」


後ろから現れた緑川が驚きながらフユキに続いて会議室に入ると、驚きの声を上げた。


「わ、私だってよく分からないわよ!」


「えへへ……リリア様の体って少しひんやりしてますよね……」


私はフユキと焔に挟まれる様な形で思考も回らずに固まってしまう。


「え、何々……そういう感じ!?フユキ君ってライバルなの!?そうなの!?」


目を塞いだ手にスキマを作りながら興奮気味にブルーが言う。


「何見せられてんの僕たち……」


対照的に緑川は呆れながら呟いた。


「フユキ君……?さっき焔君がそのお姉さんのほっぺにキスしてたよ。」


あかりがフユキに告げ口すると、フユキはむくれながら

「えー!そうなんですか?……真面目な話してたのに隙あらば抜け駆けしようとして……!じゃあ俺もチューしちゃお!」

と言い、私の耳にキスをした。


「ひょえっ……」


私が変な声を上げると同時に、あかりは悲鳴を上げながらそのまま気絶してしまった。


「ご馳走様です……」


あかりの最後の言葉は、幸せそうな笑みから放たれたのだった。


「ピンクさん……死んじゃいましたよ。」


フユキが無邪気に言う。


「死んだって言うか……ちょっと飛んでるだけよ、すぐ戻ってくるわ。」


ーーーー


ー気絶したあかりは、夢を見ていた。


……る


光!


「うわ!」


「お前また居眠りかよ!そんなんじゃ医者になれないぜ」


教室で、少年がそう言って茶化し気味に笑う。

……あ、思い出した……こいつは「佐藤寛也」。

俺は……「園部光」、だ。


なんだか、女の子になる変な夢を見た気がする。

疲れているのかもしれない。


寛也は、俺の親友。

凄く明るくていい奴、運動神経もいいから女子にもモテるらしい。


「寛也君!光君!一緒に帰ろう!」


教室の扉を開けながら少女が声を上げた。


……彼女は「丸山悦子」皆からえっちゃんと呼ばれている。

多分だけど、えっちゃんは寛也のことが好き。

俺はと言うと、えっちゃんのことが好きかどうかは解らない、けど……楽しく話す2人の背中を見て、2人が幸せになればいいなとは、思っていた。


『光君、思い出して』


3人で帰る途中、ふいに何処かから俺を呼ぶ声が聞こえてきた気がした。


(……誰の……声?)

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