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死なないで

私と目が覚めたあかり、緑川、凛太朗の4人は

病院の廊下で報告を待っていた。


「リリア!」


すると廊下の先からナギが声を掛ける。

…元々、「焔の傷を治す計画」の為に終わる頃に合わせて来て欲しいと声を掛けていたのだが、

私が事の経緯を説明し「今日は中止になったので来なくていい」と連絡したら「すぐに行く」と言って駆けつけてくれた。


「あれ…レッド先生…じゃないのか、前会った弟さん?」


ナギは凛太朗を見るなり言う。

凛太朗は問いかけに答えようという素振りも無く、ただ床を眺めて不安そうな表情を浮かべていた。


「そう…ちょっと彼疲弊してて…」


何があったのか聞きたくても…この様子じゃ難しいわ。


「何があったの?」


ナギが問うと、緑川が呑気な様子で

「僕、ちょっと解るよ!」と言う。


「え!?本当…!?教えて!」


「なんかすごい綺麗なお姉さんが入って来て…

 男の子がお姉さんに触ったら燃えちゃった」


呑気な様子で言い放つ緑川。

私はあかりの顔を見る、彼女も何かに気付いたような表情をしていた。


…おそらく、彼の能力の暴走は「エリヤ」による犯行だ。

エリヤの能力は、「他人の能力を強化する」もの。


元々の状態でも制御するのがやっとな焔に「強化が加わったら」

あんな悲惨な状態になったっておかしくない。


何のために…そんな事…!許せない!

私は拳をぎゅっと握る。


横目で見たあかりの唇も震えていて、怒りの感情が滲んでいた。


程なくしてブルーが廊下の奥から姿を見せると

「命に別状はない…筈なんだけど意識が戻らねえみたい

 もし仲のいい友達なら声をかけてやってほしいって

 …もし、見ても大丈夫なら、だけど」

と言って無理に笑って見せた。


…病室に着くと、焦げ臭いにおいが鼻を刺激する。

ベッドの上で眠っていた焔は、火傷だらけで眠っていた。


「焔…!」


私は彼の近くに駆け寄る。

嘘よ…治すつもりが何でこんな事に…!


「ごめんなさい…!」


私が泣いていると、ナギが私の左手を握り


「俺、治してみる」

と言う。


…治す…この火傷を…?


「ま、まって…

 毎日ちょっとずつ吸った生命力くらいでこの傷って治るの…?」


「ん…今の生命力もちょっと使っていいなら、楽にするくらいは…

 出来るかも?」


「何する気?」


今まで黙っていた凛太朗が口を開く。


「俺の能力は人の生命力を吸ってそれを誰かに与えることが出来るんだ

 この傷も多少は治せるかも」


彼がそう言うと、凛太朗は椅子を掴みナギの隣に座り


「…俺のも使って」

と静かに言う。


するとあかりも彼の近くに寄り

「俺のも使って」とまっすぐナギを見る。


「え…いや有難いけど…いいの?」


「おっちゃんのも使ってくれ!元気有り余ってんだ」


ブルーもそう言ってニカっと笑う。


ナギは力強く頷くと、全員の生命力を吸収し始めた。

全員苦しい筈だが声も上げず、ただ焔を真剣に見つめている。


「…リリア、レッド先生の手握っててあげたら?」


「…え…」


「彼、君の手が好きだったんだろ?」


ナギに促されるまま、私はレッドの手を握る。

熱い…いつもよりもずっと…

きっと苦しいわよね、頑張って…!


―緑川は何が起こっているのか解らない様子で後ろから全員を眺めていた。


(…あれ?あの男の子の中に…誰か…いるような…)


ーーーー


―ここは…どこだ?

暗い、壁も床もない空間で、炎だけが燃えてゆらめいている。


…熱い…助けて…!


「焔」


俺はふと、声がした方を振り返る。

そこには母さんが優しく微笑んでいた。


「やっと、この時が来たのね」


…何の話?


「何のって…『死ぬ』時が来たねって言ってるのよ!

 お母さん誇らしいわ、焔がここに来てくれて

 ほら、行こう?」


母さんはそう言って俺に手を差し出す。


…あ、そっか…俺、死ぬんだ…

そうだよな、もう充分頑張って来たんだし


ねえ、母さん…俺

…本当は 辛いのも 痛いのも 熱いのも 嫌いだったんだ。


でも俺が我慢すればするほど皆が笑顔になれると思ってた。


だけどもう我慢するのも疲れた…だってそのせいで体は傷だらけだし

…「あの子」とも話せなくなっちゃった。


そうだ、あの子…俺が死んだらどう思うんだろう?

…また…泣いちゃったりしないかな?


俺が母さんの手を取ろうか迷っていると、

母さんの顔は少しずつ歪んでいき、


「焔!ほら!何グズグズしてるの!」


と叫ぶ。


俺がその圧に負けて手を取ろうとした時、

母さんの手が、 凍り付いた。


…え…


母さんの後ろには、「あの子」によく似た…

綺麗な少女がジッと俺の方を見ている。


…リリア…にしては、大人っぽい…


…誰…?


彼女は上品に微笑むと、俺の後ろを指さす。

そこには、白い光の様な物が見えた。


…あそこに…行けって?


彼女は、ゆっくり頷く。


でも…えっと…なんだか良く解らないし、怖いよ


彼女は俺の右手を握り歩き出す。

彼女の手は、「あの子」と同じように少しだけ冷たい。


光の先には、ナギ君が俺の胸に手を当てて、一生懸命「何か」をしているところが見えた。

周りには凛太朗やリリア、ピンクやブルーさんの顔も見える。


…戻らなきゃ


俺が急いで光の先へ行こうとすると、

ここまで連れて来てくれた彼女は俺の右手をぱっと離し、

何歩か下がる。


あなたは…行かないの…?


『私はもう、死んでいるから』


それだけ言うと、彼女は再び俺に寄って行き、

思いっきり俺の背中を押した。


『…死なないで、レッド』


彼女の透き通るような声を聞きながら、俺の意識は遠くなって行った。

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