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潜入

――翌朝、ヒーロー本部には大勢のヒーローが集まっていた。


「すみません、入館証をお願いします」


入館の受付をしていたスタッフ達に、穏やかな声が掛けられる。

スタッフが声の方を見ると、黒髪の儚げな少年が微笑んでいた。


「あ……あー!コズミック5のレッドさんですね!

この機械に顔を映して下さい」


「パスワードの入力も……はい!問題ないですね!どうぞ!」


レッドは二人に会釈すると、そのまま建物の方向に消えて行った。


「……いやー、相変わらず小さいのにオーラあるわ。」


レッドを見送った後に女性スタッフが言う。


「あれ?でもコミレッドさん朝一番でも見かけなかったっけ?」


「再入館とかじゃない?忘れ物したとか……」


「おっはようございまーっす!」


間髪入れず、ヒーロー二人が声を掛けて来る。


「コズミックピンクでっす!入館証くださぁーい!」


「……コズミック5研究生の緑川裕也です。入館証を頂きたいんですが……」


「あーはい!顔とパスワードを……二人ともOKですね!訓練頑張って下さい!」


「ありがとうございまぁす!」


二人を見送るとスタッフ二人は顔を見合わせ

「……ねえ、コミピンクさんってあんな感じだっけ……?」

と言って首を傾げた。


ーーーーー


(ちょっと!俺あんな感じじゃないでしょリリアちゃま!しっかりしてよ!)


「……緑川……ねえ、体の住人の声が聞こえるんだけど……」


「中身を追い出さなきゃ基本的に聞こえるよ。今日はずっとお友達と一緒で良かったじゃない。」


緑川はそう言って微笑む。

……そう、私は今あかりの中に入っている。

なんだか肩が重いというか……こう、胸中心に重心がある感じ……!

「ある」人ってこんな感覚なのかと感動する。

真理愛時代も無縁だった感覚が今ここに……!


(リリアちゃま……人の体で変な事考えるのやめてよね?)


「しかしこれ、どうすんの?」


私はそう言って大きなリュックを指さす。


「僕の能力は3時間しか憑依させれいられない……

この訓練は『6時間ある』から、リリアちゃんの体を置いておく場所が無いとね。おいで!」


緑川は私の手を引くと、見学会の時にも訪れたあの部屋に連れてこられる。


「……医務室……」


「訓練でキャパオーバーして倒れる奴が毎年いるらしいから、寝かせておいてもまあ大丈夫でしょ。

……担当者は今体育館にいるから、寝かせるなら今の内。」


流石元一流スパイ、鮮やかだ。


私はリュックから自分の体を取り出すと、医務室のベッドに寝かせた。

自分の体を第三者視点で見るのは変な感じがする。

こう見てみると、リリアは本当に人形のような可愛い顔をしている。


(ナルシストになっちゃった?)


「うるさいわね!」


「わっ……びっくりした。何か言われたの?」


「ご、ごめんなさい!何でもないわ!」


(もー…!疑われそうだから訓練中はあんまり話しかけないでよねあかり…!)


(ごめんごめん、気を付けまーす。

……そういえば、彼は大丈夫なの?侵入自体はうまくできてたみたいだけど)


あかりは私の心の中でそう尋ねてくる。

「彼」とは、凛太朗のことだ。

入館さえできてしまえば後は時間内まで隠れるだけだし、スマホの充電器もゲーム機も持って来たって

言ってたから大丈夫だろう。


(遠足じゃねえんだぞ……?)


私達は医務室を後にすると、体育館に向かう。

体育館には大勢のヒーローが集まっており、そのオーラに思わず圧倒された。


「おーい!こっちこっち!」


どこに並んでいいか解らずうろついていると、ブルーが大きな声で手を振る。


やはりあれだけ背があると目立つな。

私達はブルーの傍まで行くと、コズミック5の面々が顔を揃えていた。


「おはようございます!」


「おはようピンクちゃん、緑川君……あれ?レッドちゃんは?」


「まだ来てないんですか?」


「ええ、そうなの。珍しいわね、朝一番で見かけて

訓練スペースで朝練してたのは見たんだけど……」


訓練前に訓練……?なんて無謀なことを……


(そろそろ人間辞め出す頃かもな)


「まあ焔君ならそのうち来るでしょ。それより今日も美しいですね、佐伯さん。」


……ん?

……佐伯……?若葉ちゃんと同じ苗字だ。


(あんれ、知らない?彼女は『佐伯みつば』。若葉ちゃんのお母さまだぜ)


「えーーーーー!?」


あかりの補足に、思わず声が出てしまう。


「うおっ……何や急に大声出して!」


(おい気を付けろ……!憑依してるってバレないにしても目立つだろうが!)


(ご、ごめんなさいつい…!)


若葉ちゃんのお母様だったのか、通りで美人で強いわけだ。


「きっと彼女も佐伯さんの美しさに驚いたんでしょう」


「あら……既婚者を口説くもんじゃないわよ?」


「せや、女に構いすぎると将来痛い目見るで。」


「喜助、昔すっごいスキャンダルばっかりで運営に迷惑かけっぱなしだったもんな。」


ブルーがそう言ってイエローに笑いかける。


「言わんでよー、反省しとるんやから。」


喜助……イエローの名前?


(田村喜助……俺はいつも田村さんって呼んでる。

お笑い芸人やりながらヒーロやってるんだよ、彼。

知らない?「コンニチワワ!」ってギャグ。)


あかりの説明を聞いて感心する、どうやら凄い人のようだ。


私がイエローを眺めていると、会場がざわつき始める。


ヒーローたちの目線を追うと、そこには見たくもない顔が見えた。


「ひっ……!」


「おー、出たかあのねーちゃん。急に役員になったって言う……」


「ああ、経歴不明っちゅー……まだ若そうやのに不思議やな。」


「ちょっと、あんまりそういう噂話はしない方が良いわよ。」


(……そっか、あの人……君のお姉さんだったね。)


最悪だ……見るだけで背筋が凍る。


(エリヤはどうしてブラックホール団を裏切ってヒーロー本部の役員なんかに……?)


(さあ……わかんねえけど俺もあの人あんまり得意じゃないぜ。目が冷たいんだよな、彼女。)


私が心の中で呟くと、あかりがそう答えた。


ふいに、見ていたことに気付いたかのように、エリヤがこちらを見る。

……まずい、目が合ってしまった。

私は彼女に笑顔で会釈すると、あちらも会釈を返した。


エリヤだけには怪しまれないようにしなければ。


ーーーーーーーー


全員が体育館に集まる中、焔は医務室にいた。


(昨日できた傷が痛すぎる……流石に包帯しておこう、汗で蒸れたりでもしたら大変だし!)


そして、まだ訓練が始まっていないにも関わらずベッドに誰かが寝かされていることに気づいた。


(まさかリタイアしたフリしてサボろうとしてるんじゃ……!そういうのって駄目だったはずだよな?)


「……あの、今の時間はベッド使っちゃ駄目なんじゃないですか?」


焔が声を掛けるも、返事はない。


(む……何故しかとされねばならんのか。)


顔を見てやろうと、焔は興味本位でカーテンを開ける。

するとそこには、見覚えのある黒い髪の少女が眠っていた。


「……リリア……!?」

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