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回想

私は早速若葉ちゃんにコンタクトを取る。

【緑川先輩が大変なの、会えないかしら?】

と連絡すると、すぐに返事が返ってきた。


私は彼女の指定したカフェまで急いで向かう。

以前とは違う少し庶民的な雰囲気のカフェで、ドアを開けるとコーヒー豆の香ばしい香りがした。


私が周りを見渡すと、空いている店内には制服を着た若葉ちゃんと、何故かブルーとピンクもいる


「あれ…何でブルーとあかりが」


「リリアちゃま!…私は大吾さんに誘われて…」


「俺ここの常連だからあかりちゃんも誘って

 食事してたのよ!

 リリアちゃんだっけ、君こそなんでいるの?

 しかも裕也君まで連れちゃって」


「私が呼んだんだ、緑川君の様子がおかしいって聞いて…そろそろバイト上がるから来てもらったの」


若葉ちゃんはそう言って心配そうに緑川の方を見る。


「様子がおかしい?元気そうだけどな

 おす!裕也君!」


ブルーが挨拶すると、緑川は体を震わせ


「お姉さんたち、おじさん…誰?」

と言い放つ。


「「え」」


ブルーと若葉ちゃんの2人はそれだけ声を発すると、

黙り込んでしまった。


あかりは少しため息をついたあと


「説明が難しいんだけど…」

と言いつつ、簡潔に状況を説明してくれた。



「へえ、記憶喪失…昨日急にいなくなったとは思ってたけどよ

 なんか大変だったみたいだな」


「そんな…緑川君、私の事忘れちゃったの…?」


若葉ちゃんは信じられない物を見たかのような顔で言う。

…やっぱり、若葉ちゃんって緑川の好感度が結構高そうよね。

今回だってすぐ会ってくれたし…


「今はこんな調子だけど、何かきっかけがあれば思い出すかもってお医者様が…

 若葉さん、緑川と仲良かったみたいだし

 いい刺激にならないかなって思ったの」


「私が?…どうかな、最近はあんまり話して無かったし…」


緑川は、明らかに若葉ちゃんの事を気にしていた。

組織を裏切ってまで彼女を守ろうとしたくらいだ、並の思い入れじゃない筈


「緑川と若葉ちゃんの関係性については詳しくないけど…

 やるだけやってみたらいいんじゃない?」


あかりが若葉ちゃんに言う。


「…ちょっと店長に確認とってみる!」


若葉ちゃんはそう言うとキッチンの方向へ消えていった。


「しっかし、訓練中に記憶喪失とは

 よっぽどきつかったんかな」


ブルーが緑川を見ながら言う。


「いいえ、その…」


私は記憶を見たから記憶を消した

犯人がいるって知ってるけど、

ブルーとあかりにとって田村は仲間

あんまり不用意に話すべきじゃないわね。


「誰か…能力者に記憶を消された可能性も

 あるんじゃないかと思うの…」


私が言うと、ブルーの顔が引き締まる。


「…昨日の、焔君の事なんだけど…

 あの子の暴走も『誰かの能力』に

 よる物なんじゃないかって先生が


 …どうなってる?あの日はヒーローが集まっていた筈

 人の記憶を消したり能力を暴走させた奴が

 正義の本丸にいたってのかよ…」


彼はそう言って目を伏せた。

…焔の件に関しては確定じゃないけど恐らくは「エリヤ」の仕業。

ブラックホール団員の緑川が罰を受けるのはまだ解るとして

ヒーローが味方側の人間に殺されかけるなんて酷な話よね…


「ごめん!お待たせ!

 バイト上がったよ!皆良かったらあっちの個室使ってって、店長が!」


私が考え込んでいると、私服姿の若葉ちゃんがそう言って走り寄って来た。

通された場所はカフェにしては珍しい仕切りが置かれた個室の様な座席だった。


私達は席に座ると、お互いの顔を見合わせる。


「えっと…思い出させるって言ってもどういう話したらいいんだろう…」


最初に口を開いたのは若葉ちゃんだった。

彼女は照れ臭そうに緑川の顔を見るとそう言って俯く。


「まずお互いの出会った馴れ初めを話してみる…とかかしら?」


私が言うと、彼女は顔を少し赤くした後、ゆっくりと話し始めた。


ーーーーー


(馴れ初めなんて大したものじゃないけど…

 緑川君とは銃のクラスで一緒だったの!

 私、銃って苦手で…中々上手く扱えなかったんだ。)



あー、全然的に当たらないー!


まさか今日の先生が臨時講師だったなんてついてない…

しかも「当てるまで帰っちゃ駄目」なんてスパルタ過ぎ!


これじゃ居残りになっちゃう、バイトが入ってるのにそれはまずいよ…


焦ってまた的に発砲するが、また当たらない。


ぐぬぬ…!そろそろ出ないと遅刻しちゃうのに~!


「まだやってんの?君」


背後から声がして、振り返ると

そこには三つ編みをしたかっこいい男子がニコニコ二ながら立っていた。


あ、この人噂になってた転校生だ…緑川君だっけ?

かっこいいけどなんか女子と距離近いんだよね。


「わ、わるい!?…私、銃の才能無いの

 だからこの授業とったのにまさか居残りさせられるなんて…」


微かに目に涙がにじむ。

自分の要領の悪さにイライラしちゃう…

そういえば緑川君は1抜けしてたし銃の扱い上手いんだろうな

もうとっくに帰ったと思ってたのにこんな所で何してるんだろう?


私が疑問に思って彼を見ていると、彼は私の体に身を寄せ


「…手元が震えてる、発砲する時一瞬息を止めてみて

 ゴム弾はそこまで軌道が下がらないから気持ち的の上を狙うくらいでいい」


と言った。


うわ…近い近い!男の人とこんな密着したのお父さん以外で初めてなんですけど…!


「大丈夫?少し落ち着いてみるといいかも、深呼吸してみな」


私は彼に言われるがまま、息を深く吸って、吐いた。

そして的の少し上を狙って…息を止め、引き金を引く。


すると弾は見事に的の真ん中に当たり、私は歓喜する。


「やったー!これでバイトに行ける!」


「おめで…え?バイト?」


「ありがとう!ありがとう緑川君っ!私バイトに遅刻しなくて済むよ!

 また明日お礼させてね!」


私は彼の両手を取り笑顔で言うと、走って更衣室まで向かった。


―緑川君、チャラいイメージあったけどいいひとなんだなー!

次見かけたら話しかけてみよ!


ーーーーーー


「…って、言う具合に…私の事助けてくれたの」


彼女は赤面しながら言う。


へー…まあ大方若葉ちゃんに目付けてて話す機会を伺ってたんでしょうけど

ちゃんと助けてくれるなんていいとこあるのね。


若葉ちゃんはちらっと緑川を見るが、彼は呆けた顔をして

「…今の、誰の話?」と言い放つ。


「…」


若葉ちゃんは目に影を落としながら黙り込んでしまった。

…と、いうよりいっそ彼女の目は黒々しい。

いつもの純粋そうな潤んだ瞳からは想像もつかない程乾いてしまっている。


「…ねえ、緑川君の記憶を取り戻すのって本当に必要なのかな?」


そして、彼女の言葉からまるで突き放すような言葉が放たれた。


「「「…え?」」」


ブルーとあかりと私は、そのあまりの緊張感に思わず息を呑んだ。


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