嘘
うう…頭痛が…!
ついに…ついに明日は合同訓練の日
それに今日はゆかりとフユキが戦う日じゃない
何でこうも連日!変な事ばかり起きるのよ…!
私は授業終わりでふらつきながら裏庭にしゃがみ込む。
…こんな疲れてる顔、皆に見せちゃ駄目
きっと心配されるだけだもの…
「大丈夫?」
私は聞き覚えのある穏やかな声を聞いて、思わず顔を上げる。
レッド…?レッド…だよね?
「レッド先生…?あの、いいの?私に話しかけて…」
「いいの?って…どういう事?
生徒に話しかけたらいけないんですかー?」
彼はそう言って笑う。
昨日の事…怒ってないの?あんなひどい事言ったのに…
「いけないことは無いけど…えっと…
そんな風に話しかけられちゃうとなんて言ったらいいか解らないじゃない」
「ふふ、変な子ですね
あれ…ジャージの胸の部分が汚れてるよ?」
「え!?どこ!?」
「あ、気のせいだった…須藤さん」
す…
須藤さん!?な…何よ…今まで辛うじて「リリア」って呼んでたくせに…!
やっぱり怒ってて当てつけてるのね…?
「あれ…何か怒らせちゃったかな…
具合悪そうだけど医務室には行かないの?」
「別に…少し休んだら治る予定だったの」
「あんまり無理しちゃ駄目だめだよー?
ヒーローになりたいなら休める時に休まなきゃ
しんどい時は先生に言ってくれていいんですよ」
「…全部…あんたにだけは言われたくないわよ…
自分も助ける気ない癖に、他人に構わないで」
彼は私の言葉を受けて暫く固まった後、私の顎を引き寄せ
「生意気」
と言って意地悪な笑みを浮かべる。
あれ…レッド…だよね…?
こんな顔できたの…?まるで別人みたい…!
「ねえ…君可愛いね
今度俺とどっか遊びに行こうよ」
彼は言いながら私に迫る。
ち…近い近い近い!!
「行くわけ無いでしょ!バカじゃないの!?」
「嘘…行きたい癖に
それとも…先にもっとやりたい事があるのかな」
彼の顔が近づいてきて、私は思わずぐっと目を瞑る。
そんな…!何で急にこんな展開に…!
「凛太朗!」
突如、遠くから「レッド」の声が聞こえる。
…え?何で??
それに今…「凛太朗」って…
「げっ…兄ちゃん…!
何でこんな人気の無いとこにいんだよ
いいとこだったのにー」
焔によく似た人間は、そう焔に吐き捨てる。
「医務室に入ろうとしたら
俺がリリアとキスしようとしてたのが見えたからっ…!
馬鹿!本っ当に馬鹿!また俺のフリして生徒ナンパしてたな!?」
わあ…レッドったらめちゃくちゃ焦ってるし怒ってる…炎出てるし。
「ここの警備がザルで他校の生徒簡単に入れちゃうのが悪い」
焔が二人…
そういえば昨日女子達が噂してたっけ
『レッド先生…双星の可愛い子達手あたり次第ナンパしてるらしいよ?』
あれ、弟の凛太朗の事だったんだ…へえ…そっかあ…!
「せめて相手は選べよ…!」
「選んでるよ?今まで見た中でもトップクラスのビジュアル!」
「そういう事…言ってるんじゃなくて…!
君もこういう奴が出たら逃げなきゃダメだろ!?」
レッドは焦った様子で私に訴えかける。
「に…逃げるつもりではいたわよ!
そうじゃなきゃ誰があんたなんかと…!」
私は真っ赤になりながら彼に言い捨てる。
ぐううう!よりにもよって見られたくない奴に見られたくない現場を…!
「はい嘘―、結構満更でもないよこいつ!
兄ちゃんやっぱモテるよねー」
「「お前はちょっと黙ってろ!」」
「あ…はい。」
「わ、私の事はいいでしょ!それより試合…!試合は!?」
「言われなくても行くつもりでした!
あー!何でこんな事で時間潰さなきゃいけないかな!」
「そっちが勝手に乗り込んで来たんでしょ!?」
「君が凛太朗とキスしようとしてたから…!助けてやったんだろ!」
私達は顔を真っ赤にしながら睨み合う。
「もういい、俺は先に『模擬戦闘スペース』に行ってるから!」
彼は不機嫌な様子で言い捨てると、走ってきた方向へ走り去ってしまった。
「…なにあれ…兄ちゃんがあんなムキになってるの久しぶりに見た」
凛太朗はそう言って呆然と彼を見送る。
「…家では…どういう感じなの?彼」
「俺といる時は普通だけど…母さんと父さんがいる時はニコニコして
『解ってます』みたいな従順な態度で無理してるよ」
やっぱり…そうなのね…
「結構仲良さそうじゃん、彼女?」
「は!?そんな訳無いでしょ!寧ろ…敵よ!」
「あん?嘘じゃない…?敵って…はは!変なの!
敵が兄ちゃんの事本気で心配してんだ!」
は…!?私が心配…!?
「するわけない!私、行くとこあるからこれで!」
「はい嘘~!俺も付いて行こうっと」
「…あーもー勝手にしたら!」