希望が死んだ日
私は、普通の女の子だった。
成績もパッとしないし、運動もそこそこで特技もない。
周りの皆には何かしら突出したものがあるのに、私には何もない。
何の変哲もないごく普通の女の子。
……私は、そんなごく普通な自分がちょっとだけ嫌いだった。
そんな私にも、一つだけ普通じゃないものがある。
――それは、「ストレスを爆風にする」という物騒な能力。
それに目を付けたスカウトマンの人に声をかけられ、私は自分の「嫌い」を克服する為に、家族の反対を押し切りヒーローになった。
ヒーローになってからは……忙しかったが、楽しかった。
悪いやつを倒すと皆が喜んでくれて、褒めてくれる。
それだけじゃない。私は同じコズミック7のメンバーが……何よりも大好きだった。
「ピンクは本当に強いのに、普段は普通の子って感じで安心する。」
これはブラックの言ってくれた言葉。
私の嫌いだった「普通」が誰かの癒しになっていることが何より嬉しかった。
このまま、この人達とずっと一緒にいれたらと、本気で思っていた。
しかし……戦闘はどんどん激化していき、敵幹部が初めて「メンバーを殺してしまった日」。
私たちの間には物凄い緊張感が流れたのである。
「あのレッド隊長が倒されるなんて……」
イエローが拳を握りながら言う。
「最強のヒーロー」と謳われたレッド隊長の死は、
私達に果てしない絶望感を与えた事件だった。
「悪の令嬢」リリアはどんどん強くなっている。
レッド隊長が勝てなかったのに、誰が勝てるって言うのだろう?
「皆さん、そんな顔しないで下さい!俺……勝ちますから!」
しかしそんな状況でも、目に光を失っていない人がいた。
……「真白冬樹」こと、コズミックホワイト。
追加戦士として加入してきた男の子だ。
ホワイトは何とか強くなる方法を模索し、エリヤ司令官の助けを借り、同じく追加戦士であるブラックと修行を重ね「大幅強化」に成功した。
「すごい……凄いよホワイト!あのリリアを倒しちゃうなんて!」
「いやいや!止めを刺したのはブラックですから!」
私達は喜んだ。
今のホワイト達になら誰も負けない、ブラックホール団のボスだってきっと勝てる!
ホワイトとブラックに希望を見た私たちは、次々にエリヤ司令官の「強化特訓」を受ける。
初めはブルーが成功して、その次はイエローが……どんどんと皆が強化されていく中
私だけが、強化に適応できなかった。
ああ、私はこんなところまで「普通」なんだ。
こんなに自分に愛想が尽きたのは初めてで……とても、無力感を覚えた。
そして、強化された「コズミック7」は、ブラックホール団の大幹部とボスを域王のまま倒していく。
……正直、強くなった皆の前で、彼らは「敵じゃなかった」。
あまりにも極端な力の差に、もし私が彼らとの戦いを傍観する立場だったら「一方的過ぎてつまらない」と感じるほどの圧勝で私たちの戦いは幕を閉じた。
私は何もできて無かったけど……世界が平和になって良かった!
「皆!頑張ったね!」
打ち上げの日、私がお祝いのケーキを机に置いた、その時。
「冬樹……?冬樹!おい!」
……コズミックホワイト、「真白冬樹」は死んだ。
「ボスを打ち負かした希望の光」が……突然、眠るように息絶えた。
――よくよく考えたら当たり前だ。
あんな強化が「無償」でできる筈がない。
仲間たちが受けた大幅な強化は……「大幅に命を削る事で得られる」ものだった。
私はエリヤさんに話を聞きに行ったが……その時にはもう、彼女はヒーロー本部を辞めていて消息が掴めなかった。
その後もまるでろうそくの灯が消えるかのように
一人、また一人メンバーが死んでいく。
……なにも気付けなかった自分が……悔しい。
呑気に希望を抱いていた自分が、愚かすぎて嫌になる。
「若葉ちゃん……!お願い、死なないで……!」
静かな病室で、私は最後に残ったメンバーの手を握りながら訴えた。
「何で私が……私だけ……生きてるんだろう……!もしできるなら私の命をあげるのに……!」
「悲しいこと言わないで、あかりちゃん。私ね……どんなに辛い時でも、あかりちゃんが普通の女の子として接してくれたから……ヒーローでいるのが楽しかったんだよ。」
若葉ちゃんはそう言って、息を引き取った。
楽観的で……馬鹿で、強化にすら適応できなかった、その「普通さ」が……皆を殺してしまった。
……私だけ……生き残ってしまった……!
私が……もっと異変に気付けるくらい聡い人間だったら。
もっと皆が弱っていくことに対応できる知識があったら。
やり直したい……
……やり直したい……!
私が長く平和な普通の人生を終えた時、魂だけでいろんな時間や空間を彷徨った。
その時、見つけた。
「先生!いやあああ!」
子供を庇いトラックに轢かれ、血塗れで生き絶えた男の人……
――「園部光」、彼は小児科を担当している医者で……「コズミック7」のファンだった。
この人なら、きっとやり直してくれる。
そう思って、私は彼の手を取ったのだ。
……なのに
「堪忍な。誰か知らんけど……碌にロールプレイも出来んなら、消えてしまい?」
元の「普通な私」を望んだ人間によって光さんは……
「……あれ?私……何してたんだっけ?」
「桃園あかり」本人になってしまった……。
第1部も終盤で、体調不良もあるのですが
個人的に好きなキャラが多すぎてどう着地しようか、
今のプロットで進めていいのか等以前から悩んでおり
ここからの展開をしっかり見直したい為暫く更新が止まります。
よりにもよって後味が悪い所で煮詰まってしまい大変申し訳ありません…




