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ハッピーエンド?

リリアたちが大きな海原に取り残されてる頃、若葉は必死に緑川との思い出を語っていた。


「それでね……」


……だめだ、私の思い出話を聞いている緑川くんは、全然楽しそうではない。

緑川君はずっと、「他人の話」聞いてるみたいな顔をしている。


……やっぱり私では…駄目だったのだろうか……


私が俯いていると、ウリュウさんが少しこちらを見て

「君の話ってさ、本当に『ユウヤ君』の話そのままなのか?」

と尋ねる。


「どういう意味ですか?」


「話聞いてて思ったけど……なんだか『美化』されてるように感じて。そいつって基本不器用で、小心者で、君が語っているような人間像とは違う気がするんだけど。」


「なっ……!失礼だな。」


緑川君がウリュウさんを睨む。

……だが、確かに彼の言う通りかもしれない。


私を眺めていたいが為にわざわざ「大量のフード」を注文するような人だ、もっと不器用でもおかしくない。


「例えば?さっき言ってた挨拶するとクールに返してくれるってとこ……多分だけど照れ臭いから顔も見れずにさっさと挨拶済ませただけだと思う。」


「そんな……!男子中学生じゃないんだから……!」


「いや、実際ユウヤ君はそういうとこあるよ。」


私は緑川君を見る。

彼はクラスメイトに自分の本性を暴露されたせいか顔を真っ赤にして口をぱくつかせていた。


まさか、本当にそうなのだろうか?


「じゃあ、私が傘忘れた日に偶然通りかかった時『自分は近いから』って言って折り畳み傘くれたのも……」


「彼の家、渋矢だし全然近くないだろ。濡れて帰ったんじゃない?」


「僕そんな恥ずかしいことしてたの!?」


「私が休んでた日に『たまたまやる気のあった日だったから』ってすっごい解りやすいノートくれたのも……」


「君が復帰した時困るから必死にノート取ってたんだと思うよ。」


いつもは寝てばかりでやる気など無かったのに……

……本当に、緑川君は私のことが好きだったのかもしれない。


「や、やめてよ!何かすっごい恥ずかしいんだけど!彼女に嫌われでもしたらどうすんだよ……!」


「じゃあ……私のこと途中から避けるようになったのは……?」


私は、涙を堪えながら緑川君に尋ねる。

……そうだ。そんなに私のことが好きならば、どうしていつも女の子とばかり一緒にいて私を避けるようになったのだろう。


……私達は、両想いだったのに。


「……君に嫌われたかったのかもね。」


ウリュウさんは、寂しげに言う。

私が緑川君の方を見ると、彼は気まずそうに私を見て、すぐに目を逸らした。


「ユウヤ君の境遇は伏せるけど……少なくともブラックホール団員ではあるだろ?

『自分なんかが君なんかに好かれちゃいけない』、そう……思ってたんじゃないかな。」


私の目に、涙があふれる。

敵同士だったから……だから、距離を置かれていたのか?


『戦うって事は傷ついたり……傷つけたり、時には命のやり取りだって要求される。君にはそういうの、向かないって言ってるんだよ。』


不意に緑川君の言葉を思い出す。

そうか、あれもきっと……私のことを心配してくれたんだ。


「なるわけない……!嫌いになんか……なる訳無いじゃない……!」


私は泣きながら緑川君に訴える。

こんな沢山想ってくれて、優しくて。

そんな人、簡単に嫌いになれる訳がない。


「えええ……ちょっと!泣かないで……えっと。」


緑川君は泣いている私を見ておろおろと周りを見渡すと、ウリュウさんを見る。


「どうするかなんて自分で考えろよ。そうだな、背中でもさすってやったら?」


ウリュウさんはため息交じりにそう口にした。


緑川君は少し躊躇うように私を抱きしめると、私の背中をさすってくれた。彼の心臓の音がこちらにも聞こえてきて、私まで緊張してしまう。


「若葉ちゃん……ごめんね。そんなに泣かせるつもり無かったんだけど……」


緑川君は私を抱きしめながら言う。

……あれ?今………


「ユウヤ君、今彼女の名前……!」


「思い……出したの……?緑川君……!」


私が尋ねると、緑川君は少し離れて私を見た後

「あ………本当だ、戻ってる」

と、呆けた顔でそう呟いた。


「や……やったああああああ!緑川君!やったよ!

戻ってきてくれてありがとう!」


私は緑川君を強く抱きしめると、そう言ってぴょんぴょんと飛び跳ねる。


もう敵だろうが何だろうが関係ない、私は……緑川君が大好きだ。


★ ★ ★ ★


私達は操縦方法が解らない中、何とか浜まで戻ったものの……ダンゴムシ状態になったシノはいじけたまま動く様子がなかった。


「ね、ねえシノ……そろそろ立ち上がってみない?

一緒に貝でも探しましょ、ねっ?」


「シノ、さっきそこに小さな魚がいたんだ!潜って見てみないか?」


私達がいくら声をかけてもシノは反応しない。

二人でため息を吐いていた、その時だった。


不意に私のスマートフォンが鳴る。


「はい、もしもし」


【リリア、ユウヤ君の記憶が戻ったよ。今から浜に向かうから君達も浜で待機してて。】


ウリュウはそれだけ言うと電話を切ってしまった。


「……!やったわよシノ!緑川の記憶戻ったって!」


私が言うと、シノは初めて少し顔を上げる。


「あんたのおかげよきっと!そろそろ戻ってくるらしいから、おめでとうって言ってあげましょ」


私がシノに手を差し伸べると、彼はおずおずと私の手を取る。


しかし、この男にも案外可愛いところがあると解っただけでも今日は収穫だったかもしれない。

そう思っていると、思いきり手を引っ張られ、私は体制を崩す。


「リリア様!」


私はシノの上に覆いかぶさるような形で地面に伏せてしまった。

……顔が近い……!


「はは、油断したな?ばあか。」


シノはそう言っていつもの悪戯な笑みを浮かべた。

取り消そう、やはりこの男は性格が悪い。


……


ミカゲさんに起こされ一息吐くと、ウリュウ達の船を待っている間あかりに連絡しようと思い立ち、メッセージを送信した。


【あかり、緑川の記憶戻ったわ!記憶を操作した犯人も分かるかも!】


私がそれを送ると、すぐに既読が付いた後

【……ごめんなさい、どなたですか……?記憶操作…って……何の話?】

と、返信がきた。


……え?


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