合同訓練開始
(医務室のベッドに何でリリアが眠ってるの……!?)
「リリア!何してるんだよこんなとこで!」
焔が体を揺すってみたが起きる気配は無い。
(もしかして、すっごい体調不良とか?でもそれならどうしてヒーロー本部なんかに……)
焔はリリアの顔をまじまじと見る。
(白い肌に黒い髪、整った顔……まるで童話の「白雪姫」みたいだ。
……何考えてるんだ俺は!「キスしたら起きるかも」なんて変態の考えることだろ!ピンクの邪がうつったかな……)
そんなことを考えながらも、焔はリリアに手を伸ばす。
(でも……髪に触るくらい……なら……)
「焔君!何してるの!?探したよーもうすぐ訓練始まるんだけど!」
「うわあ!」
ピンクの声がして、思わず声を上げる。
「……大丈夫?何かあった?」
「な……何にもしてない!しようともしてない!!!」
「何よ変なの……ああ、その子私が連れてきたんだけど、朝具合が悪いって言って倒れちゃったのよ。」
「どおりで起きないわけだね」
「まあ、多分その内回復するわ。ほら!さっさと体育館行こう!」
「ああ……でも俺包帯巻きに来たから……!」
焔がそう言ってピンクの手を振り払う。
「なんだ、また怪我放置したの?見せて、巻いてあげる」
ピンクはそう言って慣れた手つきで焔の腕に包帯を巻くと
「ほら、遅れるわよ!」
と言って焔の手を引き走り出した。
(……なんか今日のピンク、雰囲気が違う……?まるで……いや、まさかな。)
ーーーー
危なかった、まさか医務室に眠らせておいた私をレッドが見つてしまうとは。
しかし、上手く交わせたようだ。
体育館に戻ると、まだ本部長は来ていないようだった。
「おお、心配してたんやで焔君!珍しく遅い到着やな。」
「ごめん……ちょっと色々あって。」
「お、皆来たぞ、姿勢正せ。」
ブルーの一言で全員が緊張感を帯びる。
歩いてきたのは、40代くらいの男性。
とても威厳があるその姿に加え、他の談笑していたヒーロー達を黙らせる程のオーラを纏っている。
あれが……ヒーロー本部のトップ……!
(赤松宗次郎……二代目レンジャー5のレッドだよ。
相変わらずオーラあるねーあのおっさん。)
赤松はマイクを持つと
「皆、静かで結構……今日はお集まり頂きありがとう」
と低い声で言う。
「今日は皆が訓練を怠っていないか、その努力を見る日である。気を引き締めて臨むように。」
赤松はそれだけ言うとマイクを置き、体育館の隅へと移動した。
言葉数の少なさに謎の多さが滲み出ていて、一層不気味さを感じさせる。
(昔朝礼の話が長いってクレーム受けてからずっとああらしいよ。)
あかりの補足に、思わず拍子抜けした。
思ったよりリアルな事情だったようだ。
「赤松本部長に変わりまして、次は私が指揮をとります」
続いて、真面目そうなメガネの男性がマイクを取り挨拶を始める。
「まずは挨拶程度に外周を40キロ走りましょう」
……ん?
なんて言ったのだ、あの男……
(外周を40キロだよ、去年は30キロだったんだけど……)
あかりが呆れたように言う。
最悪だ……!とてもジャブで済ませていい距離ではない。
その後、とても人間に課せられるそれとは思えない訓練が続き……
訓練に慣れているあかりの体とはいえ、休憩を言い渡される頃には息も絶え絶えだった。
「殺す気なのあいつら!?」
「あかりちゃん2年目だっけ?しんどいよなー、毎年」
怒りを露わにする私にブルーが言う。
しかし「しんどい」と言葉にしつつ彼の態度からは余裕を感じる。
よく見ると疲れを出してるのはコズミック5で私だけ……ほかはケロッと談笑しているし、
緑川までもがまだ余裕そうにスマートフォンをいじっている。
「……一周回ってああはなりたくないわ。」
(同感、人間としての尊厳を守りたいよな)
「おーあかりちゃん、疲れ気味?飴ちゃん食べて元気出しや。」
イエローは私の疲れてる様子を察してか塩味の飴を渡してくれる。
「ありがとう。」
「それ、一回廃版になって最近復活したやつじゃん!俺も好きなんだよー、一個ちょうだい!」
「ええよ。」
ブルーがイエローに飴をねだると、イエローは気前良く彼に飴を渡す。
「あれ?これ…復活する前のパッケージじゃね!?」
「賞味期限は切れてへんよ?」
「そこはいいけど……」
「復活した方はなあ……パッケージが少し派手になってもーて嫌やねん!元の方が良かったやろ?」
「そうかなあ?若い子の感性はよくわかんないよおじさん。」
イエローにはやけにこだわりがあるようだ。
(料理にも調味料極力付けないで食べたり、結構変わってるとこあるよ田村さん。
素材の味を好むっていうか……変化を嫌うって言うか。)
ヒーローにも色んな人がいるのだな……
注意深く周りを観察していると、不意に通りかかった眼鏡の男性に目が行く。
あの人……赤松に続いて挨拶してた人だ。
ジャージを着ている時は普通のサラリーマンに見えたのに、脱いだら体がしっかりしてて流石ヒーローだと感心させられる。
(あの人は副本部長の「青柳はじめ」さん。ずっとピンで『詰襟ライダー』ってヒーローしてたの。)
つめえり……中々トンチキそうなヒーローだ。
(彼、俺には優しいけど……結構厳しいって噂だぜ。訓練内容決めてるのもあの人らしいし。)
よし、極力関わらないでおこう。
小休憩の時間が終わり、ヒーロー達は再び体育館に集められる。
……今日、終わる頃に命があるだろうか。
(祈るしかないね、がんば!)
私も体育館に向かおうとすると、誰かに腕を捕まれ硬直する。
(誰よもう……)
振り向くと、そこには銀髪の美しくも恐ろしい少女……エリヤが微笑んでいた。
私は出そうになった悲鳴を押し殺して、彼女を見つめる。
「あ、あらこんにちは!腕なんか掴んでどうされたんですか?」
笑顔で尋ねると、エリヤは笑顔を崩さずに
「朝……目が合ったでしょ?可愛い人だと思ったの。」
彼女はそう言って手を離さずに私を見つめてくる。
だから何だというのだろう?
目的が解らないからどう対応したらいいのかも分からない。
私が心の中で助けを呼んでいると、エリヤの腕を眼鏡の男が掴んだ。
「何油を売っている?彼女が体育館に行けないだろう」
「失礼、私はこれで」
エリヤは青柳を見るなり手を離すと、体育館へ消えてしまった。
「あ、ありがとうございます……!」
私は青柳にお礼を言う。
「いや、気にしなくていい。役員が失礼した。」
青柳は眼鏡を持ち上げ軽くお辞儀すると、そのまま体育館の方向へ歩いて行った。
……思ったより……怖い人ではないようだ。




