ホワイト
ここが双星ヒーロー養成学校!
私の好きなコズミック5が育った学校……!
コズミック7はもちろん、名だたるヒーローを多数輩出してきた伝説の学校。
アニメでも「ヒーローになるなら双星に行け」っと言われていたくらいの場所だ。
私は滾る正義の香りに目を輝かせていた。
「リリア、あの……大丈夫?
解ってると思うけど目立たない様にするんだよ」
ナギが不安そうに釘を刺す。
「大丈夫、任せなさい!
私たち、今回は転校生って事になってるんだっけ?
げっ偽名が須藤リリア……! 」
恐らくはウリュウが付けた名前だろう。
あの男、いつかビンタしてやる……!
「そう、現役のヒーロー……
コズミックレッドが特別講師を受け持つ教室の新入生として紛れ……」
言いかけた所で、ナギが浮かれた様子の私を睨む。
「ねえリリア、一応これ仕事だからね? 」
コズミックレッド! 謎多きカリスマ!
レッドの授業を受けられるとか夢みたい!
「わかってるわ! 早く行きましょう! 」
アニメでのレッドは素顔も謎、いつもマスクをしている人物で、
年齢さえ判明していなかった。
あまりに謎が多い為よく考察の対象になっており、
異星人説……果ては老人説まで出ていた程だが、
それにしては姿勢が良かったので、私はプロ意識の高い青年なのだろうと思っていた。
「だから! 話しかけんなって言ってんだろグズ! 」
私が期待に胸を膨らませていると、何処からか罵声が聞こえてくる。
見ると、白髪の少年が金髪の少年に胸ぐらを掴まれており、
金髪の少年の取り巻きらしき人物達がそれを笑って見ていた。
「まだ俺の事親友とでも思ってるのか?
いい加減にしろよ! お前みたいな臆病者、知り合いとも思われたくない! 」
「なにあれ、いじめ!? 」
「みたいだね、関わらずにやり過ごして……
リリア!? ちょっと! 」
私はナギの制止も聞かず走り出すと、
「やめなさいよあんたたち!
ヒーローになりたい癖にこんな堂々といじめだなんて…!
あなた達に掲げられる正義なんかないわ!さっさと消えなさい」
と言い放つ。
コズミック7が育った学び舎でこんな奴らをのさばらせてはいけない!
(あちゃあ……目立つなって言ったのに早速喧嘩売ってる……! どうしよう)
ナギは遠くで私を心配そうに見つめている。
「大丈夫よ! 心配いらないわ! 」という意味合いのウインクを送ると、
彼は深いため息を吐く。
……それにしてもこのいじめっ子まだ子供だが見覚えのある顔だ。
「なに?あんた。俺に向かってヒーローのあり方でも問い出す気?」
「あなたが誰か知らないけど……こんなの陰湿よ!
この子震えてるじゃない……! あれ? 」
私がいじめられてる子の方へ振り向くと、頭の中に稲妻が落ちる。
この子……! まだ小さいけれど間違いない!
この白髪、白いまつ毛! 青い瞳!
「宇宙戦隊コズミック7」の主人公……「コズミックホワイト」だ!
ホワイトはレッドに才能を見抜かれた事で物凄く努力してヒーローになった男の子……!
正直者で努力家なところが大好きで……!
ブラックとの絡み含めて大ファンなのよ!
「何にやけてんの…?気味悪いよこの女…早く行こう『ゆかり』」
取り巻きの女子がそう言って彼の袖を掴む。
ゆかり?男なのにゆかりだなんて……
そんな名前コズミックイエローくらいしかいないと思っていた
いや、まさか。
イエローがいじめなどする筈がない。
「待ってよ、こういう反抗的な奴は早めに潰しておかなきゃ」
彼は私を壁に追い込み威圧すると、不敵に笑う。
ああ…人生初の壁ドンがこんな小物相手なんて……!
「ちょっと痛めつけたら大人しくなるだろ」
金髪の男はそう言って私に手を上げた。
殴られると思った私は、彼の手が振り降ろされそうなその一瞬で手に冷気を溜め。
彼の顔を両手で掴むとこちらに引き込んだ。
「なっ……おい! つめたっ……勝手に触んな……! 」
そしてそのまま、両手から氷を出して首を冷やしてやる。
首に大きな氷塊を付けられた少年は驚いたのか顔を真っ赤にして後ろによろけた。
私は舌を出すと高笑いしながら
「ちょっとは頭が冷えたかしら? お馬鹿さん」
と言って奴を見下してやる。
「くっそ、気分悪い!お前ら行くぞ! 」
「ちょっと! その氷どうするの!? 」
「その内溶ける! 」
金髪の男はそのまま何処かへ走り去ってしまった。
「あはは! 見た? あいつの顔! 耳まで真っ赤っか!
よっぽど凍らせられたのが屈辱だったのね~! 」
私が振り返り、幼いホワイトに言う。
「あの、助けて頂いてありがとうございます!
良かったらお名前を……」
「名乗る程の者じゃないわ! また会えるといいわね」
これも人生で一度は行ってみたかったセリフだ。
まるで自分もヒーローになれたかのような多幸感に満たされ、
私は上機嫌になっていた。
「リリア!何やってるの肝が冷えたよ!
目立つような真似はするなって言ったよね!? 」
遠くで見守っていたナギがこちらに走って来て、
浮ついた様子の私の肩を掴む。
「め、目立ってないわ…?ヒーローに紛れ込むための芝居よ…」
「目を見てから言い訳してくれる?」
ナギへの言い訳を必死に考えていると、一連を見ていたのか
校門の方向から少年がこちらに歩いて来る。
私と同い年くらいの男の子だ。
少年は黒髪で小柄、どこか儚げな雰囲気を纏っていて綺麗な顔立ちをしていた。
「君」
「は…はひっ」
思わず見とれていた私に少年が声をかける。
黒髪の少年は私と背丈が変わらないのに、常人ではないオーラを纏っており、大人びているように見えた。
「見てたよ、よく頑張ったね!
困ってる人を助けられてすごいすごい…」
彼はそう言って私の頭を撫でる。
何だろう、この子の声ってなんだか安心する…それに手も温かくて…
「え…あ…えへへ」
知らない少年に撫でられるという良く解らないシチュエーションだが、
不思議と悪い気はせず私は満更でもなさそうににやける。
「なっ…!なんですかあなた!人の連れの頭を勝手に撫でて!」
ナギが慌てたように間に入ると少年に言い放つ。
「あ、ごめんね! 嫌だった?
じゃあご褒美にこれあげる、男の子にも」
彼がそう言って差し出したのは、おじいちゃんの家で食べた覚えのあるフルーツ型の寒天ゼリーだった。
「ありがとう……」
あ、このゼリー、昔おじいちゃんの家に置いてあったのと似てる、懐かしい。
「人助けもいいけど、授業に遅れないようにね」
「あー!授業!」
「走ってリリア!今なら間に合うから!」
「ごめんなさい!すっかり忘れてたわー!」
「また後で」
また…?
少年の言葉を疑問に思いつつも、
私たちは全速力で教室まで向かうのだった。
「ふふ、元気だなー」