喜助
リリア達が公園に集まっている頃、あかりはコズミック5の事務所にいた。
……エリヤのことは、恐らく緑川くんと凛太朗君が目撃している。
あとは「緑川君の記憶を消した人間がヒーロー本部にいる」ってことだけでも証明できたらいいのだが……
鷹野の証言ぐらいしか今の所証拠らしきものは無いし、その証言通りいくと容疑者は……田村さんってことになってしまう。
……だめだ、俺が今まで関わってきた田村さんは、気がよくて、子供好きないい兄貴分というイメージしかない。
そんな彼が仮にも未成年に対して「すべての記憶を奪う」なんて、酷なことをする訳がない。
きっと何かの間違いなのだ。
ああ、手掛かりが少なくてもやもやする……!
考え込んでいると、
「難しい顔してどうしたの、可愛い顔が台無しだぜ」
と大吾さんが笑う。
大吾さんは俺が転生してきた時から、最も「信用に足る大人」だ。
彼の正義感には共感しているし、こちらの話を無下にしたりしない人だというのも解っている。
大吾さんの信用さえ得られれば、焔君があんなことにまでなり、今や危険ともいえるヒーロー本部から、コズミック5を救えるかもしれない。
「な、なんでもないよ!今日のご飯何食べようかなって考えてたの。」
俺はそう言って笑ってみせる。
「そっかそっか!食べ盛りだもんなー。あ、俺この書類経理に提出してくるからちょっと待ってて。」
大吾さんはそう言うと事務所の奥まで消えてしまった。
……さて、これからどうしたものか。
俺が考えていると、見覚えのある黄色い髪が事務所の空き部屋にちらついたような気がした。
……田村さん?今日は彼も休みだった筈だ。
あの窓の位置的に……タバコでも吸っているのだろうか?
俺は興味本位でその場を離れると、田村さんを見かけた空き部屋にそっと入る。
誰もいない……
「何しにきたん?」
「!」
背後から声を掛けられ、俺は咄嗟に振り返る。
そこには金髪で長身の男が立っていた。
「あ……なんだ、田村さん。」
「俺の事追いかけてきたんやろ?どうした?」
田村さんは淡々と俺に問いかける。
「いや……!挨拶しようと思って!私訓練の時早退しちゃったでしょ!?」
「おー、そかそか!律義やねえあかりちゃんは。……どうやった?焔君。
能力が暴走したて聞いたけど。」
「あ……無事だよ、火傷も治って元気だって。」
俺が返すと、田村さんは顔を顰め
「ええ!?治してもうたん!?あかんやん!焔君は原作で顔隠してたし、長袖しか着とらんかったから絶対全身にやけどがあったはずやのに!まーた余計なことしたんか自分!」
と言う。
……ん………?
俺は一瞬、田村さんが何を言ったのか理解できないまま彼の顔を見つめる。
……目の前にいるのは、間違いなく田村さんだ。
この男は何を言っている?焔君みたいな子供が「あんな目に遭ったのに」。
「治してしまった」って表現はあまりに妙だ。
それに前も引っかかっていたが、どうしてこの男は「原作」の存在を知っているのだ?
俺が身構えると、田村さんはゆっくり俺に近付いてくる。
「おい……俺の能力知ってるよな?来たってあんたに勝ち目ないぜ。」
「あかんな、ロールプレイが足りとらんよ。あかりちゃんはそんな男みたいな口調で話さへん。」
「脅しじゃねえっつってんだ!」
俺は声を荒げながら、田村さんの前で爆風を起こす。
そこそこの大きさの爆風だったにもかかわらず、煙からにゅっと手が伸びて来ると、田村さんは俺の頭を掴んでみせた。
無傷……!?
「なあ知っとるか?異星人の中でも最も強い種族……竜の血が入ってるって言われてる奴らのことを。」
田村さんは私の頭を掴みながらそう言って微笑む。
「……あんた……!まさか……!」
「そう、俺の『超速回復』は能力じゃあらへん、元々の体質。本来の能力はこっち。」
田村さんの言葉と共に、頭に激痛が走る。
「うそ……だ……!本当にあんたが……!」
「堪忍な。誰か知らんけど、碌にロールプレイもできんなら……消えてしまい?」
「田村さん……!嘘だよな……!?俺はずっとあんたの事仲間だと思って……!
信じて……たのに……!どうしてこんな……!」
「可哀想になあ。でも勘違いや、俺はあんたのこと『全然あかりちゃんになり切れてない奴』としか思っとらんかったで。」
嘘だ……どうして俺はこんな奴を信用して……!
……まずい……頭がボーっとしてきた……
だめだ……後もうちょっと……
もうちょっと……だったのに……




