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あの「目」

リリアが凛太朗に出会っていた頃、フユキは模擬戦闘スペースにいた。


ゆかり君はまだ来てないか…ちょっと早く来すぎたかな?

…昨日はカッとなって勝負受けちゃったけど…

いざ当日ってなってみると嫌だな…外野が既に集まり始めてるし、

こんな大勢の中でもし戦ってまた


「あんなこと」になったら…


俺は1年前の事を思い出す。


ーーーー


「フユキ!トップの謁見頑張れよ!」


ゆかり君が言う。

最近の頑張りが認められ、

俺はヒーロー本部のトップの目に留まったらしく

今日はヒーロー本部で彼と話す予定となった。


しかし彼と会うのは俺だけじゃない、

「鷹野先輩」も一緒に謁見する事になってるらしい。


…俺、あの人嫌い…いつも突っかかって来るし、

ジャージをズタズタにされたり、俺の荷物をゴミ箱に捨てられたり

最近妙な嫌がらせも続いてる。


バレない様に上手くやってるみたいだけど、多分全部あの人の差し金だ。


今まで避けて来たが、今日は嫌でも顔を合わせなきゃいけない。

不穏な空気を感じつつ、俺はヒーロー本部の門をくぐった。


予感は当たらずとも遠からず、先に来ていたであろう鷹野先輩は

エントランスでニヤつきながら俺とゆかりを見て取り巻きと笑っている。


「相手にしない方が良いよ、あんな奴がヒーロー志望とはね」


ゆかりが小声で言う。


「…ヒーローは上下関係が大事だから…挨拶だけしないと」


俺は笑顔で「おはようございます!」と声を掛けたが、

彼らは少し嘲笑するのみで返さなかった。


まあ、こちらは挨拶を済ませたのだから問題はないだろう…

このまま大人しくしてくれていればいいんだけど。


そのままトップの部屋に通された俺と鷹野先輩は、

一目見てその存在感に少し恐れを抱いた。


元「レンジャー5」二代目レッド…「赤松宗次郎」

天才剣士と謳われた剣の使い手だ。


彼の右目に通る傷は深く、かなりの歴戦を潜り抜けて来ただろう事が解る。


彼は重々しく口を開けると

「よく来てくれた」

と言って微笑む。


しかしその目の奥は冷たく、得体の知れない恐怖を感じた。


「君たちは…何の為にヒーローになりたいのかな?」


赤松が問う。


「自分の実力を試したいからです!」


鷹野先輩はそれに、自信に満ちた様子で答えた。

…俺は…


「この能力で人を…救いたいからです」


俺の言葉を聞いて赤松は納得したように頷くと

「どちらも素晴らしい…なあ君たち、

 異星人と地球人がなぜ争っているかは知っているね」


「こっちが住まわせてやってたら調子乗り出したんっすよね」


鷹野先輩の説明も間違ってはいないのだろうが…ちょっとだけ違う。

かつて地球に複数の種族の異星人が降り立ち、地球人に技術を与え、地球人は報酬に土地を与えた。


…しかし、一部の過激な異星人達は捧げられた土地で兵器の開発等を始めた為、

地球人達はそれに怒り、異星人「全員」を排他する事に決める。

いっしょくたにされた理由は…彼らに本気を出されたら地球を守れないのを自覚しての事だろう。


…「ブラックホール団」等の、昔から今まで大人しく暮らしていた者達は割を食った訳だ。

一概に異星人が悪いと言うより、

一部の悪い奴等のせいで他が巻き込まれたという表現が正しいだろう。


「そう…異星人は悪しき者達

 我々の場所を当然の様に奪う下賤のもの…

 君たちにお願いがある

 異星人に、死を

 全ての異星人を皆殺しにしてくれないか」


彼はドスの効いた低い声でそう訴える。


皆殺しって…穏健な層まで殺せって言ってるのか?


「勿論っすよ!全員ぶっ殺します!」

高野先輩が無邪気に言う。


「君は」

赤松に鋭く睨まれ、俺は少し考える。

…トップの言葉はこの組織の言葉。

これに同意すれば晴れて、組織の仲間入りだ。


俺は確かにこの能力を誰かの為に使いたい。

けど、その手段は「何でもいい」わけでは無かった。

ましてや、この能力が「殺人に最も適している」と証明してしまうのは嫌だ。


「…すぐの返事が出来ません」


俺は素直にそう答えた。

他のヒーロー達は…全員「これ」に同意しているのだろうか?

