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リリアに戻る

その後も、地獄のような特訓は続いた。


腹筋200回に腕立て200回というまあ、ありそうかなというものもあれば、所属しているヒーローの決めポーズを全部やるというよくわからないものまでやらされ、

人間の範疇を超えているコズミック5の面々すら息を乱し始めた頃


「ここが折り返しです、長時間休憩になりますので各々90分後に戻ってくるように。」

という、絶望的な青柳の言葉で前半は終了した。


私は何とか立てているという状況で、

ぼやける視界を正常に保つことで精一杯だった。


「大丈夫?あかりちゃん……ご飯食べに行きましょ」


グリーンさんが心配そうに言う。


あ……無理……


私は返事をすることもままならず、まるで現実から精神が切り離されるような感覚と共に床に倒れ込んだ。


……


……ここ……は……


目が覚めると、レッドが私を心配そうに見つめている。


「わっ!レッド!?」


よく見たら、ここは私が寝ていた医務室だ。

リリアの身体に戻ってしまっている。


「大丈夫?ずっと寝てたみたいだったけど。」


レッドが尋ねる。


「な、何であんたがそんなこと気にするのよ……!」


私は顔を逸らしながら言う。

もしかして……朝私のことを見ていたし、心配してくれていたのかもしれない。


「気にするよ。俺、リリアの事好きだから。」


「ひゃい!?」


「目覚めのキス、する?」


悪戯な笑みでレッドが言う。

私は何かを察すると

「凛太郎……!趣味悪いわよ!」

と言って凛太郎を睨んだ。


「あはは、バレたー」


「状況は掴めないけど、私自分の体に戻されちゃって……!はやくあかりや緑川と合流しなきゃ。」


「そうなの?俺しばらく君のこと見てたけどここに入ってきた人いなかったぜ。たまーに担当医っぽい人が何か取りにきてたくらい。」


良かった、レッドの時みたいに見つかったわけじゃなさそうだ。


「あかりちゃん、本当に大丈夫……?」


「大丈夫!みつばさんも焔君もご飯行ってきなよ!」


「そうそう、俺が付いてるから大丈夫。」


医務室の外から声が響く。

私は咄嗟にベッドに寝込み、凛太郎を布団の中に隠した。


「でも……一度倒れて元気って言われても心配よ。」


「今日は見学してたら?」


「大丈夫だってば!」


あかりが医務室に入ってくるのがわかる。

グリーンとレッドもいるみたいだ……


「私は自分で自分の治療ができるから!ほら二人とも帰った帰った!」


「わかった……でもきつい時は言うのよ。」


「……」


「どうしたの?焔君」


「い、いや……じゃあ俺もグリーンさんとご飯行ってるね」


レッドとグリーンのものらしき足音が遠のく。

私は医務室に緑川とあかりしかいない事を確認するとカーテンを開けた。


「……行った?」


「行ったよ!あぶなかったね」


「これ、何かスパイみたいで楽しい!」


凛太朗が笑顔で布団から出てくる。

この男には緊張感というのもが無いようだ。


「うわっ……焔君と似すぎ!びびったー……」


「彼が例の『弟君』?」


緑川が凛太郎を見て尋ねてくる。


「うん……俺も参加止めたんだけどさ、止めたら見えないとこでやるから意味ないって……」


あかりは呆れたように言った。


それだったら見えている範囲で行動して貰った方がいいという判断だろう。

私もあかりに反対された時は焦ったが、なんとかなってよかった。


「それよりさ、何で憑依が解けちゃったの?時間制限……?」


あかりが緑川に問う。


「時間が迫ってた事と疲れで意識が飛んじゃったみたいだね!いやー焦った焦った」


緑川はあくまでもヘラヘラとした様子で答える。

そういうのがあるんだったら事前に話しておいて欲しいものだ、こちらは死んだかと思ったのに。


「リリアちゃまをまた入れてもいいけど……こんなことがあると怖いよね。どうしたらいいと思う?」


「まあ最悪憑依が解けてもあかりちゃんが中にいる以上、こうやって戻ってこれる訳だし気にしすぎなくていいんじゃない?

一番危ぶまれるのはエリヤちゃん……リリアちゃんのお姉さんにこの子が見つかることだろ。

リリアちゃんが憑依使わずにうろうろしてた方が危なっかしいと思うね、俺は。」


「確かに……リリアちゃまの体で変なことに首突っ込まれても困るわ」


悪かったな、危なっかしくて……


「ほら、また手つないで輪になるよ」


緑川が言うと、私とあかりは手を握って3人輪になる。

すると体から意識が離れていく感覚が襲い、また胸に重心のある体に戻ってこれた。


「一時はどうなることかと思ったわ……休憩時間、後何分残ってる?」


「全然余裕あるよ、1時間ちょいくらい休める。」


「じゃあ私達もご飯食べに行きましょうか。」


「俺も何か食べたい」


凛太朗が言う。


「食べ物持ってこなかったの?弟君。」


「持って来たけど全部食べちゃった、俺育ち盛りだから!」


「じゃあ休み時間の間に売店に行くといいよ、そこに食べ物売ってるから……焔君にだけは見つからないようにね。」


「オッケー!」


私達はその場で解散し、緑川と一緒に食堂へと向かう。

すると、真面目そうな男が廊下の向こう側から歩いてきた。


「青柳さん!さっきはどうも……!」


私が笑顔で青柳さんに声を掛けると、彼は少し驚いた顔をした後

「コズミックピンクさん……倒れたと聞いていたのですが、元気そうですね。安心しました」

と言って眼鏡を持ち上げる。


もしかして、あかりのお見舞いに行こうとしてたのか?


(青柳さん、あなたと関りがある人なの?)


心の中であかりに尋ねる。


(いーや?でも確かに去年も結構疲れてないかとか気にしてくれてたな)


なるほど、優しいか若い子が好きかのどちらかみたいだ。


そう思っていると、青柳さんは少し何か言いたげに私を見て

「あの、コズミックピンクさん。少しお願いがあるのですが……」

と口ごもる。


「はい、なんでしょう……?」


私が少し身構えていると、青柳さんは後ろ手に持っていたハートの意匠のグローブを取り出し

「これにサインをお願いします!」

と言いながら深々と頭を下げた。


………え?

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