犠牲
私はブルーと焔に挨拶して病室から出ると、売店の方へ速足で向かう。
そして、楽しそうに売店で話し込んでいる「彼」を見つけて
思いきり抱き付いた。
「ナギ…!」
「うわっ!リリア!?何急に…!」
彼は赤面しながら叫ぶ。
ナギの体は疲れからか、少し冷たく感じられた。
「…ありがとう…焔の事助けてくれて…火傷、綺麗にしてくれて…!」
「なんだ、そんな事…リリアの生命力を溜めてたおかげだよ
俺は能力使っただけだから」
「え…何々?リリアちゃまって焔君といい感じなんだと思ってたんだけど…
もしかして第二勢力もいるの…?」
「リリア魔性の女だー」
凛太朗とあかりが後ろでこそこそと言う。
「ちょっと聞こえてるわよ!」
「…レッド先生とは話せた?リリア」
「え、ええまあ…」
「…何か…言われた?」
彼が私を試すように尋ねる。
「求婚された」とか言ってもまた混乱させるだけだし…
「ええと…治って良かったわねって
あ!焔がナギに感謝してたわよ!」
「そう…今日はもう会わない感じ?」
「ええ、お医者様とお話があるみたいだったから…
緑川の事もあるし今日は帰りましょう」
私はそう言ってボーっと立っている緑川を見た。
「…彼…本当に大丈夫か?知識や語彙力には問題ないみたいだけど
記憶が無くなったせいで子供みたいになってるぜ」
明かりが私に耳打ちする。
そう…これってかなりの異常事態よね。
そもそも「どうして緑川が狙われたのか」も謎なら
「どうして記憶を全て消されたのか」も謎なのよ…
早くウリュウに診せないと元に戻れないかもしれないわ。
私はナギと一緒に渋矢に帰ると、緑川を連れてウリュウ様の邸宅に向かう。
私がインターホンを鳴らし「ウリュウ様、リリアです」と言うと、
彼はしぶしぶドアを開けて迎えてくれる。
「…何、帰りが早かったね?また面倒ごとでも持ち込んだの」
彼は訝しげに言う。
「違う…事も無いんだけど…大変なのよ!」
私がドアを大きく開けた瞬間、ウリュウが物凄く焦ったような顔で私の後ろを見る。
もしかして…緑川の異変に気付いたのかしら?
「ナギ!」
彼は私を押しのけ私の後ろにいたナギに駆け寄る。
私は振り返ると、冷や汗をかきながら青い顔で座り込むナギの姿があった。
「嘘…!ちょっとどうしたのよ!」
ナギは今回、訓練には参加してない…もしかして彼の能力を使わせたせいで体調を悪くしたとか…?
「大丈夫です…ちょっと…貧血で…」
ウリュウは彼を抱きかかえると、すぐに医療班のアジトまで彼を運んでいった。
…
「…何があったか知らないけどすごい疲労度だ…
生命力が殆ど無くなってる」
ベッドに寝かせられたナギを見てウリュウが言う。
…それって…!
「あの…もしかしたらそれ…」
私は焔の事をウリュウに話した。
「ああ…馬鹿だな…きっとそのレベルの怪我を治せるほど
君の生命力の貯金分は溜まってなかったんだろう
…それはおろか…彼はその場にいたヒーロー達から
大して生命力を吸ってない…ほぼ自分の分を使ったんだ」
私は聞いて、言葉を失い
力が抜け、床にへたり込む。
…私のせいだ…私が無理させたせいで…!
「彼のそれ、治るの…?」
「わからない…さっきまで歩いて家に来れたのが奇跡ってレベルだ
この疲労度じゃ能力も使えないだろうし…」
そんな…!
「…ナギの件と俺を訪ねた件は別だったの?」
「そ…そう…なの…
えっと、緑川が訓練中に記憶障害を起こして…
多分だけど、記憶を何者かに消されたんじゃないか…って…」
ウリュウは目を見開いた後、緑川を謎の機械に座らせる。
「な、何それ…?」
「記憶を見る機械、君にも使ったことあるだろ」
彼は淡々と答えると、機械のスイッチを入れる。
すると、ウリュウはパソコンで何かを確認し始めた。
「…おかしい…ほぼ何もない」
やっぱり…全部の記憶が無くなってるんだ
彼はやっと何かを見つけた様なそぶりを見せると、
モニターに彼の記憶を映す。
そこにはコズミックイエロー…田村喜助がニコニコと笑っていた。
『駄目やんか、君みたいな子…俺の知ってる「コズミック7」には
出とらんかったで?』
モニターの奥で、イエローが言う。
『あんた…誰…?ここ…どこ?』
『さあ、どこやろなー?
もうそんな状態じゃヒーローもできひんやろ
早く辞めてしまい』
彼はそう言っていつもの笑顔からは想像もつかない冷徹な顔で緑川を見た。
…やっぱり…間違いない。
田村喜助は「コズミック7」の存在を知っている…!