だとしたら…想像していた正義とは少しイメージが違って来るな。


「それもよろしい、良く考えてくれ

 …鷹野くんだったかな」


「うぃす!」


「君には話がある、残りなさい」


ーーー


話が終わり、エントランスに戻ると

高野先輩の取り巻きが連絡をもらってはしゃいでいる。

おそらくは…「ヒーローになる事が決まった」のだろう。


「おい…鷹野は?」


「残ってトップと話してるよ!」


俺の答えを聞いて何かを察した様にゆかりは目を伏せる。


「また…半期後頑張ろうぜ!」


彼はそう言って無理に笑ってみせるが…

俺からしたら「半期後」でも恐らくあの答えは出せない。

何故なら「NO」としか言えないからだ。


…それなら、別のヒーロー事務所を受けるか…

でももしそれでまた、同じ様な選択を迫られたら、俺は…


俺が考えあぐねていると、鷹野先輩が高揚した様子で戻って来る。


「あっれー?『落選』君じゃーん!

 どったの?暗い顔して」


「鷹野先輩!その様子だとヒーローになる事が決まったんですね!

 おめでとうございます!」


俺が言うと彼は一瞬顔をゆがめた後、

「そうだぜ?晴れて俺がヒーロー、お前はまだ底辺

 『時期最有力候補』とか言われてたくせに可哀想だねえ」

と言って煽ろうとする。


「はい!底辺からまた頑張ります!」


俺が笑顔で言うと、何が気に入らなかったのか彼は俺の胸ぐらを掴み

「余裕そうじゃん…!まだ舐めてんのか?俺の事…!」

と言って威圧する。


面倒な人だな…悔しがって欲しかったんだろう。


「舐めて無いですよ!先輩ってすごいなって思ってました!」

あくまで笑顔を崩さず俺が言うと、彼は俺の頬を思いっきり叩く。


…やりすぎだろ、本当に馬鹿だなあこの人…

こんなとこ誰かに見つかったら内定取り消しになるかもしれないのに。


「ふっざけんな!もっと負けましたって泣くなり怒るなりしてみろよ!

 つまんねえ奴!」


「尊敬してる先輩がヒーローになったのに怒ったりするわけないです」


「…このっ…!」


二発目が飛んで来そうな刹那、鷹野先輩の腕をゆかり君が掴む。


「ゆかり君!何やってるの!」


思わず、焦りでそう言ってしまった…

それが、いけなかった。


彼は俺の様子を見て何かを察すると

「お前の方がよく泣いてくれそうじゃん」

と言ってにやりと笑う。


取り巻きがゆかり君の体を抑えると、鷹野先輩は彼の胴体めがけて拳を入れようとした。


…その時、勝手に体が動いてしまったのだ…


俺は鷹野先輩を殴った。

今までの恨みを払拭するかのように…


その時の事はあまり覚えてないけど、鷹野先輩と取り巻き達は気が付いた時には床に横たわっており、

自分の能力の反動を体が受けきれず、俺も怪我をしてしまった。


…一つだけ…鮮明に覚えてる事がある。


薄れゆく意識の中で見た、ゆかりのあの「目」


家族に…先生に…友達に散々向けられてきた「目」だった。


『俺達、一緒にヒーローになろうな』


初めて双星の門をくぐった時に彼が言った言葉が、頭に浮かんで…


ああ、叶わない夢になったんだという諦めと共に俺は目を閉じた。


ーーーー


…また…あんなことになってしまったら…

俺はどうしたらいいんだろう。


「待たせたな」


ゆかりがそう言って「模擬戦闘スペース」に入って来る。

いざ顔を見ると、思わず戦いの決意が鈍る。


…怖い…またあの目を向けられるかもしれない事が…


俺を肯定してくれた「あの人達」までもが、

俺を「化け物」だと認識してしまう事が…


俺は何を言う訳でもなく、ただ彼の顔を見ている事しか出来なかった。

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