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期待

皆と別れ、屋敷に帰ろうと歩いていると


「リーリアッ」


とご機嫌な声で呼び止められる。

振り返るとそこには、ニコニコと微笑むシノがいた。


「げっ……」


正直、私はこの男が苦手だ。

……というのも聞こえているのだったか。


「勿論聞こえてるぜ?傷つくなー、こんなにあんたの事愛してんのにさ」


「何の用?」


「明日、ユウヤとヒーロー本部の潜入に行くんだろ?いい物貸してやるよ、来な。」


シノはそう言って強引に私の手を引いた。


「ちょっと!」


連れてこられた場所は、閑散とした研究室のような場所だった。

ラボ……のように見えるが……あまりにも物が散らかっている。

凄く掃除したくなる部屋だ。


「これだ!じゃじゃーん!最近開発した『企てバレバレリーナ』だ!これを使えば相手は嘘を吐けなくなるぜえ。」


シノはそう言ってちゃちなバレリーナ人形を渡して来た。

バレバレリーナって………最悪のネーミングセンスだ。


人形の土台には、紐のような物が付いている。

もしかして何かに取り付けて使うのだろうか。


「どう使うの……?」


私が尋ねるとシノは

「失礼」

と言いながら私の髪を耳にかける。


急にシノの顔が近付いてきて動揺してしまう。

この男、普段の感じだとわかりにくいが、顔は本当に綺麗で整っている。


宝石みたいな赤髪に赤いまつ毛、神秘的な見た目だ。


「お褒め頂きありがとう。」


そうだった、これも聞こえているんだった……!


シノは特に気にした様子もなく私の頭に先程のバレリーナ人形を取り付けると、何かのスイッチを押す。


あれ……なんか頭がぼやけるような……


「なあ、俺のこと好きか?」


シノの問いかけが頭に直接響くような感覚に陥る。


「顔はかっこいいけど性格悪いから嫌い。」


意思とは無関係に、私から言葉が飛び出す。

少し怖くなってくる……余計なことまで話してしまいそうだ。


「ミカゲのことってどう思う?」


「一見優しいけど、侮れないわ。……未来でボスになる人物だもの。」


「へえ、そうなのか。じゃあウリュウは?」


「……嫌な奴だけど、意外に年頃らしい時もあるし、優しいとこもある……し。私は……結構嫌いじゃない。」


私は一体何を言っているのだ、あの性格が歪んでいる顔しか取り柄のない男を「嫌いじゃない」だなんて……!


「あんた、最近大分雰囲気変わったよな?『本当にリリア』なのか?」


まずい、その質問は……


「私……は……」


「シノ、勝手に僕の部下で遊ぶなよ。」


ラボの入り口から声が響く。

振り向くとそこにはウリュウが呆れた顔で立っていた。


「ウリュウ……何でここに?」


「緑川捕獲の件で君に相談があったのに、俺の部下と遊んでるからびっくりした。」


ウリュウはそう言って私の頭の上にあったバレリーナ人形を取りあげる。


「何これ?また変なもの作って……」


「それはまだ実用性ある方なんだぜ?ウリュウも使ってみるか?」


「いいよ、君の発明って七色に光るスライムだか札束風呂に入る気分を味わえる入浴剤だかそんなしょうもないものばっかじゃん。」


本当にしょうもない。

トンキのおもちゃ売り場に売ってそうな物ばかりだ。


「今回は一味違うんだって!ほらほら!ウリュウも付けてみなよ!

必要なら安く売ってやるからさあ。」


「おい!ちょっと勝手に……!」


シノは無理矢理ウリュウにバレリーナ人形を取り付ける。

待てよ、ウリュウにこのバレバレリーナが付いたってことは……今彼は隠し事が出来ないのでは?


「その通り、こいつの本音気になるだろ?リリアちゃま。」


ちょっとだけ、気になる……

私は思わず唾を飲んだ。


「ウリュウ、好きな女のタイプは?」


「ん……包容力のある人……」


ウリュウは苦しそうに答える。


「ぎゃははははは!まーじか!ウリュウ君歳上好き!?甘えたいタイプなんだー!」


シノはそれを見てゲラゲラと笑う。

ああ……後で私も怒られる未来が見える……


「胸派?尻派?」


「足……」


「あー!ぽいわー!

 足好きそうな顔してる!」


な、なんだか見てるこっちが恥ずかしくなってきた。


「ねえ、もういいでしょ!取った後殺されるわよあんた!」


「大丈夫だよ、こいつ『人を痛めつける』とか、そういうの出来る奴じゃねえの。

……そうだ!リリアのことどう思ってる?」


シノが楽しそうに尋ねる。

ウリュウは少し私の方を見ると

「何かを……変えてくれそうな気がする。」

と答える。


……え……


「真理愛は……不思議だ、人を動かす力がある。

だから本当に……地球人と異星人の仲を改善できてしまうんじゃないかって、どこか期待して……」


言いかけた所でウリュウは苦しそう手を上げると、バレリーナ人形を頭からもぎ取り床に叩きつけた。


「はあ……はあ……!趣味の悪いもん作りやがって……!」


息を切らしながらウリュウはシノを睨む。


「悪かったね!でもこれ、あんたの部署で一番必要なもんだろ?要らないならいいけど。」


ウリュウは舌打ちした後、

「買う!でも見た目はもう少し何とかしろ!目立つだろうが……!」

と言い放った。


「いいねえ、見た目は改善出来るけどその場合ちっとデザイン費を頂くぜぇ。俺はこの見た目で満足してるからよ。」


「仕方ないな……少し出してやる。言っておくけど2度と僕には使うなよ。」


「わーってるって!……リリア、明日の朝には小型化したの作ってやるから持っていきな。役に立つかもよ?」


シノはそう言ってバレリーナ人形を持ち奥へと消えて行った。


「行こう。もうあいつには着いていかない方がいいぜ、忠告だ。」


ウリュウは私の手を引くと、そう言ってラボから出ていった。


私はどこに行くと言う訳でもなくウリュウの後を付いていく。

……気まずい。

シノの主導とはいえ色々言いたく無いこと言わせた手前、何と声を掛けていいかわからない。


私が戸惑っていると、ウリュウは振り向いて

「……何?」

と尋ねる。


「え!いや……何でもないわよ。ボーっとしてただけ……」


ウリュウは少し顔を顰めると、私の腕を掴み体を引き寄せた。


(は……!?ちょっと待って、そんな急に……!)


私は赤くなってるのを隠すかのように顔を背ける。


「な……何なの……?」


「……さっきの……僕の本心だと思った?そんな訳ないでしょ、調子に乗るなよ。

……君になんか期待してない、僕は君が嫌いだ。」


ウリュウはそう言い捨てた後しばらく私を見つめる。

まだ何か言いたいことがあるなら言えばいい、無言でじっと見られると心臓に悪い。


「……っはは……!」


真剣な顔から一変、ウリュウは私の顔を見て笑い出す。


「どこまで顔が赤くなるか見てたけど、本当に茹でたタコみたいな色だね。」


ウリュウに言われ、私は更に顔を熱くする。

この男、揶揄う為に見つめていたのか……!?


「僕はあっちだから、ここで。また明日、真理愛。」


……本当に驚かされた、心臓が太鼓のように鳴っている……

しかし、あの男があんな無邪気に笑っている所を見たのは初めてかもしれない。


『本当に……地球人と異星人の仲を改善できてしまうんじゃないかって、どこか期待して……』


私はウリュウの放った言葉を思い出す。

彼は……案外悪い奴じゃないのかもしれない。

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