花言葉
「え?」
彼は驚いた顔をして固まる。
そして少し考えた後に
「どうもこうもないよ
…強いて言うなら…
なんかいつも泣いてるイメージしか無いし…
俺といない方が良い人なのかも…しれない」
と言って目を伏せる。
あ…そっか…そうよね…
敵なんだし…それ以上の感情なんかないに決まってる。
やっぱりあんな泣いて感情的になる女、穏やかな焔が好きになる訳ない…
(だから言ったろ、傷つくだけだって…反省した?)
…ごめん…私…馬鹿ね、こんな事…
(いんや?15歳なんてこんなもんでしょ
変に大人ぶるなよ)
「…ピンク?」
「あ、ああ!大丈夫よ!
そうよね!彼女って敵だもの!
焔君、彼女の事気に入ってそうだったから
今彼女の事どう思ってるか聞いておきたかっただけ!」
「…」
彼はその言葉を聞いて、少し顔を赤くして固まる。
「焔君?どしたの?」
「気に入ってそう…って…どこをどう見てそう思ったの…!?
彼女は元々手当してもらう以上の関係じゃねえから…!」
と言って彼は俯く。
(それは無理あるよ焔君…明らかに浮かれてたじゃん…)
え、そうなの!?
(…君達さあ…)
あかりが呆れた態度を取っていると、
コズミック5の面々が体育館に戻って来る。
「おーす!早いねお二人さん!」
ブルーが元気に挨拶し、その後ろではグリーンがニコニコと微笑んでいた。
「あら?緑川君は?」
グリーンが訪ねる。
「あ!?あー…!何かその…頭の具合が…よくなくって」
「頭?どっかにぶつけたのか?」
「いやあ…」
「急に記憶が消えちゃいました」なんて説明するわけにもいかないし…
本当に面倒な事になったわ!
…そうだ…確か、凛太朗の話だと緑川って売店近くの「指導室」から
出て来たのよね?
(そう言ってたね)
このうちの誰かがその現場とか見てないかしら?
「ね…ねえ、皆…指導室、わかる…?
あそこで緑川がふらついてたらしいんだけど
誰か何か知らない?」
「指導室…って、普通の人間は確かは入れないよな?
鍵持ってんの役員だけじゃねえっけ」
ブルーが首を傾げながら言う。
役員だけ入れる部屋…?
「やーね…何か役員を怒らせるような事でもしたのかしらー…?」
「どうせ女の役員口説こうとして叱られたんじゃねえの?」
まあ、緑川ならない話ではない…?
役員しか鍵を持ってないんなら、緑川が「一人で迷い込んだ」可能性は低い…
なら、「誰か」が彼をあの場所に引き込んで…何かしたんじゃ!?
(その可能性が出て来たな、記憶喪失は能力によるものか…)
青柳さんにそういう能力を持っている役員がいないか聞いとくんだった…!
(それこそ、おねーちゃまはどうなの?
君の敵だし緑川の事立場的に知っててもおかしくないよね)
たしかに…でも、エリヤの能力って確か
「他人の能力を強化する」能力じゃなかったっけ…?
アニメでも何度か使ってた様な気がするのよ。
(なら、彼女の命令で誰かが緑川の記憶を抜いたか、だな…
ここまでで解ってる事、あるよね?)
…何?
(その「記憶操作」の能力を持つヒーローは…アニメには出て来てない
…いや出て無いとは言い切れないししても
少なくとも「アニメで能力を使ってない」とは言っていい)
どうして?
(こんな便利な能力持ってるなら敵側にさっさと使ってる筈だから
コズミック7があんなに苦戦する事も無かったはず…)
それもそうね…
(君や俺がこの世界に転生してほぼ初めて見た人間を最優先で疑った方が良い
能力が2つある線も無くは無いけど…今は考えなくていい)
それならもう一つ候補に挙がる人物像があると思わない?
…例えば、緑川がエリヤを警戒しないなんてありえない
もっと言うと彼って密偵だもの、殆どの人間は信用してない筈
なのに彼は謎の人物と「密室に籠った」。
…もしかして、顔見知りって事は無い?
(…はは…緑川君の顔見知りなんてコズミック5しかないないだろ
馬鹿言うなよ…)
そ…それもそう…ね、ごめんなさい。
(いや、君の推理もあながち見当違いじゃないよ
…少なくとも、警戒に足る人物じゃなかった可能性は大いにある)
不気味ね…
「ピンク?おーい」
「あっ…ごめんなさい!ボーっとして…」
「倒れたばかりだし無理もないわ、しっかり休むのよ」
「ありがとう、みつばさん」
ーーーー
その頃、保健室では…
凛太朗が心配そうに緑川の様子を眺めていた。
記憶喪失の人って初めて見たけど…こんなに「全部忘れた」って
感じになるのかな?
「怖いよお…ここどこ…?」
緑川さんはそう言って震えている。
「だ、大丈夫!俺が付いてるから!」
俺が励ますも、俺の事すらわからない彼は不安そうに宙を見るのみだ。
こんな事が本当に定期的に起こってるのかな…?
急にガラッと医務室の扉が開き入り口を覗くと、そこには花を持った
コズミックイエローさんがいた。
ああなんだ良かった…身内かあ
この人の事は兄ちゃんから聞いてる。
お笑い芸人をやりながらヒーローやってる男前…
子供が好きでよく飴をくれる人。
多分話を聞いた限りでは悪い人じゃない…筈
「イエローさん…こんにちは、花なんて持ってどうしたの?」
俺は兄ちゃんのふりをして尋ねる。
「いやーね、知り合いの子が具合悪くて寝てるって聞いたからな?
駅の花屋で買って来たんよ、可愛いやろ?」
黄色い…チューリップ?ああ、自分がイエローだから…
なんかこの人らしいな。
彼は一番奥のカーテンを開けると、リリアの隣にそっと花を置く。
「えっと…」
「ああ、関係?この前見学に来てたやろ?
そん時ぐらいしか関わってへんから安心し」
彼はそう言って俺にウインクする。
うわ…周りにバレバレ…兄ちゃん俺恥ずかしいよ。
「あれ、緑川君もダウンしとるんか?」
「そうなんだ、なんだか様子がおかしくて」
「ああ…可哀想になあ…こんなになるまで説教でもされたんかね」
…?
この人…もしかして緑川さんが指導室にいるとこ見てるのか…?
「もしかして、彼が誰と指導室にいたのか…知ってたりする?」
「お?ああ…彼が入ってくのは見たで!
お相手の方は見えなかったなあ…それがどうかしたん?」
「…いや」
「お兄さん…怖い…」
緑川が震えながら言う。
知らない人だから怯えてるのかな?
「あー、なんか怖がらせてもうてるし俺もう行くわ!
焔君もあんまり遅れたらあかんで!」
俺は彼を見送ると、ふと置かれた花が目に入る。
一本の黄色いチューリップ…ただ一度、会っただけの少女にこんなもの贈るだろうか?
「…黄色いチューリップの花言葉、僕知ってるよ」
緑川さんが言う。
「へえ、どんなの?」
「名声、望みの無い恋…裏切り」
俺はそれを聞いて少しゾッとする。
いやまさか…あのお調子者のイエローさんに限って花言葉を知っていたとは思えない。
「自分がイエローで」「チューリップが可愛かったから」贈ったに決まってる。
俺は、違和感を拭うように「名声か、いい花言葉だね」と彼に微笑んだ。