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再会

後日、朝凛太郎に連絡をみたものの、返信は来なかった。

それもそうだ、焔があんなことになった後で忙しいだろうし。


――そういえば、今日の授業はどうなるのだろう?焔がいないし、自習になってもおかしくはないが……


登校中色々考えていると、「リリア!」と私を呼ぶ声がしたと同時に背後から突然誰かに抱きつかれる。


唐突に感じる背中の重みに驚き後ろを見るとそこには……見覚えのある顔の少年がいた。


「凛太郎……?」


「焔だよ、今日退院したんだ。リリアに会いたかったから待ち伏せしてたの!驚いた?」


焔はそう言いながら私の頭を犬のように撫で回す。

ナギのおかげも大きいだろうが、あんな状態から復帰するなんてすごい生命力……!

流石ヒーロー、末恐ろしいわ。


「リリア……好き……病院にいる間もずっとずっと会いたかった。会えて嬉しい。」


焔は私を抱きしめる力を強めながら言う。

つい最近まで険悪だったのに、急にこんな甘えられたらどうしたらいいか解らない。


「あの……焔!私凛太郎に話があって……」


……待てよ……?焔はそもそもこの事件の当事者だ。当然エリヤの顔も見てる筈。

……彼の証言があれば盤石なんのでは?


「凛太郎?何で俺じゃだめなの?」


「……いいえ、貴方でいい……いや、焔じゃないと駄目!」


「え」


「焔、大事な話があるの。放課後話せる……?」


ーーーー


「で、なんでいんのよフユキ」


私はカラオケルームの一室でとぼけた顔をした白髪の少年に言い放つ。

誰にも聞かれたくない話だったからカラオケに行こうと焔を誘ったのに、当然のようについてくるものだから焔はおろか私すらフユキの行動を咎められなかった。


「だって……レッド先生と密室で2人きりなんかにしたらリリア様が危ないかなって思ったんですもん!リリア様はもうちょっと男の人を警戒しないと駄目ですよ!」


悪びれもせずフユキが言い放つ。

焔は呆れた様子でそれを眺めていた。


「それに……ナギ君が休んでることについても聞きたかったので。」


満面の笑みから一転、真剣な表情でフユキが言う。

私が焔の顔をちらりと見ると、彼はこくりと頷いた。


「……実は……」


私はフユキにヒーロー本部で起こったことや、その後ナギが自分を犠牲にして倒れたことを話した。

焔もナギのことについてはかなりショックを受けた様で、悲しそうに眉を顰めながら手元を見つめていた。


「そうですか……解っていたことではありましたけど、ヒーロー本部も一枚岩じゃないんですね。

割と物騒な手段で邪魔者を排除する層がいて……レッド先生はその人に運悪く当たってしまったと。

そして……最終的にナギ君が犠牲に……」


フユキはあくまでも冷静にそう分析してみせる。


「……ねえ焔、答えにくかったら別にいいんだけど、貴方が狙われた理由って何……?あの場所で何が起きたの?」


尋ねると、焔はバツが悪そうに私を見やる。

私には言いにくいことなのだろうか……?


「焔、お願い教えて!大事なことなの。」


焔は、私の言葉に重い口を開くと

「役員のエリヤさんに言われたんだ……『私と一緒にリリアを殺してくれるか』って……」

と言い辛そうに呟く。


私を……!?

そうか、あの時焔は医務室いた。

……もしかして……


「私を……庇って……?」


焔は視線を落とす。

私はあの時眠っていたから気づかなかったが、焔はエリヤから私を守ろうとしてあんなことに……!

だから凛太郎はあの件について聞いても口を開けなかったんだ……


「……元はと言えば……全部私のせいだったのね。」


あまりのショックにそう言葉を漏らす。

私がエリヤに見つからなければ焔はあんな火傷を負わずに済んだし、ナギだって自分を犠牲にしなくて済んだのだ。


「リリア様、あなたは何も悪くないとかそんな安いことは言いたくありませんけど……先生の証言通りに行くなら、そのエリヤって人はちょっと過剰防衛気味だと思います。

少なくともレッド先生が大怪我したのは私のせい、とかは自責が行き過ぎてると思いますよ。」


「フユキ……」


「そうだね、どちらかと言うと悪いのはエリヤさんの方だと俺も思う。俺の話を聞く前に攻撃してきたんだもん。

彼女がリリアを見に行った時の様子も変だったんだ、医務室に可愛い子がいるって噂が気になって見に行ったみたいだった……どうしてそんな噂が気になったんだろう。」


確かに私が医務室で眠っていたことは噂になっていた。

エリヤはその噂の何が気になって医務室に足を運んだのだろう?

……そういえば……合同訓練中も変なこと言われたっけ?


『可愛い人だなって思ったの』


ピンクに憑依していた時に投げられたエリヤの言葉を思い出す。

可愛い女の子が好き……とか?

結構同性の見た目が好きという女性もいるし、ない話ではない。


「何にしても、そのエリヤって人は危険ですね……そもそもどうして彼女はリリア様を見て敵だって判断できたんでしょう?」


フユキの言葉に私は一度息を呑むと、

「あの人……私の姉なのよ」

と呟く。


2人は少し間を置くと、少し青ざめた顔で私を見る。

私はいつか夢で見たエリヤがリリアの認知が歪めた姿ではないかと何処か期待していた。

妹を殺そうとする姉なんているはずないと。

しかし、聞けば聞くほどエリヤの人物像は冷酷で、リリアを憎んでいるという恐ろしいものに変わって行く。


あまり焔にはエリヤに関わって欲しくない、だからこそ!


「あのね……焔!頼みがあるの。合同訓練であったことをブルーに伝えて欲しい……!実はね、今ピンクがヒーロー本部を出て新しい場所を作れないか考えてて……ブルーがヒーロー本部が信用できない根拠さえあれば一緒に本部をやめて新しい場所に行ってもいいって言ってくれてるの!

あなたの話は本部が信用できない根拠として充分だし、焔自身もあんな危ない場所を辞めて仲間たちとヒーローができる!だからお願い……!」


私が焔に訴えると、焔は少し困ったように首を捻る。


「言いたいことは解った……確かにエリヤさんとの再会は怖いし俺の安全って面ではそれが最善だと思う。

 も母さんは規模のでかいとこじゃないと許さなそうだしなぁ……俺が抜けて凛太郎が代わりにヒーロー本部に、なんて話になっても困るし。」


「ならその新しい場所に凛太郎さんも呼んで、席だけ置いてもらうのはどうですか?

それなら簡単に本部の人も引き抜けません。」


「そしたら母さんが……」


「「お母さんのことは無視でいい」」


私とフユキはぴしゃりと言い捨てる。

焔はかなり悩んでいる様子で頭をぐるぐる回すと、

「俺が安全な方が……リリアは結婚したくなる?」

と尋ねる。


「なるわ!するかどうかは別として!」


私が即答すると、焔は

「……わかった。話すよ、ブルーさんに。」

と言った。


私は思わず笑顔になる。

焔が味方になってくれる……!

もしかしたら焔の証言でブルーも味方になってくれるかもしれない、一気に未来が明るくなったわ!

あとはあかりと話し合ってブルーを説得するだけ……!


……あかり……


不意に、前あかりの様子がおかしかったことを思い出す。

何かが不穏だ。


私が不安を感じていると、焔の携帯がカラオケルームに鳴り響く。

焔はごめんねとジェスチャーすると電話に出た。


「はい、もしもし。」


すると、焔の顔色は少しずつ青く変化していく。


「……ピンクの様子が……おかしい?」


私はその一言で、全てを悟った。

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